第25話 思いがけないニュース

 ムニン22‘さんが話した事に、違和感を感じている崋山を見て、チャンが衝撃のニュースを言い出した。

「崋山、龍昂は生きているぞ。俺らがこっちに戻る時、敵が襲ってきたが、龍昂達の船が丁度やって来ていて、敵の船を撃って助けてくれた。いや、丁度じゃあなく、あの敵の船を追って来たんだと思う。今、まだ敵が来そうだからってところで、待ち構えている」

「何だって、どういう事。あの時、確か船は爆発したはず」

「いや、爆発したと見せかけて、ワープで逃げたそうだ。向うの船に、近づきすぎて、爆発したらとばっちりを、受けそうだったからね。噂でやられたことになっているから、このまま隠れていようかと思ったけれど、罪が帳消しになった事だし、それに地球が危機だから、敵を追い払おうと戻って来たそうだ。崋山達にも会いたいしとかね」

「何だって、無事ならこの辺りをうろついていずに、とっとと帰ってきてよ。アホ爺」

「あは、不評を買いそうだとは言っていたな」

「せっかくここまで戻っといて、何うろついているんだ。あ、ブラックホール砲が来るのに、地球に居なけりゃ、シールド装置内に居なけりゃあ不味いのに」

 チャンは、

「それも地球の軌道の観察に来るのを阻止するから、その船を撃てばブラックホール砲も来ないそうだよ」

「そんな保証は無いだろ。何処から観察しているか、分かるもんか。こっちに戻っていた方が安全なのに。絶対ね。ソーヤさん達もどうかしているし。あほう、あほう、あほう爺。とっとと帰って来やがれっ」

 チャンの話を聞いて、崋山が地団太踏んでいると、ゲルダがコンタクトして来て、

『ホント、あなたとは意見が合うわね。あたしが居るのが分かって、気まずくて渋っているのかもよ』

『ゲルダさん、そんな事ないでしょ。二人はきっと相思相愛だったはず』

『あら、そうだったかしら。昔の事だから、よく覚えていないの』

 崋山は何時だったか、イワノフさんが、「ゲルダも龍昂が好きだったようだ」と言っていたと記憶している。そうしたら、龍昂から『それは、初耳だな』とコンタクトしてきた。崋山は驚き、『爺さん、近くに居るのか。危ないから地球に居てよ』と言うと、『ソーヤもいるし、こっちで戦闘の加勢をするよ』とか言い出し、すっかりヘタレる崋山である。『そろそろ、隠居って事も考えて欲しいよ』、『冗談じゃない。死ぬまで現役だ』

 コンタクトでは、説得は無理だと思った。ゲルダの話を聞いても、戻って来ないんだから、どうしようもないと考えていると、今度はゲルダが、

 『あなた達、ずいぶん遠くからでも連絡し合えるのね。さすが、血の繋がりは凄い事。龍昂はあたしの事なんて、もうどうでもいいのよ。あなたに会って、リツさんを思い出して、今はリツさん一筋のはず』

『その人は十代の頃に死んでしまったんだから、過去の事だよ。ゲルダさんは生きているのに』

『あなたはリツさんそっくりらしいわよ。過去じゃあないの』

『はあっ』

 崋山は自分が昔、狐哲に片思いだった事を思い出し、不思議な気分になった。だが、

『ゲルダさんは生きているんだから、爺さんが戻ってきたら、仲直りすべきと思うけど』 崋山は、そうする方が正常だと思った。

 不満たらたらで考えていると、ムニン22‘さんと、チャンはシールド装置の設置場所にいつの間にか行っていた。部下たちが、崋山をあきれて見ているのに気付いた。コンタクトしているのが判らなかったらしい。咳払いをして、

「別に発狂したわけじゃあないから」

 と誤魔化し、

「それにしても敵の攻撃の方が、遅れているのは何故かな」

 と思わず呟いていると、崋山に治療してもらって、一息ついていたカールが意見を言った。

「遠くから、こっちを観察しているんじゃあないですかね。こっちに来て攻撃したって、迎え撃たれるに決まっているから」

「だよね、俺もそう思う」

 崋山は『カール、利口だ』と思い、

「おおい、じじい、皆、敵は近づかないんじゃないかといっているし、早く戻ってこい」

 崋山が急に、大声で叫ぶので、周りの部下達は引いている。

「ちょっと、爺さんにコンタクトしているだけだから。狂ってないから」

 崋山は言い訳しながら、爺さんに伝わったかなと思っていると、『そのようだな、今、ズーム社の奴らが地球から逃げ出しているのが分かったから、もうすぐ攻撃だな。奴らの船を、撃ち落として置いてやったぞ。崋山。おそらく主だった上層部の奴らだけ逃げ出したな。ズーム社の片も付けたし、ソーヤさんと軍のステーションに降りる事にするよ。安心しろ』

「そうなのか。俺のする事はもうないのか」

『だから、仇討ちは俺らに任せておけと言っていただろう。お前は病人や怪我人を治すことに専念すればいいんだ』

『じじい、いまわの言葉みたいなの言わずに、とっとと来いよ』

『はいはい』

 崋山はコンタクトが終わると、急いでムニン22‘さん達の居る地下に行き、

「地球の観察は遠方から済んでいる様です。今、敵の配下のズーム社の連中が地球から逃げ出しているのをソーヤさん達で撃ち落としたと連絡してきました」

「そうらしいね。司令官室にも連絡が来たと、戸田さんから言われた所だ。シールドを張ろう。味方の船は通れるかと聞いてきたが、大丈夫なんだよ。物質の次元とは別次元のシールドなんだ」

「はあ、そうなんですか」

 崋山は言われても分からないレベルの話は、スルーしておいた。

 すでにシールドを張り始めているらしい。ソーヤさんや爺さん達が、本当に地球に降り立つ事が出来たのかどうか分からないが、地球のシールドの方が大切な事なのは分かっている。崋山は、分かってはいるが、全く持って、爺さん達の行動には、神経がすり減っていた。本当に無事かどうか顔を見るまでは、安心できない。

 ムニン22‘’さんが崋山に振り返って、にっこり親指を立て、第3銀河人の上手く行った時のサインをしてくれた。彼は実に第3銀河の風習に通じている。何時かの疑問を思い出した。

「ありがとう皆さん。ムニン22‘’さん世話になったな。それにしても随分第3銀河の事に詳しいムニン22‘’さんだけど、一体年齢は、何歳なんですか」

「何だか答えにくい事、聞くんだね。この星の時間と、こっちの時間は測り方が違っているからな。明らかに一日の長さは、第16銀河の方が長い。一年間とか言う区切りも俺らの銀河とは違う。君たちの寿命よりはかなり長い事ははっきりしている。俺らの人種間、個体差もかなりあるし、ざっと概算でも平均して2~3倍の寿命の違いが有りそうだな」

 どうやら崋山の予想をかなり超えていそうだ。

「その2~3倍の寿命の、俺は半分以上は過ぎている」

「150歳位とか?」

 ムニン22‘’さんはにっこり、

「そんな所かな」

 と言った。崋山は、

「お見それしました。数々の失礼な言動反省しています」

 と言うと、

「何言っているんだ。友達になったじゃあないか。忘れたの。大部疲れているね。シールドも貼り終わったし、基地に戻ろうじゃないか。ゆっくり休んだ方が良いな」

 そう労われて、ムニン22‘’さんと、基地に戻る事にした。ムニン22‘’さんは実の所任務とかではなく、崋山の所に遊びに来たと言い出した。

「従兄が崋山の居る惑星に任務で行くと聞いて、ついて行こうと思ったのさ。俺は親父の仕事の見習いだけど、そう言うのは世襲で、今の所、一緒に居ても居なくても構わないんだ。役立たずのムニン22‘’だ。名実共にね。だから、実際の君たちの星の文化を調べに来た。しばらく滞在するつもりなんだ。基地の片隅にでも、居させてくれよね」

「そうだったのか。いいよ、好きなだけ居ても、でも都合よく暮らせる間だけにするよね。俺がくたばった後の事は保証できないよ」

「あはは、俺の性格良く分かっているね。心配いらない。此処を根拠地にして、方々旅行するけど、ちゃんと順応して暮らすし、引き際は察しが良いんだ」


 何もかも片付いて、交代して非番となった部下達と、家族のいる本部へ戻って来た崋山は、ギルンにムニン22‘’さんを住居へ案内するよう頼み、最上階のイヴ達の居る部屋へ急いだ。

 部屋に入り、

「イヴ戻ったよ。ゴメンね。帰ってくるのを待っていられなかった。でも、シールドを張れた。俺の役は完了だ。明日は休み」

 眠っている二人に気付き声を落とした。イヴは、にっこりし、

「そんな事、謝らないで。でも、声が大きいのはどうかな、ほら、お目覚めだ」

 揃って泣き出した双子を二人であやしながら、

「あたし、名前決めた。ジェイドとアゲートよ。お爺さんのお姉さんたちの名にちなんだの。

 幸せになるべきだった人達の、仕切り直しよ」

「イヴ、考えたね。爺さんが聞いたら喜ぶよ」

「妙な言い草ね。その辺に化けて出て来ている訳」

「もうすぐ生身の奴が、出て来るよ」

「なんだって」

「生きていたんだとさ。船が爆発したと思わせて、ワープでずらかったんだ。実際、キャプテンズーの船に近付きすぎて、爆発したら巻き込まれると思って、ワープしたんだけど。俺らは置いてけ堀さ。で、きっと爆発したと思わせて、穏便にずらかったんだ。脱獄して不味い事になっていたし、俺は刑が軽かったしね。捕まっても大丈夫と思ったんだろう。置いて逃げたとも思われたくなくて、船が爆発したように誤魔化したんだ。でも、罪は帳消しになったし、地球の危機に助太刀のつもりで出て来たそうだ。軍のステーションに寄港して、じきこっちに来る。ソーヤさん達と一緒に戻って来るそうだ」

「へえ、驚きだね、じゃあこの間の第20銀河からの情報は、フェイクニュースだったんだ。きっと、あっちにワープしたんだ」

「そうかもしれないね。やれやれだな。レインやアンに教えに行って来る」

 崋山が立ち上がろうとすると、レインやアンが部屋に来た。

「本人から、俺達に言って来たよ、たった今。全くあいつのやりそうな事だ。ああ言う殊勝な死に際は似合わないよな、考えてみれば。しぶとい爺さんなのだから、長い間一緒に過ごした俺が、疑うべきだった。すっかり騙されてしまった。今にしてみれば、いつもの事だ」

「俺も実際に見て、信じられなかったけど、本当に爆発したように見えたんだ。すっかり騙されてしまった。船はまだちゃんとしているように見えたんだけど、爆発して驚いたな、あの時。まったく、もっと長く一緒に居たら、騙されなかったはず。爺さん、やっぱり只者じゃあなかったんだ。さっきも早く地球に戻れって言うのに、敵の船が来たら戦うんだとか言って、戻って来やしない。ブラックホール砲が来たらどうするんだと言っても、まだ来ないとか言ってね。きっと、ソーヤさんは付き合わされていて、困っていたと思うな」

 とうとう、爺さんの文句で親子は息巻きだしたが、ジェイドとアゲートが泣き出して、

「ちょっと五月蠅かったかな」

 と言って黙る事にした。

「まあまあ、二人とも、生きて戻って来てくれたんだから、喜んでちょうだい。それはそうと、ゲルダさんがどうするかしら、あたしらより、彼女の動向が気になる所ね」

 アンがイヴにこそこそ言い出した。崋山は、

「いくら小声で言っても、聞こえているよ、ママ。テレパシーで」

 うわさ話にならないように止めた。

「そ、そうよね。でも知っているでしょ。崋山だって。あたし達が騙した、騙された。とか言うのとレベルが違うものね。あれは。でも、そうよね。あたしらがどうのこうのと言う立場じゃ無かったわね。黙っているわ。さあジェイドちゃんとアゲートちゃん、曽お爺ちゃんが来るわよ、良かったわねえ、生きているのよ、幽霊とかじゃなく」

「お母さまったら、結構冗談キツいわね。あはは」

 イヴは幸せで、何につけても笑いたくなった。

「爺さん、能天気な俺らに会う前に、ゲルダさんに会ってケジメつけないとね。騙しのレベル違うし」

 聞いているかどうか知らないが、崋山は見解を述べた。

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