16.家族の温もり

 その日の夕食の品数は、叶依の予想を遥かに超えていた。この家の雰囲気や景子の人柄からはごく普通のものしか考えつかなかったけれど、実際出されたものは、ひとり暮らしで質素な食事が続く叶依には、とにかくゴーカとしか言いようがなかった。

「今日は海輝の誕生日だし、ちょうど叶依ちゃんも来てくれたからね。私も会いたかったのよ」

 今日が海輝の誕生日というのは知っていたし、車の中でも本人が言っていた。祝ってほしそうにしていたので、とりあえず「オメデトウゴザイマス」と言ってある。

「母さん、すっかり叶依ちゃんのファンなんだ」

「あら、でも最初に『これ良い、これ良い』って言いまくってたの、海輝でしょ?」

(え?)

「え……ま……そう……。でも、良いでしょ? 良いからー、よく売れたんだよ」

(二人の宣伝効果のほうが大きいと思うけど……)

 夕食兼海輝のバースデーパーティーは、三時間ほど続いた。その間、叶依と海輝と景子は音楽の話で盛り上がり、冬樹と海輝の父親・ひろしはなぜか釣りの話に夢中になっていた。時間を見つけては冬樹は北海道に戻り、一緒に釣りに行くらしい。海輝は行かないのかと尋ねると、前に行った時にウキを見続けたせいで気分が悪くなり、それ以来一度も行っていないと言っていた。

 海輝と冬樹は顔も髪型も全く違っていたけれど、まるで本当の兄弟のようだった。海輝はともかく、冬樹が妙に葉緒家に馴染んでいて、家族にしか見えなかった。

「私、ずっと寮で生活してて──寮母さんは優しいし、友達も多いから、それなりに楽しかったけど──」

 洋と冬樹の釣り話が深くなる一方で、叶依は景子に身の上を打ち明けたけれど。最後の言葉は言いきることができなかった。

 十六年間生きてきて、家族の温もりを感じたのはこの日が初めてだった。


   ☆


「でなぁ、その日はもう疲れてたから早く寝たんやん。次の日は海輝と冬樹は友達ん家で飲み会、って出かけてったし、私も暇やったからその辺散歩行ったり……。それから

二・三日もずっと……たまにお母さん──景子さんにそう呼んでって言われてんけど──その人と買い物行ったりしてたけど、ほとんど三人で話したりしてたんやん。でも……」

「でも?」

「六日目――火曜日の夜さぁ、二人、ラジオやってるやん。生放送のやつ。それについて行って見てたんやけど」

「あ、それってあれ? 十二日か……ゲストが──Mickoやったとき」

「そう、それ。史、聴いてた?」

「聴いてたけど……えっ、もしかしてあの時の『向こうで見てるナントカ』って、おまえやったん?」

「うん」

「ほぉぇー。全然わからんかったわ」

 何度か「はぁー」とか言いながら史は立ち上がり、部屋を出て、数分後、おにぎりを持って帰ってきた。いつの間にか、十二時になっていたらしい。


 おにぎりにかぶりつきながら、叶依は続けた。

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