4.二人の共通点

 翌日から叶依は宣言通り、若崎を名前で呼んだ。海帆も初めは戸惑っていたけれど、やがて叶依に合わせるようになった。彼と仲良くなるまでに、時間はかからなかった。

 けれど。

 同時に増えてしまったのが、叶依と伸尋の関係を聞きたがる声。

 伸尋が実際にどう思ってるのかはわからないけれど、叶依は彼のことは友人としか思っていなかった。もちろん、きょうだいとか従兄妹ではないし、顔を合わせたのは本当に初めてだ。

 叶依と伸尋がどういう容姿をしているのかは想像にお任せするとして、二人には共通点がいくつかあった。

 クラブでは部長であり、大会に出れば必ず個人賞を貰うということ。

 伸尋はJBL(日本バスケットボール連盟)会長から高い評価を受けていたし、叶依もZippin’ Soundsからスカウトされていた。

 両親がいないということ。

 伸尋の両親のことは彼が詳しくわかっていないのでさておき、現在は祖父母と生活している。叶依の両親は海外にいるので、叶依は寮で独り暮らしだった。

 生年月日から血液型まで同じだということ。

 本当に偶然かも知れないけれど。あり得ない話ではないけれど。それでもそんな二人が出席番号で前後になって、血液型まで同じは珍しい。

 お互いに特に関わらなければ、気にする人は少なかったかもしれない。

 もちろん気にしたところで、二人の血縁関係は絶対にあり得ないので、返事も変わらない。


「じゃあそういうことで。みんなに伝えといてね」

 ある日の音楽の授業のあと、叶依と海帆にクラブの話をしていた教師の知原ちはら百合子は、

「若崎くーん」

 音楽室を出ようとしている伸尋を呼び止めた。

 ちなみに叶依が自己紹介で言っていた副部長は、海帆のことだ。

 叶依と海帆が帰ろうとすると、

「あ、叶依ちゃーん。ちょっとちょっと……」

 知原は手招きした。

「あなた達さぁ、双子じゃないよねぇ?」

「へ? 双子? 先生までそんな……」

「だってねぇ、こっちから見てて何か光ってるのよ。そう思えへん?」

 知原は笑いながら海帆と史に聞いた。

「名前も似てるしね」

 それはもちろん、叶依も認めている。

 伸尋を名前で呼ぶようになったのは、それが一番の理由だ。

「そんな、ちゃうって。なぁ伸尋?」

「双子ってさ、同じ顔やろ? 俺は叶依と同じ顔とは思わんで」

「感じは似てるで」

 史だった。

「そうそう。感じがねー、なぁんかこう……」

「だからちゃうってもー、って、もうこんな時間やん! 次体育やのに!」

 叶依と海帆は廊下を走って帰っていった。

 伸尋と史も、急いで教室へ戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る