第23話 失態
慌ただしく皆は設置場所の掃除をして、整えていると、崋山に、イワノフが、
「どうやら、到着の様だぞ」
と教えてくれた。軍の最新型ヘリの音がし出した。
迎えに崋山が、地下から出てみると、到着したヘリからは宇宙服を着た一行がお出ましになり、その中に何と、あのムニン22さんと思しき風体の人が混じっている。知らなかったが、彼が来ているのかと気になりながら、他の技術者一行を出迎え挨拶を交わしていくが、奇妙な事に、皆元気がない。
ムニン22さんっぽい人に、
「黙っているけど、ムニン22さんでしょ」
と少し声を落として聞いてみた。元気無い訳はこっちとしては無いけれど、ムニン22さんの方は訳あり感がひしひしとしている。
「俺が分かるか崋山。面目ない。俺ら一同大失態をやらかしている」
「大失態?」
崋山も失態は得意としている感があるが、彼等のしょげ方は尋常ではない。
「何があったの」
小声でムニン22さんに聞くと、
「肝心の技術責任者、俺の従兄のムニン22‘(ダッシュ)を乗せずに来てしまった」
「何だって、とういう事は・・・」
「すまない。俺らは君たちの言葉で言うと、(他一同)って言う所だな。俺の従兄が肝心の設置能力のある唯一の人です」
「なんで乗せなかった?」
「俺と従兄は脱出装置の近くまで来ていたんだが、途中で、彼が忘れ物に気付いたんだ。彼が作成中の、もしもの時の為に、君たちの言葉で平たく言うと、あんちょこと言うか、これを読んだら誰でも設置できます、と言う設置ガイドを考えて、入力していたシステム手帳を、部屋に置いて来たと言って、戻って行ったんだよ。俺に「先に行って居ろ」と言ってね。俺も一緒に戻ればよかったんだが。最近足を痛めてしまっていて、つい、先に行きかけていたら。乗務員が俺を見て、早くしろと引っ張って急がせたんだ。従兄と俺はよく似ていて、俺をムニン22‘(ダッシュ)と勘違いしたんだ。俺は引っ張られるままに脱出装置に放り込まれると、それと同時に、ワープしちまった。ワープが始まって俺は、間違えられたと分かったが、後の祭りさ」
「つまり、設置する人もあんちょこも無しって言っているんだね。あるのは設置できないシールド装置だけって事」
「そうです」
しおれるムニン22さん。因みに正式にはムニン22‘’(ツーダッシュ)さんだそうだ。苗字である。
「これからは役立たずの方のムニン22と呼んでくれ」
そう言われても、崋山はどうしたものかと思った。
「敵はシールド装置がこっちに渡ったと思っているだろうな」
「そうだね、それだけ、だけど」
役立たずの方のムニン22さんが返事をする。
崋山は、
「奴ら、撃つの諦めてくれないかな。無理かな。・・・そうだ。もし、時間との勝負と思ったらまずいぞ、これは。彼、ソーヤさん達が戻って来る船に乗っていないかな」
「だと良いけど、俺達の乗っていた船はかなり損傷した。無事にそっちの船に移っていれば良いけど」
「ソーヤさんに聞いてみよ」
イワノフさんが横から、
「さっきはズーム社の奴が電波障害を起こしていて、ソーヤさんは崋山と連絡出来なかったようだが、今は出来ればいいがな。ロボットの遅れだけかと思っていたが、通信も妨害されていた。ソーヤさんは、司令官室に連絡していたぞ。まだ連絡出来なかったら、司令官室でだな」
「そうなんですか、あ、通じました。良かった」
「ソーヤさん、お疲れ様です。疲れるほどの事しなかったって、そんなことは無いでしょ。それより、ムニン22‘さんは救助されましたか。あ、やはり居ますか。良かった。ワープ出来ますか、その船。そうするんですね。じゃあお願いします」
懸念が晴れ、ほっとする崋山。
「ムニン22さん、従兄さんは無事です。少し遅れますがこちらにソーヤさんの船で来ますよ。だけど、その前に敵の船が、ムニン22さん達を追って、こっちに到着しますね。こっちは戦闘の準備です」
崋山は部下達を振り返り、
「カール、ズーイ、基地に残っている皆に戦闘準備させろ。敵はまだ来てないと言う事は、向うも体制を整えてから来る気だな。肝心のシールド装置の守りを固めよう。他の所が攻撃されても仕方ない。この際、放って置くしかない。だけど、敵はここに装置を設置すると知っているのかな」
ムニン22さんは、
「おそらく連合軍本部にスパイが入っていると思うな。分かっていると想定した方が良い。こっちの船の動きが分かっていたから」
「そうだろうな。地下に設置したのも、その想定だろう。ギルンとセイレス達は装置類を搬入するのを手伝って居ろ。そして、俺が居ない間しっかり護衛だ。俺は指令室に戻って、こっちに通じなかった分の通信の内容をチェックしに行って来る。ズーム社に傍受される訳にはいかないから、情報は通信できない。それから、キースさんとルルさんは、基地地下室と此処とどちらに居ますか。ここの役はもう終わっていますよ」
キースさんは少し考え、
「本部の俺ら用環境の部屋に戻ろうかな、ルル。少し休もう」
と言って、崋山と基地に戻る事にした。
本部に到着し、運動場の方から入ってみると、崋山の部下たちが連合軍の新しい戦闘服を配給してもらっていたらしく、見慣れた姿が大勢居て以前を懐かしく思い出させられた。準備出来たらしい班から出発しだした。随分大きなレーザー砲らしきものを分けて運ぼうとしていた。
「あんな代物ここにあったかな」
キースさんが、
「俺等が来た時、ああいう武器もかなり持って来ましたよ。重量があるので、戦艦に積んで運んでいます。崋山は忙しくて気が付かなかったでしょうけど、戸田さんがああ言うの、把握しています」
「なるほど、忙しいと言うより、いっぱい、いっぱいの精神状態だったからな」
『皆、俺をフォローしてくれていたんだな。気付かないうちに』と思っていると、マーガレットがひとりで、こっちへ駆けて来た。
「パパ、大変なの。今ね。ママと赤ちゃん達が居なくなっちゃった。カイおじちゃんは怪我したし、ルークおじちゃんは、ママ達を追いかけて行っちゃった。お婆ちゃんは床にのびちゃって、おばちゃん達は皆の介抱よ。皆でパパが早く来ると良いねって言ってる。だから知らせに来たの」
「何だって、偉かったね。直ぐ皆の所へ行こうね」
とマーガレットを抱いて行こうとすると、ゲルダの怒りコンタクトが来た。以前のイヴの怒りメールを彷彿とさせる。
『『こっちは間に合っている。あんたは軍の仕事に集中しろ。あたしらそのために来たんだからね。マーガレットは、あたしが居ないから探していたんだ、そしてパパが居たから駆け寄ったんだよ。あたしはルークと一緒だとマーガレットに言っておやり。構い手が居なくなって不安だろうけど。あんたが言って聞かせなさい。そして、さっさと今やっている事をしろ。もう片付いたから、双子とイヴを連れて帰る』』
『そうだったんですか。ありがとう、お世話になりました』
『『水臭い事言うんじゃないよ』』
何だか頭がキーンとして来た。ルルが心配して、
「崋山大丈夫?」
「いや、何でもない。皆をルークとゲルダが、連れて帰るって、マーガレット、だから心配いらないよ。もう片が付いたんだ。皆に世話になっちまってる」
「皆当然の事をしている」
ルルに訂正され、
「そうだった」
崋山はちょっと、涙が出て来て、マーガレットの服で拭った。
「パパ、そこんとこ冷たくなるのよ」
「ごめん」
「良いの。言ってみただけ」
崋山はゲルダに言われてはいたが、怪我したカイと、倒れた祖母を癒して、仕事に戻った。
司令官室には、ムニン22‘さんを船に乗せた後、直ぐにソーヤさんがこっちに送っていたのだろう、例のあんちょこが送られて来ていた。
「すごい。この図」
戸田さんが気をきかせて、コピー済みなので、それをひっ掴んで外に出ようとすると、悲壮感漂う戸田さんと目が合った。そうだ、まだ知らないのかもと思い、
「ゲルダから連絡があった。イヴと双子は連れて帰っている所だって、皆頑張ってくれている、イヴ達に会って確かめたいが、これを急いで持って行く。他の奴には任せられない。今じゃあ誰がアメーバーもどきか分からない」
「察したのか、兵士の数人はそれだった。そいつらが襲って来たんだ。交渉の人質のつもりだったんじゃあないかな。取り戻せてよかった。お前につらい選択などさせる訳にはいかなかったんだ。良かった。奴ら、頭から潜らないと元には戻らないんだと分かった。事情を調べたら、皆、頭は出していたそうだ。気をつけるんだぞ。まだ居るだろう」
「そうなのか。分かった」
崋山はあんちょこを胸ポケットに入れると、最後の武器を積んだトラックを呼び止め、乗った。最後のには、カールとシューが乗っていた。
崋山はもっとアメーバもどきの情報が欲しくて、ちょっと恍けて、
「お前ら、あのプールの騒ぎの時、あそこに居たんだったかな」
崋山の意図を知らないシューが憤慨気味に、
「居ましたよ。俺等、ズーイと同じ班ですから。司令官が居なくなってから、ズーイが俺等を次々にプールに放り込んで、大騒ぎです。お蔭で皆、頭からずぶ濡れです。カールが怒って、またズーイをプールに引きずり込んで、皆、気が済んで、片付ける事にしたんですが、それからあのアメーバーが復活しました。ズーイが司令官にどう言ったかは知りませんが。大体以前、カールは司令官室長だったけど、三段階降格で班長になり、さぼって出て来ないのを、カール欠勤とか馬鹿正直に出勤票をズーイが出すもんだから、また降格で一番下っ端まで落ちて、それからズーイはカールを出来るだけ避けている訳です。さっきも何を先に乗せるかでもめて、ズーイは最初のトラックで行ってしまいました。で、俺等で全部乗せ終わり、最後のに乗ったんです」
「なるほどねえ」
崋山は意図としない情報ももらったが、この際、目の前の部下だけでもこの切羽詰まった状況を、言っておこうと思い。
「言っておくが、あの夜のお前らのアメーバーもどきチェックは出来ていない。皆バスタブに潜っちゃいないだろう。頭まで水をかぶらないと正体を現さないんだ。水の量は関係ない。
全身水の中に入るのが肝心だったんだ。だから、俺等がこっちに戻る前に正体が知られなかったアメーバーもどきの奴らが、俺の家族を誘拐していたんだが、俺の従兄のルーク達が追いついて取り戻した。この件は片が付いたが、おそらくまだ居る」
カールが、
「それ、ズーイは知っていますか」
「先に行っちまっただろう。お前らに言ったのが最初だ。つまり、頭から水をかぶった事のない奴は信用できない」
カールは、
「プールに居なかった奴、全員ですよ。言っておくけど」
「言われなくてもわかって居る。だからお前らに忠告したんだ、今ね」
シューは、
「ズーイの奴どうしているかな、今頃。正体不明の皆でシールド装置んところに乗り込んでさ。変な動きする奴にちゃんと対応して居ればいいが。ヘマしたらギルンの二の舞的だな。これ運転しているジョーもプール組だから俺らは安心だけど。おい、ジョー急いだ方が良いぞ」
「スピード上げてるの分からないか、重たいからそれほど出ないけど」
とジョーが言い返した。
崋山は彼らが段々、自分の頭で考えだしたなと思った。
重い積み荷ながら、スピードを出したため。さほど急ぐ気が無いらしい、前の一団に追いついた。山をぐるっと回ってゆく道しかトラックで行けないので、先頭のトラックもまだ先を走っていた。
「でかした、追いついたぞ。追い越して先頭に行け。逆走だって?このトラックに勝つ車があるか。出会った向うが避けるさ。とっとと行け」
崋山は命令した。自分でも上司が身に付いて来たと思う所だ。状況は混沌としてはいるが、
最悪の事態を想定するほどの脳力でない方が、何とかやっていけるとも言えそうだ。
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