第21話 崋山、調子が出て来る
崋山は夕刻、あくびをしながらむっくり起き上がり、交代しようと思っていると、イワノフさんは一昼夜見てくれるとコンタクトしてくれた。そこでまたベッドに目を瞑りながら倒れ込み、朝になった。
久しぶりに頭のすっきりした次の朝、崋山はまた、ズーイの報告を受ける事となった。
「風呂に入れと、わざわざ言った訳が分かりました。一人擬態した奴が居ました。普段から利口じゃあなかったけど、まんまと自分から風呂に入って、化けの皮が剥げました。そいつはプールに他の奴と一緒にしてやりました。一人じゃ寂しかろうって事で。それから兵舎に居るみんな風呂に入るべきだと言う事になって、銃を構える奴の前で皆風呂に入ってみました。アメーバになったのは、さっきの一人だけでした。今、休暇でいない奴が戻ってきたらまた風呂に入れてみます。プールより風呂が良かったですね」
「はいはい、また、恨んでヤルでしょ」
「いいえ、ちょっと考えて、恨むって言うのとは違う気がしてきました。司令官も人間ですからね。判断ミスって事で、割り切ります」
「そう割り切ってくれて、俺も有りがたいね。あの時は俺もストレスでやりすぎた感がある。一通り皆の正体が判明したら、水に浸かるのは当分やめよう。シャワーにしないと危険だろうな。昨日の報告で、奴は分裂できると分かったから、誰かと一緒に水に浸からないようにしないと、そいつがアメーバもどきだったら、取り付かれるという事が分かった。俺も奴に取りつかれそうになったから。そう言う事で、皆に気をつけるように言っておいてくれ。それにしても、ガーズが居なくなったから、どうするかな。ガーズは司令官室長だったろ。副は誰だったかな」
「ギルンと、セイレスです」
「ギルンはポカやったんだったな」
「ギルンはそのポカで、もう辞めたいって言っています」
「もう言い出したか。じゃあ一先ずセイレスが司令官室長かな。年齢が行っているし。開いた役職はズーイが今度副になってみるか。どう、やる気あるかな」
「昇進で機嫌を取ろうと思っても、無駄ですから。それより、司令官室入りを断った、こすっちいのを入れるべきだと思います。ガーズ位のことは出来る癖に、テレっとしてやがって。司令官が指名してください」
「そうそう、それな。戸田さんも最初に言っていて、俺も、お断りを認めているのが妙だと思ったんだよな」
「前の司令官とトラブって、降格処分になっていて、本人ふて腐れていて、戸田さんも扱いにくくてほっといたんです。奴は司令官室長位の能力ですよ」
「誰、そいつ、俺が指令を出そう」
「カール・リーって言うんです」
「分かった。そいつとお前で副しろ。ギルンはちょっと休憩させよう。その降格ってのにひと月ぐらいしたら、ギルンも安心するんじゃあないかな。きっと他の奴の手前、失態してそのままだと気まずいんだろうと思うけど。どう思うズーイ」
「そうなんですよ。ギルンはカールとも前司令官との対応で喧嘩していたから、カールが戻ってくるとなると、この失態がカールに知れて、同じ役職で、顔つき会わすのも嫌みたいでした」
「なるほどねえ。あまり良くは分からないけど、事情ってのが何処にもあるねえ」
崋山は、そう相槌を打ちながら、自分もとっとと辞めたくなって来た。人事は結構苦手な事である。丁度、戸田さんが部屋に入って来たので、
「戸田さん、ズーイに言わせると、さぼりのカールを呼ぶべきらしいね」
「や、止めてくださいそういう言い方」
ズーイが慌てて遮った。
「ごめん、ついね。からかいがいがあるんだよな。ズーイ見ていたら」
崋山はそう言って、またズーイをふて腐らせた。
戸田さんは、ニヤリとして、
「そういう話も出る頃だと思っていた。今、様子を見に行ったらプールの死骸を皆で片付けようと集まっていたよ。済んだら司令官室に来いと言っておいた」
「戸田さんに任せておけば、万事滞りなく進みそうだね、ズーイ」
「そうですね、じゃあ俺もプールに行きます」
「そうだ。昨日俺が片付けると言ったんだった」
崋山も立ち上がると、
「司令官のする仕事じゃあありません。ロボットの作業の見張りじゃあないんですか」
ズーイ、また気の利いた事を言ったが、
「まだ、キースが来ないからね。プールに行って、カールも見物したいし」
「そう、面白い見世物じゃないけど」
「見なきゃわからないよ」
司令官室を二人で出て行くと、戸田さんは、
「あの二人、修羅場で急に仲良くなったな。険悪になる事もあるものだが」
と、呟いた。
プールに行くと、かなりの悪臭で、アメーバはぷよぷよ浮かんでいた。
「これは物凄い代物になっているな。こんな代物、処分できるか、素人集団っぽいのに」
そう言った後、崋山は小声ズーイに奴はどいつだか聞くと、
「こっちを睨んでいる銀髪」
と言うので、皆を一通り眺めると、銀髪は一人だった。なるほど、睨んでいる。
因みに崋山は金髪である。曽お婆さんのヨーロッパ人種のDNAが、どう言う訳か隔世遺伝っぽく出ていた。
崋山は、彼はなかなかの根性者っぽいなと思い、また、酷いにおいのアメーバーっぽいのを眺めた。
「こういう代物は素人が扱って良いものかな。そうだ。ズーム社の研究室に送って研究してもらおう。彼らは研究熱心だから、きっと良い研究が出来るさ」
崋山は、ズーイに、
「棺桶パックに入れてズーム社に送ろう。棺桶パック在るだろ」
と聞いた。ズーイは
「それをズーム社に送るって。喧嘩売る気」
と言うので、
「俺等、ずーっと喧嘩中だぞ。知らなかった?」
「知っていたかも」
ズーイは皆に棺桶に入れるから、持ってくるまで待っていろと伝え、手配の電話をしている。
やって来たのは、その道のプロ。危険物を取り扱う防護服を着た一団が、棺桶を携えてやって来た。そして慣れた様子でアメーバもどきを回収して、棺桶に入れている。崋山はしぶきがかからない所まで下がり、様子を見ていた。部下の兵士たちも、それに倣って後ろに控えている。
崋山は後ろに控えると言う件、中々の物だと感慨深く考えた。それにしても見ていると、手慣れている。良くアメーバもどきを扱っている感がある。振り向いてズーイに聞いてみる。
「お前、何処に電話したの」
「棺桶屋。アメーバみたいな代物をズーム社に送りたいからって言ったけど」
「手慣れていると思わない」
「確かに」
皆で見物していると、カイやルークも鼻をつまんで見物に来た。
「崋山、ズーム社に連絡したの。これを回収させるのに」
「中々やるねえ」
二人に感心され、
「あったりまえよ。こんな仕事あいつらにさせなきゃ。自分らの始末だろ」
崋山の言った事が、聞こえたのか聞こえてはいなかったのか分からないが、こちらをチラッと見た後、全て回収したらしい一行は、棺桶をトラックに積んで立ち去った。
「誰の仕業かお互い承知済みって、言う所の様だったな」
最後の方になって、キースもやって来て、見物していて、そう意見を言った。
崋山は、キースが来たので、ルルらと交代しようかと思ったが、戸田さんが、司令棟の前に居て崋山を呼んだ。カールと顔合わせをしようと言うので、内心、顔はさっき合わせたがとは思った。しかし圧に負けて、ズーイを連れて、司令官室に戻る事にした。ズーイは何故か嫌がるが、
「お前が言い出しっぺだろ」
と言ってやると、丁度崋山の後ろにそのカールが居て、
「何故それを言う」
とズーイが悲しむので、崋山は、
「前から言っているじゃないか、理由は」
カールは、
「どういう事だ」
とズーイに詰め寄っている。ズーイのピンチらしい。カールは随分ガタイも良いし。崋山は、
「エレベータで戻ろう。後の用事が押しているんだ」
と言って、せめてもと、揉めるのは辞めさせた。
恨めしそうなズーイの視線を感じながら、戸田さんの所へ戻った崋山。キースも興味があると見えて、付いて来ていた。
「戻ったよ。戸田さん。キースさんはちょっと待ててね。悪いけど」
と言って、戸田さんに主導権を持ってもらう事にして、崋山は戸田さんを見つめ先を促した。戸田さん、
「俺が言うの。何を」
「戸田さんの推薦だったでしょ」
「まあな。カール分かっているだろうが。緊急事態で皆必死で頑張っているんだ。お前も司令官室付きになって、お前に出来る仕事をしろ。この前、司令官に能力の有りそうな奴を司令官室付きに入れるように言われていて、お前の名も入れた。断る事など許されない状況だからな」
「そうそう、それな。カール、そう言う事で、お前はズーイと二人、副司令官室長だからな。これは俺の指令だ。忙しいから口頭で任命だ。断る事は許されない。戸田さん、これでこの場はOK?」
戸田さんはため息交じりに。
「良いよ、キースと行けば」
と言うので、立ち上がると、恨めし気なズーイに睨まれた。反省したように崋山は
「ズーイも行きたいの」
と聞いてみた。しかしカールに、
「ズーイは仕事を説明してもらわないと」
と遮られ、ズーイはついて行く事は出来なかった。
常識的交代時間が過ぎてしまい、崋山はキースと慌ててルル達の所へ行った。
「遅くなって済まない。ルル」
と気遣って謝ると、ルルは、
「いいえ、遅れた事情は、イワノフさんの解説で楽しんでいました。ズーイをからかって、崋山はいけない人ですね。今、彼はピンチになっているらしいですよ」
「そうだったんだよ。本人が丁度後ろに居たんだよね。気が付かなくてからかってしまった」
イワノフが、
「ルルさん、こういうのを確信犯って言うんだよ」
等と解説している。
「イワノフさん、ルルさんに変な解説はやめて下さいね」
と遮っていると、キースはルルに、
「何か不都合な事は無かったかな」
と尋ねている。
「作業内容は順調です。でもスピードが少し遅い気がします。こんなものですかね」
キースは出来具合を見回し、
「そう言えば、そうだな」
と考えている。何かまずいのでは。崋山は心配になった。
何にしても、スピードが出ないと言う事は、何処か障害物があると言う事では無いだろうか。崋山は呟いた。
「命令系統の通信が遅いとか。障害物とか」
キースさんは、
「そうだね」
と辺りを見回した。
「妨害電波かな」
と言って考えていた。
崋山も訳が分からないなりに、辺りを見回し、
「ぼうがいでんぱ」
と呟いてみる。
イワノフさんが、
「電波と言えば少し遠いが、あれは何の電波塔かな」
と指さす方向に今時珍しい電波塔があった。かなり前から普通の国は地下に設置されているはずの電波塔である。
「そう言えば、戸田さんは以前、この国の通信設備を、ズーム社が傍受しているとか言っていたけど、あれの事かな」
イワノフさんは、険しい表情になり、
「あの場所に有ると言う事は、妨害電波なら十分通用する位置だな。気が付かなかった。様子を見に行って来よう」
崋山が立ち上がりかけると、
「一人で十分だ」
と言って、かなりの速さで立ち去った。
崋山はその速さに驚き、
「イワノフさん、まだまだ現役だね」
としみじみ言うと、ルルに、
「その言い方、失礼なんじゃあないでしょうか」
と言うので、崋山はしまったと思い反省してみる。最近調子に乗り気味だ。
思わず呟いていたらしく、キースさんは、
「お調子者が、崋山の真骨頂じゃあ無かったかな」
と言った。なぐさめられているのだろうか。
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