第22話 妨害
連合軍の宇宙船に乗って地球に向っている、シールド装置設置担当の御一行様の護衛は、この所、あまり登場していないソーヤさんとチャンの担当だった。
そう言う事で、彼等が率いる軍隊の乗った戦闘用母船が連合軍の宇宙船を出迎えに行っていた。
崋山が留守にしている司令官室に、そんなソーヤさんから緊急連絡が来た。司令官室に控えていた戸田さんは、何事かと緊張して、通信を受けた。ソーヤさんは、
「戸田君か、崋山はどうした。奴のシステムにいくら連絡しようとしても、通じないぞ」
「崋山は今。装置の設置設備を現場で監督しています。連絡が付かないんですね。何かトラブルだろうか」
「何だと、勘弁してほしいな。こっちは連合軍の母船が敵にやられてしまってな。こんな時の為に積んである装置一式と、技術者だけワープさせて、地球のどこかに飛んで行っちまった。早く味方が見つけてそっちに連れて行かないと、ズーム社の奴らに先に確保されては、元も子もない。崋山のトラブルはどういう類の物かは知らないが、戸田さん、後は任せるぞ。何とかしろ。何もかもパーになる前にな」
戸田さんは、初めて動悸がして来た。
隣の部屋で仕事の引継ぎをしていた、ギルンやセイレス、ズーイやカールが、直ぐに戸田さんの所へ来た。戸田さんは、
「二手に分かれて、装置と技術者の捜索と、崋山に報告をしに行け。崋山はトラブっているかもしれない。ギルン、もうお休みは取り消しだからな」
「了解」
四人は素早く出て行った。ギルンは、しおれている場合ではないと理解した様である。しかし、カールを呼ぶ機会を与えてくれて、良かったとも言える。戸田さんは少しカールを持て余していたのだが、崋山ならうまく操れるかもしれない。ああいうタイプは、優れた上司と認めて居なければ、手に負えない。
非常事態とはまだ察していない崋山達、しかし彼らもまだ自覚してはいないが、似たような状況になりつつある。
電波塔に行ったイワノフさんが戻って来ない。気になった崋山はカイに様子を聞いた。
「おい、お前の親父、今どうしているんだ」
「トラブっているなあ。ズーム社と鉢合わせで。でも、そのうち戻るよ。俺達は婆さんがここに居ろって言って、動けない。もうすぐこっちにもトラブルの種がやって来るそうだ。護衛に残る。それから、ズーイとカール一行がそっちに向っている。ギルンとセイレス一行は吹っ飛んでこっちに来た、シールド装置と技術者様御一行の保護に行った。場所はゲルダ婆さんが教えたけど、ズーム社も来そうだな」
「何だってー。俺はどうすれは良いんだ」
「ロボット君たちの護衛に決まっているだろ。お前が動いたら崩しに来るぞ」
崋山は皆が大忙しなのに、ここに居るのがたまらなかった。しかしルルに、
「崋山の担当でしょ、設置場所の整備。それも、予定より遅れているし」
と言われてしまった。
がっくりした崋山だが、直ぐがっくりどころでは無くなった。一番来てほしくない虫さんのお出ましだ。崋山が居なくなるのを、待ってもいられなくなったらしい。カイがうろつくなと言ったはずである。山の地下に装置の設置場所を造ったが、奥の壁を食って、崩れた隙間から次々に出て来だした。火炎放射器の事を失念していて、お蔭で崋山は一人銃で応対である。黒い塊を銃でけん制する。キースが火炎放射器を探そうとするが、
「俺の側を離れるな。やられるぞ。もうすぐズーイたちが来る」
と言いながら、たまらず、大声をありったけ出して、
「おおーい、火炎放射器。火炎放射器、持って来い」
と叫んだ。あいつ等に、聞こえたかなと思う場所からだが、ついでに、
「銃弾もな」
と叫んだ。銃弾は、もうすぐ無くなる。設備に近付く虫。お手上げだけど、手を上げる暇もないと自嘲気味に考える崋山である。限界を感じて来たし、弾も限界である。キース達二人の銃も使うが、火炎放射器でなければ手に負えない、涙目になりそうなところで、二人が来て火炎放射器で燃やし始めた。ほっとするが、近づいて来た虫はお得意のぴょんぴょん飛びを始めた。手や指はすでに疲労で限界に近付いた感じなのに、崋山はこれからが勝負なのが分かった。
下に捨てていた崋山の弾切れ銃に弾を詰めたルルは、それを差し出し、
「切りの良い所で受け取ってね」
とスタンバイしてくれた。崋山はぴょん飛びの隙を見つけて、素早く銃を変えた。
そこへ、少し遅れて火炎放射器を手にした部下達が揃い、人数は十人ほどになった。増えたために、虫の塊がばらけて来る。しかし、ぴょん飛び虫が多くなった。今の所命中している。限界が近いが外す訳にはいかない。撃ち損じたら虫は設備を食い出し、設備を食っている虫はもう撃つ訳にはいかない。また涙目になりそうなところへ、イワノフが戻って来た。ぴょん飛び虫を撃つ加勢をしてくれ出した。
少し、人心地付いた。先が見えて来る。虫の塊は無くなり、ぴょん飛びだけになり、リズムが無くなって来た。と言う事は、
「わあっ、外した」
崋山が叫ぶと、イワノフが素早くフォローした。そしてとうとう、全部片付いたと思われる状態になった。崋山の手が、まだぴくぴくして、
「手が笑う笑う」
と冗談を言いながら、
「お前らグッドタイミングだったな。ありがとう」
上司として、気を使って礼を言うと、
「いえ、もっと早く来るべきでした」
と、カールがきっぱり言った。
ズーイが、
「いつ見ても、物凄い技ですね」
と感想を言うと、カールに、
「そんな言い様、失礼だ」
と殴られている。
『カールもズーイとは良いコンビになったようだな』と崋山は思い。そこら辺の椅子に座って、休憩した。キースとルルが虫を片付け始めると、カールとズーイは、俺等がしますとやり出した。
じゃらじゃら大変な量になっている。時間が係りそうである。
「シールド班の進歩状況はどうかな」
と呟くと、イワノフさん、
「後2、30分でこっちに来れそうだな」
と報告してくれた。意外と早い。
「げっ、さっさと退かさないと・・・、このゴミもズーム社に送ろうかな。この段ボールに入れようよ」
崋山が部品の入っていた段ボールをセットし出すと、
「またやるんですか。ズーム社、司令官の皮肉に今に切れるんじゃあないかな」
懲りずにズーイが無駄口を言って、カールに殴られそうになったが、今度は油断なく避けることが出来た。せっせと虫を詰めだした崋山を見たルルは、
「本気なんですか」
と呆れるので、
「本気、本気、ゴミはズーム社へ。その内、俺の意見として、環境整備会社に一本化しろって言っているのを、察するんじゃあないかな」
崋山はせっせと虫の死骸を段ボールに入れた。仕方ないのでカールとズーイ、他の部下達も上司に倣い、何とかシールド担当の一行が来るまでには片付いた。崋山はズーイに、
「俺の名入りで送ってくれて良いからな。そうだな、この量だからなあ。軍の予算額だって決まっているだろうから、俺の手出しで送っとけ」
「そんな事しなくったって、通信費で出して良いんじゃあないですか」
また殴られそうになるのをさっと除け、ズーイが意見を言うので、
「俺とズーム社は因縁があるんだ。それで、皮肉は個人名で出したいんだ。その方が小気味が良いや」
と言っておいた。
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