第10話 狙われる家族

  崋山が当に出発しようとしていると、侵入者有りのブザーが鳴った。

「封鎖させたんだろ。それでも入って来るとは、もう少しセキュリティーを上げないと」

 崋山がぶつぶつ文句を言っていると、廊下を走る小さな足音が聞こえた。崋山はあの子だと思い廊下に出てみると、やはりマーガレットが廊下を急いでやって来る。

「マーガレット、いったいどうしたの」

 マーガレットは屈んだ崋山の腕に倒れこんだ。

「マナミが怖い人にさらわれた。マナミと買い物していたら、ママが怖い人を連れてやってきたの。マナミは捕まって、『マーガレット逃げて』と言ったの。ママが捕まえようとしたけど、あたしは走るとママより早いから、逃げて来た。マナミが捕まった。パパ早く助けに行って」

「分かった。助けに行く」

 崋山はそう言ったものの、何処に助けに行けば良いのやら。マーガレットは続けて言った。

「マナミは車で山に連れて行かれている。洞窟のある山よ。白くてとんがった棒みたいのがいっぱいある山よ」

 その山には崋山も心当たりがあった。しかし、そこは昨日朝、上った山にある鍾乳洞であり、そこは王家の山ではなかったのか。戸田さんが、

「鍾乳洞の事じゃあないのか、しかしあそこは王家の所有だし、第一そこはこっちのアンドロイドのメンテナンスの場所のはず」

 と、崋山の懸念を口に出した。するとガーズが、

「だけどこっちでアンドロイドを作るとしても設備が要るはず。元からある設備を利用すれば直ぐにある程度のことが出来たはずだ。さっきの連絡は、アランにしたつもりなのに、あいつが出たんだ。あそこはいつの間にか敵に乗っ取られているのかもしれない。アラン達は敵方に改造されている可能性もある」

 と恐ろしい可能性を言い始めた。

 崋山は、

「マーガレットは透視能力があるの」

 と聞くと、

「透視能力って何?此処にいない人が今どうしているか分かる事?だったらできる」

 と言った。崋山はふと、マーガレットの手のひらに火傷があるのに気付き、

「この手はどうしたの」

 と聞きながら、そっと手を握って火傷を治した。

「塀を上ってここの中に入るとき、痛かった」

 と言った。戸田さんは驚いて、

「緊急事態の封鎖では、塀の鉄格子に電流を流すんだが、そこを上って来たのか。よく登れたな。感電もしないで。この子は一体何者なんだ」

 と言って驚愕した。イヴやシオンも廊下に来て、イヴは、

「崋山の子よ。きっと、超能力に目覚めたんだわ」

 と言った。

 崋山はマーガレットを、イヴやシオンに任せ、マナミを助けに行く事にした。場所は分かった。側の階段を駆け下りていると、後ろで戸田さんが人員を割り振りしていた。崋山はひとりで十分だったが、車庫から軍用車を出していると、後ろに三人、前に一人乗って来た。

「城にいるアンドロイドは敵のに改造されて居そうだぞ。行ったが良くは無いか」

 と聞くと、前に乗っている部下が、

「そっちは残りのが行きました。市中見回りは後にすると戸田さんが言っていました。戸田さんと後二人、残って女性たちの護衛です。山の反対側に回ると車で鍾乳洞の入口まで行けます」

 と、崋山に報告した。崋山は運転している車の最高速度を出して、山の反対側に向った。物凄い速さだが、連合軍の戦闘機を操縦していた者としては、十分制御可能な速度である。後ろに乗った者達は、荷物がぶつかり合っているかのような状態だったが、前に乗った者は素早くシートベルトをして無事の様である。上り坂とは思えない速さで洞窟迄上ると、洞窟前に車が一台泊まっている。今着いたばかりの様な、ぬくもりのある車だった。

「アンドロイドは人間より動きが速いし、力もある。お前らここでエンジン掛けたまま待って居ろ」

「ついて行かなくて良いんですか」

 横の男が言うが、

「俺はお前らの面倒は見切れないからな、マナミを連れて逃げるだけだし。自分の面倒は自分で見ておけよ」

 と言って、一人で行こうとすると、後ろの一人が、

「自分は一応新人類らしいんですけど。他の奴は違うけど」

 と言った。崋山は、

「自分の面倒を見れるんだったら、付いて来い」

 と、言って中に入った。

「自分は中の様子を知っていますから」

 と言いながら彼は付いて来た。マナミの気配の有る部屋に二人でたどり着くと、崋山は銃を構え、ドアを開けた。後は物凄い速さの銃撃戦で、崋山達はあっという間にそこに居たアンドロイドの奴らを撃ち殺した。何と、その中には神崎と思しき奴も混じっている。

「崋山早いね」

 部屋の隅にいたマナミは感想を言いながら、気絶した。

 崋山はマナミを小脇に抱えて、逃げようとし、付いて来た部下に、

「後ろを守ってくれ、逃げるからな」

 と、言って走った。部下は後ろを見ながら付いて来ていたが、やはり追手の人間かアンドロイドか分からないのと、少し撃ち合うが直ぐ片が付き、洞窟を同時に出て逃走することが出来た。崋山達は車後方に飛び乗った。車の座席は皆移動していて、横に乗っていた部下が運転席にいて、車を動かしていると、中から又追手が出てきたが、後ろで待っていた部下が、置いてある車のタイヤをパンクさせた。それで追いかけられることも無く逃げ去った。

 帰りの車は、それほどスピードは出ていなかったが、マナミを膝の上に乗せた崋山は、遅いとは文句は言わなかった。

「やっぱりお前らが付いて来ていて、助かったよ。ありがとう」

 礼は言っておいた。行きがけの言い様を、少し反省している素振りをしておいた。『上司としては色々気を使うな』と崋山は思った。それにしても、神崎アンドロイドを崋山はひとり、追いかけて来ていた連中に交じっていたのを、部下がひとりヤッている。どうやら何体もあるらしい。

 戻っても、リリーはまた別のを連れて来るだろうと思った。

 少し走ると、マナミは気が付いた。

「崋山、あたしの居場所良く分かったわね」

「マーガレットは透視能力がある。それに運動能力も優れている」

「今日の事で、目覚めたみたいね。リリーはマーガレットをぶったりして、酷いことしていたけれど、次は出来ないでしょうね」

「出来ないな。俺らで引き取ろうと思う」

「養子として引き取るの」

「そうする、あそこに神崎のアンドロイドが二人いたな。まだ居そうだ」

「あいつ、アンドロイドなの。入隊の時会っていたよね、あたし達」

「あの時はまだ人間だった」

「全然区別付かないね。あたしは人間に捕まったつもりだったのに。今になってぞっとして来るね」

 そう話しながらの帰り道、ハンバーガーのチェーン店があった。崋山は

「ハンバーガー買って帰ろうかな。食堂の食い物がちゃんと出来ているか分からないし。とりあえず俺らの分だけ買おう」

 と言って、車を止めさせた。

「崋山、その辺に敵は居ないの」

 マナミが聞くので、崋山は眼鏡を指さし、

「これを通して見ると、人工の神経が青く光って、アンドロイドと解かるんだ」

 と、説明した。新人類の部下と一緒に店に入ると、生憎、客の中にアンドロイドが数名いた。崋山はそいつらに、

「お前ら、表に出ろ」

 アンドロイドは武器を取り出して撃とうとしたので、他の客に当たらないと言いな、と思いながら、崋山は応戦した。部下の方は慌てて他の客を自分が盾になって逃がしている。崋山は『あいつ、使えるな。気が利いて』と思った。アンドロイドを一掃した後、店の人に、

「ハンバーガー何でも良いから今出来るのを12人分テイクアウトでお願いしたいのですが、出来ますかね」

 と、崋山は遠慮がちに聞いてみた。店の人は用意してくれた。一応崋山は、

「ありがとう、もう閉めた方が良いでしょうね。ここに転がっているのは、アンドロイドなので、気にしないで下さい。後で現場処理班を寄越します。どうも有難う」

 と、言っておいた。崋山は『我ながら、段々そつが無くなって来るな』と思った。

 崋山はハンバーガーを持って車に帰ってくると、

「ここと指令室に今いる奴の分しか買っていない。俺らは此処で食っておこう。緊急事態だから、大丈夫な食い物が手に入ったら、さっさと食っておいた方が良いな。これから先の事は分からないし」

 と言って、皆で車の中でひしめき合って、空腹を満たした。司令官室に帰ってみると、やはり崋山の予想は当たり、見回った部下たちによって、午後から勤務の食堂担当者の中にアンドロイドが発見され、夕食は食べられない状態になっていた。

 シオンはハンバーガーを食べながら、

「最近、崋山は気が利くわね。向うで色々苦労したんでしょうね」

 等と言い、誉めて居るつもりらしい。崋山は、

「ありがとう、シオンだけだよ。俺を誉めてくれるのは。他の奴は分かって当然と思っているんだ」

 と言っておいた。シオンは、

「あら、そう」

 と言っている。イヴには、

「司令官さんに言う事じゃあなかったわね」

 と指摘されていた。

 崋山は、

「夕飯が出来ていないなら、非常食を手配しないとな」

 と言うと、戸田さんが、

「俺がしようかなと思ったけど、司令官が報告がてら本部に連絡するだろうと思って、やめておいた」

 と言うので、

「俺に遠慮せず連絡してよかったのに、飯が遅れてしまう」

 と言いながら、崋山は地球軍本部に連絡した。電話の様子から、人間が出たようである。

 崋山は、

「本部にはまだ人間がいるね。まだ完全に乗っ取られた訳では無さそうだ」

 と言うと、戸田さんは、

「そりゃそうだろ。そんな噂は聞いていない」

 と呆れた。

「じゃあ、俺のミッションから表ざたになったんだな。あいつら、やる事は目立たないようにするのが基本だったが、そうもしておれないんだな」

 「このメガネでアンドロイドが分かるからだろう。そうで無けりゃまだみんな普通に夕飯食っている時間だ」

「でも食えば普通じゃなくなるんじゃあないか。食い物に何か仕込まれてはいなかったの」

 崋山が聞くと、

「食堂で銃撃戦の後、爆発があったから、食堂が吹っ飛んだせいで、飯は台無しになっていて、飯の中に何か入っていたかは、確認していません」

 護衛に残っていた部下の一人がそう答えた。

「そうか、毒見も出来ない状態なのかな」

「多分、吹っ飛んでいます」

 その会話を聞いたイヴは、

「やだ、崋山ったら何か残っていたら毒見する気だったの」

 と聞いた。

「そうだよ、あいつらの目的はシールド装置の設定の邪魔って事だろうな。それを確かめたかったんだが」

「食堂のスタッフになっていたんだから、毒見しなくても目的は何か入れる事のはずでしょ」

 イヴが指摘すると、

「まあそうだろうけど、何を入れたか知りたかったんだけどな。俺、癒し系が最近バージョンアップして、自分の事は相当な事やっても、何時もベストコンディションみたいだけど、毒ではどうかなと思っているんだ」

「ヤダ、結果やられたらどうするのさ」

「心配ないよ、判って食ってみるんだから、駄目だったら吐き出すだけだよ」

 そんな事を崋山が言っていると、戸田さんが、

「無茶するなよ。誰もお前と心中したい奴は居ないからな。任務遂行に徹底してくれないか」

 と、意見した。

「そうでした」

 と、崋山が答えていると、

 マナミが、

「すごい、崋山の暴走を止められるのは、戸田さん位しかいないかもね。うちの家族は呆れて見ているだけなんだけど。さすが元上司」

 と、感心している。

 イヴが、

「上司でも、止めきれなかった人は多いよ。よく独壇場になっていたね。戸田さんは何だか不思議な圧を崋山にかけているね」

 と感想を言った。戸田さんは、

「誉められているのかな。ははは、照れるな」

 等と、冗談めかして言った。しかし崋山は、イヴの観察の鋭さを感じた。確かに、戸田さんには雰囲気に圧があると思った。

 それにしても崋山は、城に行った部下たちの事が気にかかったが、指令室に戻ると、やりかけの作業がしたくなった。崋山は『これを早く終わらせないと』と思い、取りかかっていると、部下たちから連絡が来た。戸田さんが受けて、

「城の方も片付いたそうですよ。やはりアラン達は改造されていました。しかし、少し争った後、自動的にリセットされて元に戻ったそうです。あのアンドロイドにはそう言う機能があったそうです。誰が製作したのか知りませんが、旧型にしては素晴らしい機能だな」

 と、崋山に報告した。

「分かったけど、戸田さん何だか言い方が改まりましたネ。圧の事気にしているんですか」

「いや、気にしていると言うより、言い様だけでも部下風に言わないと、圧のせいでこっちが上司みたいになりそうだからね。それで気を付けようと思ったんだが、変だったかな」

「まあ、外部の人が居る時はその方が良いでしょうけど、慣れていない事言うから段々元に戻っているみたいだし、らしくないですよ」

「はは、そうかな」

 等と言っていると、ヘリの音がして来た。

「あ、飯を持って来てくれたな。君達回収して配ってくれ」

 戸田さんが指令室の部下たちに言いながら外に出て行った。

 崋山は作業に集中していたが、マーガレットが甘えて横の床に座って、足に背中をくっつけて来た。部屋の中にいるのが、家族だけになったせいだろう。養子にすると言うのも聞こえていて、甘えて良いのだと思ったのかもしれない。

 

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