12.嬉しい知らせ
総合体育館を出ると、一人の綺麗な女性が辺りを見回していた。地元の人に見える、けれどあまり道は知らなさそうで、美人の噂も聞いたことがない。
「おい、あれ、あの人ちゃうん?」
史に言われて海帆と叶依が近付いてみると、
「あっ、叶依ちゃん!」
「え? あっ大川さん? なんで……今日何か……?」
女性は大川緑だった。
「良かった。実はね、私、叶依ちゃんに知らせなきゃいけないことがあったから、寮に行ったのよ。でも鍵がかかってたからどうしたのかなって思って、寮母さんに聞いたら、ここに来たって言ってたから来たの。良かった、行き違いにならなくて」
いつでもどこでもよぉ喋る女やなー……と、史は思った。
「でもなんでわざわざ東京から?」
「電話でも良かったんだけど、ちょうどこっちに旅行に来てたの。そのついでにね」
「大川先輩ー」
別の、もっと若い女性の声がした。大川より少し小柄な女性が、走りながら手を振っていた。
叶依の知っている顔だった。
大川は海帆と史に向かって、
「紹介するわね。うちの会社の塚本瑞穂。叶依ちゃんのマネージャーなの」
「塚本瑞穂です。よろしくね」
彼女は二人に握手を求めた。二人は瑞穂の手を握り返し、同じような挨拶をした。
「あれ? もう四人は? 先輩が、叶依ちゃんのほかに女の子四人と男の子三人って言ってたんだけど……?」
「あ──、一人は中でクラブの試合で、ほかは来てないんです」
叶依が答えた。
「それじゃ、あと頼んだわね」
大川は瑞穂を残して歩き出した。
「えーっ、大川先輩ー。待ってくださいよー。もーっ、いつも先に行っちゃうんだから……っと、早くしなきゃね、叶依ちゃん」
「はい」
「先輩から話は聞いてると思うんだけど、OCEAN TREEの二人が叶依ちゃんにすごい会いたがってるって言ってたでしょ。それで、会える日が決まったんですって」
「えっ、本当ですか?」
「ええ。それがね、ちょっとまだ先なんだけど、十二月九日の火曜日。大丈夫?」
「十二月九日……はい、大丈夫です」
「じゃ、決まり。また詳しいことは後で連絡するわね。何も予定入れちゃダメよー」
「はい!」
叶依は元気よく返事した。
「それじゃ、またね」
瑞穂は大川を追って走り出した。
その後ろ姿を見送りながら心配そうな史。
「あれでマネージャーやれんのか?」
史は海帆に聞いた。
「いけるんちゃう? なぁ叶依」
「うん、あの人良い人やで」
そんなこんなですっかり上機嫌になったまま、叶依は夏休みを迎えた。ときどき友人の家に遊びに行ったり買い物に行ったりするときも、OCEAN TREEに会えるという楽しみを忘れることはなかった。宿題が終わる度、仕事に行く度に、彼らに会いたいという想いは強まっていった。
そんなある晩。
叶依は不思議な夢を見た。
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