17.突然の告白

 ゲストのコーナーが終わったあとは、その一週間の中で良かったものを暴露するという、【TOP OF THE WEEK】だった。

『さて、今週もですねぇ、いろんなことがありましたけども。冬樹は何かあった?』

『何かあった? って、ずっと一緒にいたじゃない』

『あー……いましたねぇ』

『いましたよ。あの、毎年この時期一緒にいるんですけども……。いろいろあってね、いろいろというか、海輝のね、あのー、バースデーパーティーがあるんですよ。で、毎年行ってるんですけども。あれ毎年やるけどさぁ、やっぱ楽しいね』

『楽しいですか』

『楽しいですよ。で、僕の良かったものは、その時にね、とある人物と』

『とある人物と?』

『釣りの話を出来たことが。一番良かったね』

『あぁ……。洋さんと?』

『洋さんて、確かに洋さんだけど!』

『そんなに釣り好きなの?』

『好きですよ。あの、大物が釣れたときの嬉しさって言ったらもう、格別に。今度行こうよ。また、洋さんと。三人で』

『遠慮します。行くなら、二人で行って。俺、あれ嫌いなんだよ、あの水面でぷかぷか浮いてるやつ。あれ何だっけ? あ、ウキだ。あと、ただ水面見てるのもなんか、船酔いしたみたいな感じになるからヤだな』

『見なきゃいいんじゃない?』

『え、見なくていいの? 見てなくて、その間にスゲーでかいのがかかってたりして、気づけば竿まで海ん中入っちゃってたりして、あー俺の魚ー! みたいにならない?』

『いや、そういうことはないんじゃない? そうなる前に普通気づくし』

 また冬樹は釣りの話だ。どうしてあんなに釣りが好きなんだろう。パーティーのときも洋と深夜まで話をしていたらしく、翌日はなかなか起きてこなかった。

 でも、今ここでそんな長話をしている時間はない。

『釣りはいいですよ』

『そうですか……。そんなわけでですねー、TOWでした』

 ボケのつもりなのか、海輝はコーナーを終わらせようとした。

『っと待てって。まだ終わっちゃダメでしょう』

 スタッフの誰かも、ブーッという音を鳴らしている。

『いいよ俺は別に……』

 ベシッ。

『言うのー?』

『言わないと』

『じゃあ……言います。でもこれ言っていいのかなぁ? 言ったら叩かれそうな気がする』

『残念、もう遅いよ。今さら変えても、みんな気になって問い合わせ殺到するよ』

『そうか……。ま、いいや。その、僕もねー、それがあった日は実は冬樹と同じなんですよ』

『何かあった? 海輝の誕生日……』

『あったじゃない。すごいことが。例のカフェでライブやってた時にさぁ』

『あ。ありましたわ』

『そのときに、ある人物と出会ってですね。洋さんじゃないですよ』

『確かにね。洋さん……。明日、釣り行こうかな』

『で、女の子なんだけどー、スゴイいい、子、なんですよ。今日もここに……ね……いるんですけど……』

『向こうにね。僕らより年下ですよね?』

『そう……。かわいい子ですよ』

『向こうで見てるかわいい子、あ、今隠れた。おーい……ダメだ。消えちゃいましたよ?』

『え……。本当だ……。まあ、つまりはですね、その子に会えて良かったと、いうわけです。という―─』

『呼ばなくていいの?』

『今日は呼ばない。またね、今度、あの、その子ね、有名人なんですけども、今度ゲストで来てもらうことが決まってるんですよ。その時にね、また、いろいろお話しようかなと、思います。ということで、TOP OF THE WEEKでした』

 二人のトークは一旦途切れ、CMに突入した。

「叶依ちゃん……?」

 ADの井上夏子が、放送機材の下でうずくまっている叶依を覗き込んだ。

「出てこられる?」

 叶依は首を横に振った。

(出れるわけないやん……そんな……あからさまに……)

「叶依ちゃん、ちょっと……来てくれる?」

 夏子の後ろに続いて、叶依は這うようにしてスタジオから脱出した。


「そりゃあびっくりするわよね。いきなりあんなこと言われたら」

 夏子は叶依に紙コップのコーヒーを渡した。彼女は景子の妹で海輝の叔母さんだと、冬樹が言っていた。本当だとは思うけど、ほとんど似ていない。

「海輝君ね、叶依ちゃんのballoon紹介したときも、さっきみたいだったの」

「……家で聴いてました」

「あとでZippin’の大川さんに聞いても、マネージャーの中森君に聞いても、景子に聞いても、みんな同じこと言うのよ。あの子は叶依ちゃんが――好きなのかはわからないけど、気に入ってるのは確かだって」

「そう……ですか……」

 叶依はコーヒーを一口飲んだけれど、変に緊張していて味はほとんどわからなかった。

「でも叶依ちゃん、彼氏いるんでしょ?」

「いいえ……いません……」

「えっ、そうなの? 本当に? なーんだ。かわいいからてっきりいるんだと 思っちゃった。ゴメンね。でも、結構、モテるんじゃない?」

 夏子はちょっと悪戯っぽく笑った。

「いえ、そんなに……。一人……それっぽい人いるけど……一人暮らししてたらみんなが大事になってきて。誰が一番とは決められへんから……かっこいいけど……」

「そうよね。人生いろいろあるからね」

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