第24話 本気
追い抜きながら、荷台に乗っていた崋山は、トラックに乗っている面々の面構えを観察した。数人ぞわっとした違和感のある奴が見て取れた。本性が出て来ているのではないだろうか。
カール達に、
「奴ら見て、どう思った」
「何時もとは感じの違う奴が居ました」
カールが答えた。他二人も、
「変な顔つきの奴は、アメーバーもどきだったって事ですか。誰ももう、風呂に浸かる奴は居なくなったから、変わってないと思ったけど、何時から変わっていたのかな。前からだったんですか」
崋山は、
「俺は最近ここに来たから、タイミングは分からないが、いよいよシールド設備が出来上がるから、本性を現したのかもしれない。しかしあいつらは自分のしている事の意味が分かっているのかな。ブラックホールの事を知っているのか聞きたいものだな」
「ブラックホールって」
「何だ、お前らも知らなかったとか。そうだ、演説とかで言うべきだったんだ」
崋山は反省した。
「宇宙船が到着しましたからね」
とシューが慰めるが、そもそも始めから演説は考えていなかった事は、この際黙っておく。
崋山は三人にザッと話した。
「俺たちのやっている事は、戦争で負けた敵銀河の残党が、この地球にブラックホール砲を撃って来るのをシールド装置で、囲って防ぐことで、今までその装置の設置場所を作っていた。何時撃ってくるのか分からないから、急いでいるんだ。察しているだろうが、ブラックホール砲に撃たれると言う事は、地球がブラックホールに吸い込まれると言う事で、はっきり言って皆存在しなくなる。だから、邪魔している奴らも、自殺行為のはずだが、分かっているのかなと言う事だ」
カールは、
「俺らが、今知ったんだから、アメーバーもどきも知らないんじゃあないかな。只、邪魔をしているつもりだろう」
と、予想した。崋山は、
「皆に演説しておけばよかった」
つくづく後悔した。ジョーが、運転しながら、
「今からでも、言っといてはどうですか」
良い意見である。
そこで崋山は立ち上がり、後ろに続く面々に向って叫んだ。
「お前ら、先に行っていたにしては、随分ごゆっくりだな。言ってなかったけど、敵は俺らが、ブラックホール砲を防ぐシールド装置の設置を邪魔しているんだ。こっちは急ぐ方だぞ。呑気にしてやられたいのか、さっさと走って、どうして先に出来る事をしていない。死にたいのか、皆。ブラックホールって、知っているかな。近くに在るものは皆ブラックホールに吸い込まれて、無くなるんだぞ。負けたら地球はブラックホールに吸い込まれる。地球上に居る俺ら全部一蓮托生だ。こっちは本気で急いでいるんだからな。」
崋山持ち前の大声で、叫んでやった。
ズーイが、
「それ、先に言ってよ」
と、叫び返した。無理もない。
「パニックになる奴が居たら不味いと思ってな」
と誤魔化す。
「通常、お前らは命令通りに動いていれば良いと言うのが、今までの軍の方針だった。だが、これからは、自分で考えて欲しいから、発表する事にした。向うについたら、本気出せよ。生きるか死ぬかだ」
見ていると、皆パニック風に一時ざわついたが、だんだん収まって来た。アメーバーもどきは特に驚いている様だ。利口な奴らだとゲルダが言っていたから、理解出来たのだろう。ひょっとすると、このまま協力する気になったかもしれない。
そういう事で、トラックが入れるところまで行くと、巨大レーザー砲のセットは、皆、滞りなく動いて準備している。
崋山はあんちょこを持って、地下に行き、どんよりしている皆に、
「皆さん、良い知らせです。船から司令官室に、ムニン22‘さんのあんちょこ、つまりシールド装置のセット方法が送られて来ていました。これでセットして下さい」
ムニン22‘’さんにコピーを渡した。崋山には分からないが、きっと皆は判るだろうと期待した。
ムニン22‘’さん、他の人達に見せながら、
「さっきやった事、違ってない?」
とか言っているのが分かった。
何か早まった事をして、ミスしていやがったのか。崋山は内心愕然とした。かっとなったが、皆わざわざご足労の上、俺等の為に良かれと思ってしてくれたのだ。ここは、深呼吸である。崋山は少しムニン達の言葉が分かっていた。知らぬが仏と言う言葉が頭によぎった。このままそそくさとセットする気では無いだろうな。しかし、もう一方の人からは、
「そうそう、こうだった。思い出したよ。修正しよう。後は合っているんじゃあないか」
とか言い出し、ほっとする。
ムニン22‘’さんが、崋山ににっこりし、
「さっきから俺らで工夫していたんだが、これを見て修正すればばっちりだった。きっと奴らが撃って来るより先に装置は準備できる。皆、勝機があるから来ている。崋山、安心して良いよ」
間に合うと聞き、ほっとする崋山だが、そもそも、撃って来る時期を彼らは分かっているような口ぶりである。
「ひょっとして、何時攻撃して来るか分かっているの」
聞いてみると、ムニン22‘’さんは、
「ここに距離を合わせるにしても、この惑星の動きを観察しないと当たらない。確実にこの惑星にピンポイントで会わせて撃たなければ、効果が無いからね。それほど広範囲にブラックホールは出来ないそうだ。だから、動きを観察がてら、装置の設置を攻撃して邪魔しに敵がやって来る。でもまだ。来て無いだろう。だから間に合うって事さ。敵が来たら、攻撃間近だな」
「なるほど」
崋山は納得した。装置設置の邪魔をしにやって来て、引き上げたら、撃って来ると言う事だ。装置を崩されるわけにはいかない。
「俺の役目はこっちは終っているから、敵の迎撃の方に行こう。後は頼んだよ。ムニン22‘’さん。皆さん、お願いします」
崋山はそう言って、地上に出てみた。皆協力して、迎撃砲を設置していた。皆分かってくれたらしい。崋山のシステムに、ソーヤさんの船から知らせが来た。月の近くまで戻って来た。敵よりも早い。どういう事だろうか。母船は地球の近くに待機しているが、小型の宇宙船一機でチャンがムニン22’さんを連れて、戻って来るそうだ。シールド装置は、ムニン22‘’達皆でセットしていたが、仕上げに出来上がりを見てくれるので、また一安心である。
それにしても敵の地球観察がまだなので、余裕の感がある。
暫くして、基地の方を見てみると、チャンの小型宇宙船が、基地の運動場に到着している。空のトラックで迎えに行く事にした。ジョーが運転すると言った。任せて横に乗ると、
「司令官、さっきの演説で、変に見えていた奴らが、普通に任務を続けていましたよ。あの話をしなかったら、俺等の邪魔をする気だったのかな、今は普通の顔で何事もなかったけれど、あいつ等アメーバーもどきなんでしょ、そしてこれからもずっと人間になって暮らすんですかね」
「そうだね、俺等は見てしまったし、捨て置けないが、今の状態を壊したくない。これから敵が攻撃してきたら、どうするかな。それを見てからだとまずいかな。それはそうと、ビーの様子はどうかな」
「ビーの話がどうして此処で出るんですか」
「あ、さっきの話はセイレスやギルンは知っているけど、此処に居た他の奴には言っていないな。それでさっきビーの様子が地下に降りた時変だった。地上に俺が行く前に先に上がって行ったようだったから、お前に聞いてみた」
「俺は会っていませんけど」
「ふうん。俺の気のせいかな」
「皆、疑心暗鬼になりますよね」
そこへ、ズーイから緊急連絡が入り、ビーが何故か形相を変えて、地上から地下へ行こうとして、カールに止められて、自爆したと知らされた。おまけにカールはとばっちりで怪我をしたと言うので崋山は、アメーバーもどきには、自爆装置が入っていると分かった。
「ジョー、戻ろう。あいつ等自爆装置付きだ。それに、カールが怪我をしたと言うから治さないと」
「ひょっとして、奴ら全員に入っているとか」
ムニン22‘さんは、歩いて来てもらうしかないと思い、崋山は急いで装置の場所に戻った。
一度目の爆発で感付き、地下の装置設置場所では内側からロックしていた。そっちは良かったのだが、地上の皆は、アメーバーもどきの爆発に、付き合わされるか、逃げて避けることが出来るかの戦いになっていた。仲良く迎撃砲の設置に協力していたが、出来上がったころに崩す気でいたのだと分かった。どっち道、奴らは死ぬ覚悟の妨害だった。皆逃げて、火傷や軽いけがをしていたが、命に別状はなかった。迎撃砲は意外と丈夫だ。見た所壊れてはいないが、崋山は近くの怪我をした部下を癒し能力で直しながら、見回すと、人員はほぼ半数近くになっていた。驚異のはびこり方だった。ズーイの以前の報告で、あっという間に分裂すると聞いていたが、これほどまでとは知らなかった。ジョーが思い出したように、
「そう言えば夏に非番の皆で海に遊びに行っていたな。あの時のメンバーみたいだ」
崋山はそう言う事かと思った。
そんな時にチャンとムニン22‘さんが、歩いてやって来た。チャンは、
「このありさまは、何があったんだ。敵の船はやって来てはいない筈なのに」
と、驚くので、崋山は、
「第9銀河のアメーバーもどきの仕業です。自爆ですけど」
と言うと、納得した。
ムニン22‘さんは、本当に全く崋山の知っているムニン22’‘さんそっくりだった。崋山は、
「はじめまして、良くいらっしゃいました。この度の事、本当にありがとうございます」
と、挨拶すると、
「いやいや、これは私の大事な任務だからね。それに従弟が君たち一家にとてもお世話になったそうで、私からも恩を返したいし。そうしたら、また助けられたね。お蔭でここにたどり着けたよ」
「・・・」
崋山はムニン22‘さんの言葉に、少し引っかかるものを感じた。何か話が食い違っている感じがする。
するとチャンが崋山に衝撃のニュースを知らせた。
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