第4話 本気になって地球へ
崋山はベルさん達総司令官の会議の途中に割り込んでしまっていたので、他の総司令官たちに、
「失礼しました」
と詫び、
「とりあえず、物理と算数から始めないと」
と呟きながら会議室を出ようとすると、シャール司令官から、
「まだ話は終ってはいないぞ」
と呼び止められ、戻ろうとすると、ベルさんも、
「今、算数と言わなかったか」
と問いただされた。
「言いましたよ。加減乗除も、桁が大きくなると、良くミスるんです」
「そういうのはコンピューターを使いなさい。お前はこの内容が分からなければならないんだ」
崋山はどんよりと、
「とりあえず、算数からおさらいして、数学に行きます。頭をほぐして行かないと」
と答えた。
「そうなのか、まあ、しっかりやりなさい」
崋山はどんより、シャールさんの方へ向かった。残りの話は、設備構築予定地についてだった。
設備の予定地は、崋山が元居た地球の地区とは丁度反対側の、あまりなじみのない地区である。
「確かこの辺は地球共通言語より、地元の言語を使っている様だったな。その言語も一応覚えておかないと、コミュニケーションに問題が有ってはならないな」
崋山は呟いた。もうやけになって、勉強する学科を追加した。
シャール総司令官は、崋山に言いたいだけ言ってしまうと、合計5時間ほどで開放してくれた。
「一晩掛かりそうだったけど、意外と早く済んだな。やれやれ、きっと諦めたんだな。分からない所が有れば連絡しろ、説明するからだって。もう一度始めから言って下さい、解らなかったので。と言ったらどうしたかな」
崋山は本部から出ると、そう言いながら、ホテルに帰った。すべての資料は腕時計ほどの大きさのコンピューターに入っていた。一応、無くさないようにと言われている。よほど心許なく感じられたらしい。
彼だって、崋山を見て、どうかなと思っているはずである。
ホテルの自室で、崋山は早速学校の資料を開き、勉強のおさらいである。算数までは直ぐ終わったが、数学と名が変わると、ペースは落ちて来る。休憩しようと、今度は予定地の事を調べる事にした、うら覚えではあるが、この辺は歴史的に訳ありの所だったはずだ。
調べてみると、記憶どおり、丁度崋山が地球でトラブっていた頃、この国もあの頃、内戦が遭っている。
地球上では唯一、王政が行われている国だったのだか、隣国が民族解放とか、民主化とか言って攻めて来ていた。そう言えばニュースで良く取り上げられていた。民主化という名目の為、EPからも攻撃を受け、王政は成り立たなくなり、結局民族解放どころか、隣国の植民地の様になっていた。民主化とは名ばかりで、隣国の都合の良い法律に縛られてしまっていた。EPもとんだ企みの片棒を担がされていたものである。それともEPは判っていたのだろうか。崋山の子供の頃の出来事などで、よく覚えてはいない。言語も隣国の言葉を使うようになり、地球共通言語は学習させてはいない。地球上の孤島のような所である。
「現在でも同じ境遇なのかな。これは問題だな。俺の子供の頃の状態のままなら、厄介だな。どうしてこんな所にシールドの設備を作る気になったのかな」
ぶつぶつ文句を言っていると、システムノートにイヴからメールが来た。
「そうだった、本部に着いたと連絡し忘れていたけど。イヴには分かっていたんだな」
と思って、気軽にメールを開いてみた。ところが、
「双市朗の最近の写真が手に入りました。連合軍OBの連絡先一覧です。これは秘密です」
とあって、写真も来ている。見てみると、
「これはアンドロイドじゃあないか。最近の写真だってか。あいつやられちまったのか。それじゃあフロリモンやカイやルークはどうなったのかな」
他の奴の写真を見ようとしたが、カイとルークの連絡先は無かった。
「あいつらだってOBじゃあないか。つまり、生きていて連絡先は解っていないって事だな。多分フロリモンも生きているんだろうな。畜生、ズーム社の片も付けなければならないし。忙しいな」
崋山は少し涙にくれながら、
「とりあえず、今は勉強するしかない。地球に帰る前に、設備の設計図が分かるようになっていないと不味い」
イヴの秘密のメールで、崋山は益々学習に身が入る事となった。そして理解できるところが出て来ると、時間が足りないのが分かり、寝る間もないような状態である。一日三時間睡眠で、食事も食べながらコンピューター画面を睨んでいた。そんな時、部屋に誰かが入って来たような気もしたが、振り向く時間も惜しいし、話す時間なども無いので放って置いたら、ベルさんの声が後ろからして来た。
「はかどっているかな。明日は地球行の便が出るが、行けるかな」
「はあっ、行けそうに見えますかね。出発時間になったら、このテーブル下のマットごと、引きずって乗せてもらうように手配しておいてほしい所ですね。今、丁度実験その二回目の成果予想の所ですから、一回目と二回目のどちらが良いか技術者の意見を見て、彼らに返事をしたいんです。俺の意見としてね。それを終わらせないと、地球に行けないですね。あっちに行けば連絡に暇取りますから」
と言いながら、パンをかじっていた。ベルさんに振り向くことも無くである。
「なるほど、船に乗る前に結論は出そうかな」
「さあね、何も問題を見つけられなければ、出るかもしれませんけど」
「次の船は一週間後だが」
「わぁ、じゃあ明日出発するしかないな」
「では、そういう手配で行こう。地球に着いたら、直ぐ現地に行って、地層を調べて欲しい。予定地が装置の設置に適しているか調べないとね。地層の強度が弱い場合、他の場所を探すしかない。それを最初にやって、適した強度の場所を技術者に知らせてくれ」
「それ、彼らに夢に出るくらい言われています。強度の測り方も教えられましたが、測定機乗せてくれていますかね。船に。チェックしといてください」
「そうだね、2,3機余分に乗せておこうか」
「余分って言うのは、10機ぐらいの時言うんじゃあないですかね」
「そうかい、じゃあ10機ね。しかし、君は10機も持ってうろつけるのかな」
「持つのは一機でしょう。後はそこいらに置いて置くしかないですね。体積が幾らだったか、とにかく大きな石に当たると壊れるって言うんですよ。彼らが。たまたま、当たった時困るから入れて置いてください」
「じゃあそういう事で、手配しておくからね。一度眠った方が効率が良いのではないかな」
「寝たら、爆睡で間に合わないですから。ここを出たら、送信時間が長いんです」
ベルさんはため息をついて出て行った。崋山には聞こえることは無いだろうと思っていたのだろう。しかし崋山は耳が良く聞こえる方である。
「ベルさん、なんでため息ついたかな」
崋山は、自分が一度もベルさんを見ていなかったことに気が付いた。気に障ったかな。ちらっと思った。
何とか地球行に間に合う程度には設備の設計図を理解し、地球に帰る事となった崋山である。
当日朝、崋山はシャール総司令官に、
「もし、設備が出来上がった所で、問題点が出てきたら、どうなるんでしょうかね」
と、一応、念のために聞いてみた。もうお手上げとは思ったが、である。
「その時は作り直すしかないだろうな。因みに今の設計では費用は1000億共通通貨ほどかかっているだろうな」
「そんなに。まさか問題点が私のミスだった場合、弁償とかにはなりませんよね」
「しかし、連合軍が二度目の費用を出すかな。運よく、程よく、迎撃が成功するように祈る方が現実的だね。2回目の製作をはじめるよりはな。第一、作り直すには時間が係るからな。それにしても、君の地球には神はいるか?私の故郷にはいる。いざとなったら神頼みだ。」
「そんなあ、これだけ必死で勉強したのに。終いには神頼みとは」
「嫌なら、何度でもチェックし直せ」
「そうですね。お世話になりました」
崋山はそう言って、シャール防衛総司令官に別れを告げた。
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