第5話 崋山を巡る女性達、一堂に会す

 イヴは崋山の部屋だったと言う所を自分の部屋にしてもらい、一晩ゆっくり眠った。彼の物などは無かったが、何だか懐かしく感じられ安心できた。

 すっきりした朝を迎え、リビングに行ってみると、アンとレインが顔を突き合わせ深刻な様子である。

「どうかしたんですか」

 イヴは聞いてみたが、いつもはおしゃべりなアンにしては珍しく、言いづらそうな様子である。

「ええ、ちょっとね。まねからざる客も来るようで・・・」

「あら、お婆ちゃんと伯父さん一家だけじゃあなかったの」

 イヴが聞いてみるが、言い渋っている。レインが自分の役かと言う所で話してくれた。

「実はアンには二卵性の双子の妹が居て、名はシャーロットと言うんだが、生まれたばかりの頃、養子になって別れて育っていたんだ。その人が、崋山が伯父さんの家に居た時、丁度近所に住んでいて、その娘のリリーも伯父さん一家の娘たちと同じ学校に居てね。それに崋山の伯父さんである依田リョウさんの奥さんのミヤさんは、シャーロットさんとは血は繋がってはいないが姉妹だそうだ。彼女が養女になった家にその後生まれた娘でね。そう言う事で、シャーロットさんとは血は繋がってはいないが、法律的には姉妹だから、同居していても不思議ではないんだが。シャーロットさんはリリーが生まれて直ぐ離婚していて、どうやらその親子は依田さんに言わせると、少し頭が変になっているそうだ。実は言いにくいんだが、そのリリーと言う人は、崋山が17の時に崋山の子供を身ごもった後、彼女の教師だった印南何とかという男と、彼の子を身ごもったと嘘をついて結婚したそうだ。印南さんは自分が子を作れる状態ではないと、常々リリーに話していたそうだが、その印南さんの母親は知らなくて、彼の子を妊娠したと聞いて、母親は大変喜んで結婚を認めたそうだ。ところが、彼本人は自分の子ではないと始めから解っていた。と言う具合さ。結局破局で、離婚して母親と暮らしていたんだが。依田さん一家がおばあさんと同居を始めると、シャーロット一家も家に来て同居し始めたそうだ。始めはどうってことは無かったんだが。段々リリーは崋山も良い人だったからマーガレットの本当の父親でもあるし、彼と結婚しようと思うと、こと在る事に言い出したそうだ。依田の姉妹とはその事で良く言い争いが起こり、ほとほと困った事になっている所へ、今回イヴや私たちが戻って来ただろう。リリーは、一緒にこっちに来て、崋山を待ち、戻ってきたら結婚すると言っているそうだ。イヴの存在を言っても二人は別れさせると、息巻いている。頭がおかしくなっていると言うのが、依田さん一家の見解だ。崋山の子を妊娠したのも、事情は逆レイプの様な物だったらしいから、崋山の気持ちを心配する必要は無いそうだ。だが、厄介な連中は来ないで欲しいものだが、一人にしておくのも問題な状態でね、だからやって来る。すまないね、イヴ面倒な事になって」

「そうなんですか、でも崋山と私は大丈夫ですから、心配要りません」

 イヴはそう言って置くしかなかった。その話は以前、崋山がチラッと言っていた記憶があった。その時は崋山との結婚とか考えてはいなかったし、聞き流していたのだが、まさか地球に戻って、こんな事が起きようとは驚きである。驚きではあるが、気にはならない話だ。崋山の話でも、狂った奴だったと言う事だった。

 イヴがのんびり朝食を食べ終わったころ、いよいよお出ましになった。どうやら夜の高速を走って来たようである。大人数だからそれが一番楽と言えば楽だろう。しかし頼りの伯父さんはお疲れだろうとイヴは思った。玄関先で、人声がして来た。

「アン、アンなの。良かった。元気だったようね」

 年輩の女性が、大きな声でしゃべっている。イヴは聞きながら、再会って誰の場合も良いものだなと思った。崋山にも、もうすぐ会えるし、リリーなどは気に留めるほどの事は無いと分かっていた。どやどやと足音がして、結構な人数だと分かる。

 リビングのドアが開くと、

「あなたがイヴさん、あたしマナミ。崋山の従姉妹よ。こっちはシオンよ。よろしくね」

 イヴより少し若い、可愛い感じの人がイヴに飛びついてきた。後ろにはシオンと言う人が控えていて、順番に抱きしめられた。

「よろしくイヴ。シオンよ。仲良くしてね」

 それから伯父さんである依田リョウさんやミヤさんやお婆ちゃんや、シャーロットさんともあいさつした。そこへ、アンがきれいな女の子を連れて来た。驚いたことに、崋山の幼いころはこんなだったろうと思えるし、第一、あの星で出会ったクローンの子にそっくりである。

 イヴは、『まさかあの子たちの一人じゃあないよね』と思ったが口には出せない。

「マーガレットさんっていうのね。崋山によく似ているわ」

 彼女は少し微笑んだが、話はしなかった。イヴは内心、『ますますあの子達っぽいわね。でもあの子たちは番号だけで、名前は無かったっけ』と思い出していた。

 殺気を感じた方を見ると、リリーらしい女がイヴを睨んでいた。

「崋山はあたしの夫になる人なの。あんたは消えるべきよ」

 と言って突進してきた。何をする気だったかは知らないが、リリーより二回りほど大柄なイヴは、武器らしい金属棒を持ったリリーの手が大きく振りかぶって、イヴに届く遥か手前で、リリーをぐうで殴った。ノックダウンである。

「あらら、やりすぎちゃったかしら」

 イヴは、伸びたリリーを見ながらつぶやいたが、

 マナミやシオンから、

「全然、大丈夫よ。これでしばらくは静かなんじゃあないかしら」

 と言われ、ティータイムとなった。

 シャーロットはイヴに、

「ごめんなさいね、リリーはどうかなってしまっているみたい。手は痛くなかったかしら。そう言えばあなたも連合軍に居たんでしょう。リリーも少しは身をわきまえてもらいたいものね。敵いっこないのに」

 シャーロットの言い様も少し妙な言い草だったが、気にはならないイヴである。所詮負け犬の遠吠えである。

 マナミやシオンが、

「素晴らしいパンチだったわね」

 とか、

「久しぶりに、スカッとしたわね。さすが、連合軍に入れるだけの事はあるわ」

 と、口々にほめちぎるし、一番御年輩のご婦人も、

「こういう方が世に出て来るようになったって事は、名実共に男女同権になりそうな所よね。男女の権利が、今思えば一番口先だけの話だった気がするわね。他の銀河は知らないけれど、組織の長は大概この星では男なのは、昔から変わらなかったわね。そろそろ変わって欲しいわね」

 等と、意見を述べられた。伯父さんは

「一晩運転したから、少し寝て来るよ」

 と去って行き、残された唯一の男性、レインは、

「地球軍に再就職の話を貰ったから、出かけて来る。又コンサルタントだから、大した仕事じゃあないよ」

 と言って、出かけた。と言う事で、女性だけになり、崋山について知っている話を皆で出し合って、崋山御帰還の期待を話し合う事となった。

 マナミはイヴに崋山がやって来た時の話を言って聞かせた。

「あたしとシオンは、まだ会っていないカサンドラの事は知っていたけど、あたし達の所に来た時はもう、ズーム社の奴らに卵巣を取られた直後だった。そりゃもう物凄くかわいい子だったわね。パパがポカして名を崋山で戸籍を修正しちゃっていて、崋山に変わったんだけど、あの頃結構強いサッカーチームだったとこのユニホームのクリーム色のTシャツを着るとね、不思議な事にすっかり男の子になっちゃうのよね。でも脱ぐとカサンドラになるのよ。だからシャワーを浴びるとき何時も泣いていたわ。ペネロペさんやお爺ちゃんがズーム社に殺されてしまった直後だったし。そして例の話、言って良いのかなどう思う?シオン」

「マナミったら、何を言い出す気」

 マナミは、シオンに内緒話にしては大きな声で、

「恋バナよっ」

 と言い出す。イヴは、話が聞きたくて、

「言いかけて止めないでよね。早く言って」

 と先を促した。

「カサンドラはね、ズーム社に何度か狙われていて、その時助けに来たアンドロイドが初恋の人なの。狐哲って言う名だったそうよ。ヘリが落ちて亡くなったんだって。そうなのよ泣くのもそのせい。アンドロイドなのが分かっていた後も、ずっと引きずっているの。死んだのは自分のせいだとか言ってね。だからあたしが、初めから生きていないんだから、死にようが無いって言ったの。そしたら納得したみたい」

 その話を聞くと、アンは、

「それは本当なの、なんてことでしょう」

 と、驚いているのか、気がかりな事を思い出したのか、不思議な態度をした。

「お母さま、どうしたんですか」

 イヴは聞いてみた。

「納得したのよね、だと良いんだけど。こんな事、披露して良いものか分からないけれど」

「お母さま。言い出したら途中でやめないでね。ここでした話は、口外しない位のモラルはあるでしょ。無い人はあそこでのびているし」

 シオンが、気が付いていないかリリーを見に行った。

「気が付いていないけど、ほっといて良いのかしら」

 言い様は優しいが、足で軽くけっている。イヴはそれを見てくすっと笑った、それから、

「で、何を知っているの、お母さま」

「ホントにここだけの話よ。そのアンドロイドは実は、崋山のお爺様がモデルだったのよ。あの方はレインのお母様と死に別れた後、他の方と結婚していてね。信じられるかどうか分からないけど、その結婚相手には恋人がいて、だから身を引くつもりだったけれど、普通の人間との争いで、彼女の恋人が亡くなってしまって、その時丁度その場に居合わせた龍昂はその恋人に取って代わったの。周りにいた人に、死んだのは自分だって、龍昂だって、催眠術みたいなことを掛けたの。そして相当長い間、10年位は周りの人を眩ませて暮らしていたのよ。驚きでしょ。その頃が彼の能力の最強時代だったんでしょうね。でも彼の娘の描いた似顔絵でばれちゃって、離婚してしまったの。そしてその娘さんが彼の絵を、アンドロイドのモデルに応募して、狐哲が出来上がったと言う事。娘さんもお父様を失ってしまって、つらかったんでしょうね」

「じゃあ、じゃあ、龍昂に会った時、崋山は狐哲が自分の祖父だってわかったんでしょうね」

「ええ、会う前に龍昂は崋山に知らせていたわ。会ってから知るのはショックだろうと思ったんでしょうね。まだ元気だったころは、テレパシーも相当な距離から飛ばせたみたい。その娘さんの子供が崋山と連合軍の同期で入っていたのよ。その子の方が距離が近かったから。その子に言づけていたそうよ」

 イヴは、

「そうだった、ルークとカイの事ね」

 と思い出していた。

 その後、連合軍に入った経緯の事件をマナミが披露し、イヴも連合軍に居た時の、メカの虫退治や、クローンとの経緯などを話して聞かせたのだった。監獄星に行ってしまった経緯については、マーガレットも側にいる事だし、言いにくくて黙っていようとその時は、頑張っていた。しかし、後日マナミと二人で居た時は、白状させられたイヴである。

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