第11話 試練の日々 その1

 崋山はかなりの集中で、さしあたっての材料手配をまとめた。ほっと一息ついて、また送られてきているデーターを見た。すると崋山が今の今まで苦心して出した手配書が、本部からも送られてきている。愕然とする。

「何だ、何だ。やってくれるんなら初めから言ってよ」

 イヴが、

「どうしたの」

 と聞くが、

「ん、ん。何でもない」

 と誤魔化す崋山に、シオンが、

「ひょっとしてやる事ダブっていたんじゃあないの」

 と、鋭い意見を言った。

「ど、どうしてそう思うの」

 と、うろたえて聞くと、

「こっちも、崋山がやっている事くらい見ていて分かるわよ。訳したメッセージの最後に、手配書を後程送るって書いてあったから、もしやと思ったの。でも、せっかくだから自分で作ったのと、本部から来たのを照らし合わせてみたら。合っているかどうか」

 シオンに言われて、崋山はそれもそうだと思い、見比べてみると、何と全部合っている。

「わあ、全部正解だ。俺って結構やるじゃないか。それにこっちの言葉ですでに書いてあるから、シオン達が訳す手間が省けた。これ、ガーズの親父さんにもう頼めるな。ガーズ、ガーズは何処行った」

 事務室から。即座にガーズが現れた。

「ガーズ、材料の手配書が出来た。親父さんは今どうしているかな。さっき言っていた事。頼んで欲しいんだけど」

「先ほど、どうしているか聞いてみると、家にこもったままでした。父は一般人で言わば雑魚なので、襲われてはいないようです。それに神崎アンドロイドも司令官が片付けたんでしょう。差し当たって、父には懸念材料は無いので、頼んでみます。急ぐんですよね、それ」

「うん。だが電話は駄目だな。そうだ、通信機器のシステムをやり替えて、あいつ等に感知されないようにしないと不便だな。ちょっと行ってみるかな」

「司令官が自ら行かれるのですか。ではお供します」

 と言う事になり、二人で出かけようとしていると、城を片付けて、市中見回りに行っている精鋭部隊たちが、大慌てで帰って来た。ドヤドヤと、司令官室に入って来ると、息を切らせながら、

「司令官、鍾乳洞辺りから、見た事も無い虫が湧いて、辺りを襲っていると、報告がありました。地元保安官が駆除しようとしていたらしいですが。毒か何かで皆、次々に死んでいるそうです。私たちは、応援に行くより司令官の支持を得るべきだと思い、戻って来ました」

「良い判断だ。お前ら、飯でも食って休憩して居ろ。その虫の正体は分かっている。とりあえず。俺が行くから、お前らはここを封鎖して待って居ろ。えっと、何処かに火炎放射器が有ったろう、ガーズ」

「はい、しかし今、司令官が自ら行くと言いましたよね。部下を使ってください。司令官は普通、動かないですよ」

「それが普通じゃあないんだよな、今は。あの虫の正体は分かっている。敵の銀河から来たメカだ。燃やすしかないが。食われたら毒で死ぬから、生身ではあっという間に食われて死ぬ。戸田さんに連合軍の制服を手配させろ。宇宙服でも食い破られるが、生身よりはましだ。お前等は付いて来ても無駄死にするだけだぞ」

 崋山はそう言いながら、カバンに詰めていた連合軍の自分の宇宙服をあっという間に着た後、

「ガーズ、火炎放射器さっさと持って来い」

 と言った。

 側に居たマーガレットが不安そうに崋山を見るので、

「大丈夫だよ、ここは封鎖して電気を流すから、虫は入って来ない。パパがやっつけて来るから、ちょっと待っていてね。そうだ、イヴ。ここは危険だからママ達はもう国に帰った方が良いな。あ、だけど通信を感知されたらかえって危ないな。仕方ない。放って置くしかないな。レインパパも虫の事情は分かっているはずだから、火炎放射器で対処するだろう。しかしホテルにあるかな。消火器しかないだろうな」

 イヴは、

「メールしようか、虫は火炎放射器を手に入れて燃やせって」

「そうだね。そうしたら火炎放射器を手に入れる方法を考えるかな」

 話していると、火炎放射器を一個持って来たガーズが現れて、

「悪いが、足りないねえ。何処に置いてある。自分で取りに行く」

 すると、周りにいた部下たちが、

「僕らを付いて行かせてください」

 と言い出した。

「死にたいのか。それに、腹を空かせていたら、太刀打ちできないぞ」 

「さっき、お城で食べさせてもらいました」

 と言って、必死で見つめて来るが、

「冗談じゃなく、ホントに死ぬから。なっ、イヴも説得してよ」

 するとイヴは、

「でも崋山がやられたら、一蓮托生でこの世界は終るわね」

 と、遠くを見ながら言った。

 崋山はため息をついて、

「じゃあ、来たい奴は来いよ。体力に自信のない奴は止めろよ。俺はひとりしかおぶえないからな。帰ってから毒出しを検討したいからひとり連れて帰るけど。やられるなら早い者勝ちとも言えるな」 

 と、訳の分からない台詞を吐き、

「ガーズ、火炎放射器どの位あるの、付いて来るのはその数によるな」

 と言いながらガーズと部屋から出て、その後を皆ぞろぞろ付いて出て行った。

 残った、イヴとシオンとマナミにマーガレット。顔を見合わせて、誰からともなく、

「無事に帰って欲しいね」

「あたしら運命共同体だからね。崋山が居なくなったら、皆、お終い」

 そう言っていると、食品を配り終えて、戸田さんが帰って来た。

「皆、慌てて出て行ったが、何があったのかな」

 イヴは、

「虫がやって来たのよ。戸田さんも聞いているでしょ。メカの虫の事。崋山達が外に出たら、ここ封鎖してって」

「何だって。次から次に、どういう事だ」

 すると、マーガレットが、

「誰かが、パパのお仕事の邪魔をしているのよ」

 いやはや、大人より利口な子である。


 武器庫に皆で行ってみると、火炎放射器は以外にも沢山あった。11人居たので一人に一個以上あり、崋山は一つを背中にそこにあったロープで括り溶け、旧式の拳銃を見つけて、

「おや、結構武器があるねえ」

 と、それも崋山は両手が使えるので、両側にセットし、弾丸も出来る限り携帯し、火炎放射器は両手に一個ずつ持ち、以前の様に準備万端にした。

 部下が驚いて見ているので、

「行くのをやめる方が、利口だからな。お前らは火炎放射器を自分で持てる分だけ持って行け。拳銃は俺だけ必要なんだ。お前らは火炎放射器で行け」

 と言っておき、一人先に山へ向かった。

 部下達の内、体力に自信のある者は、背中に一個背負い崋山を追いかけて来ている様だ。

 崋山は、おそらく虫達はこの基地に来るだろうと思い、近場から山へ上ると、予想どおりこっちに来る黒い集団があった。

 崋山はある程度引き付けた後、火炎放射器を放った。直ぐに燃料切れになった所で、部下が追い付いたので、任せて、部下が背負っていた分を手に入れ、横に並んだ。

 虫は何時やって来ていたのか、宇宙船の時と比べても、多いような気がする。この火炎放射器の数で間に合うのだろうか。崋山は少し不安になった。彼らが付いて来て助かったとも言えるが、全部燃料切れになれば、皆やられてしまいそうである。

 燃料切れが早い理由は、木々が邪魔をしていて火がうまく虫に当たらず、前回よりは効率が悪いからだと気が付いた。そして直ぐに数匹、木に登っているのを見た。

「皆下がれ、上から飛んでくるぞ」

 崋山は叫び、上から来る奴に火炎放射器を当てたが、どんどん木に登り出し、地面に居るのと違い、飛んで来る範囲がバラバラで埒が明かないことに気付いた。直ぐ、拳銃で撃つことに切り替えたが、崋山の近場しか対処は出来ない。崋山には遠い位置の部下は次々やられ出した。

「畜生、だから言わんこっちゃない」

 先刻、新人類と自称言っていた部下は、崋山の装備を真似て拳銃を所持していて、彼も撃ちだすと、少しづつ当たり出し、直ぐに崋山に負けずに虫を倒し出した。崋山は、『こいつ、使えるな』と思いほっとした。上から来る分は他の二人の部下の火炎放射器と崋山ら二人の拳銃で仕留め、少なくなった下から来る分は火炎放射器担当の残りの、やられていないらしい部下に任せると、段々虫は少なくなってきているのが分かった。どうやら、燃料不足は免れそうである。崋山はまだ背中に一個持っている。燃料の切れた、横のガーズにそれを渡し、上から来る分を撃ちながら、崋山は横に移動して、端にいるやられて倒れている部下の所まで行き、素早くおぶった。見ると数人やられて怪我をしている者がいるが、頑張って火炎放射器を使っていた。

「動くと毒の回りが早くなるかもしれない。虫の相手は他の奴に任せて、じっとして居ろ」

 と言って、上から来る奴を撃ちながら、群れではなくなったのに気が付くと崋山は、

「撤退しろ。誰か怪我人をおぶって急いで基地に戻れ、俺とあいつとで、銃で援護しよう」

 そう言いながら、虫たちを撃っていると、背中の酷くやられて気を失っていた筈の部下が、もぞもぞ動いている。

「あれ、俺はどうしたのかな。おぶわれているけど。怪我したんだったっけ」

 等と呑気な事を言い出すので、

「気が付いたのか、何処か痛むところは無いのか」

 と聞いてみると、

「確か首をかまれた気がするけど、あれ、触っても居たく無いな。血は止まっているみたいだし」

 と呑気な回答が来た。崋山は確かめたかったが、虫を撃つのに忙しかったので、そのままおぶって、もう一人の使える奴と最後尾で、後ずさりしながら撤退する事にした。虫は少なくなりほとんど居ないように見えて、時々思い出したように襲って来るので油断は出来なかった。しかしとうとう、かなり使えていた部下も一瞬の差で虫に襲われてしまった。

「畜生」

 崋山は彼の首から虫を引き外したが、嚙まれ処が悪く、動脈から血が噴き出した。

「不味い」

 崋山は必死で傷口を抑え、助かる事を願った。すると、又虫が飛んできて、今度は崋山の首を襲った。ずきっと痛みが走った。

「ああ、これで地球も終わりか」

 と呟いていると、後ろにおぶっていた部下が、虫を引きはがして、遠くへ投げた。そして、背中から這い出すと、崋山が落としていた拳銃を拾い、またこっちに来ようとした虫を撃って命中した様である。彼は撤退して居る部下たちに向って、

「おおい、司令官がやられたぞ。お前ら逃げ足が速すぎやしないか」

 と叫んでいる。崋山は毒が回って来ているのが分かった。気を失いかけているが、止血は止められない。ぼうっとなりながら手元を見ると、何だか動脈が塞がっている感じである。上手く行ったんだな。そう思いながら、自分自身には癒しは効かないのかなと首を傾げた。試しに自分の手を傷口に当てると、どうやら手先が癒し能力が顕著らしく、だんだん頭がすっきりしてきた。そこへ部下たちがどやどや、戻って来た。

「司令官、申し訳ありません。大丈夫ですか」

「うん、俺は癒し能力があるから自分で直せたみたいだ」

 心配気に戻って来た部下達に言った後、先ほどまでおぶっていた部下に、

「おかげで助かったよ。ありがとう。お前の名は」

 と、言うと、

「セレイスです。こっちこそ、おぶってもらっている間に傷が治った様です。ありがとうございました。それに、ギルンも確か頸動脈切れているように見えたのに、直って居ますね。凄い能力ですね」

 と彼に言われた。

 崋山は、

「ピンチの時は、能力が増すみたいだな。虫はもう居ないみたいだし。皆戻って来たから、ついでに怪我人を治そうかな。早い方が良いだろう」

 そう言って虫にかまれた部下の傷口を抑えると、彼らの傷は次々に治って行った。即効で、自分でも驚く速さだった。ギルンも意識を取り戻したので、皆で歩いて帰ることが出来る。

 捨てておいた燃料切れの火炎放射器を拾いながら、基地へ帰って行く途中、誰ともなく、

「虫はもう居ないのかな。他の所に行ってないのかな」

 と言い出した。

 崋山はへとへとで、それでも、居ないと言う保証はない事は分かっていた。どこか別の所に行って、今頃、誰かを襲って居ない事を願うばかりだった。先程から夕闇が迫って来て、まだ明るいうちに片付いたのも、ほっとする所である。

 へとへとになって、司令官室に戻ると、イヴたちが喜んで出迎えた。

 マーガレットが飛びついて、

「戸田のおじちゃんがあたしがお利口だって」

「それ、パパも知っているよ」

「でも、おじちゃんが言った訳は、あたしが誰かがパパのお仕事、邪魔しているって言ったからなの」

「なるほど、シールド装置を設置させたくない訳だな。つまり装置の効果は有ると言う事で、ひょっとすると向うも、まだここに届く程の奴の開発は出来ていないのかもしれない。出来ているならさっさと撃ってくるはずだ。何だか希望が湧いて来るな」

 そう思うと、崋山は気分が良くなって、さっき出発しかかっていた、通信システムのリセットに行こうとガーズを誘うと、戸田さんが、

「俺が行こう。俺にも活躍の機会を与えてくれ」

 と言うので、戸田さんとガーズに任せる事にした。それから崋山は思いついて、

「戸田さん、ここいらに信用のおける眼鏡屋さんとかいないかな。このアンドロイドを見分ける眼鏡。片っ方あれば役目は果たすんじゃあないかな。片方ずつかければ60人が使える。この基地には何人居るのかな。全員は無理かな」

「兵士は70人程いるが、定年の近いのや見知った者との戦闘を遠慮したい者も居そうだし、その数で間に合うと思うな。良いアイデアだね。明日当たってみよう」

 そう言って出て行った。



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