第3話 特別昇進

 崋山は連合軍本部に着き、あまり良い思い出のない所だったなと思いながら、一先ず個人的な宿泊のホテルを選んで泊まる事にした。ムニン22さんの父親から貰っていた通帳カードを出して、金額を確かめようと思った。連合軍銀行に行き、

「あの銀河のお礼の相場って、どの位なんだろうな。さしずめ俺の年俸位はくれるんじゃあないかな」

 と、呑気な希望を持って入っている金額を見た。

「ゼロがこんなにたくさん、・・・何これ。この単位って第16銀河の通貨かな。そんなはずないよな、共通通貨にしてくれって念を押したはず」

 崋山の通帳には、2000億通貨入っていた。最新型宇宙船が20隻は買える金額である。

「俺って、こんなん貰えることしたのかな。あいつの親父さんって、あの銀河の最高責任者か何かかな。そうだった。取り巻きの人が確か、次は彼がそういうのになる筈だとか言っていたっけ。すごい」

 崋山は震えが来た。

「カード無くす訳にはいかないな。でも再発行してくれるかも。だけど生体反応だって言っていたから、カード盗られても、俺以外は下ろせないし」

 等と呟きながら、ホテルの部屋に戻った。それでも、一応カードは無くさないように握りしめていた。はっとする。

「割れていないかな」

 おそるおそる手を広げると、カードは無事だった。

「まあ、そんなに脆い作りじゃあないよな」

 ドキドキしながら、何処に仕舞おうかと悩んだあげく、

「そうだった、俺しか下ろせないんだった」

 そんな風に過ごすうちに、本部事務官から連絡が来た。何の用かは知らないが、今から本部会議を開くから、来いと言われた。崋山は、

「別に本部の会議なんかに興味はないのにな」

 と思ったが、断る訳にはいかないだろう。まだ退役していないし。と思って本部の会議室に向った。

「ったく、この間の顔触れじゃあないだろうな」

 と思って、ふと気が付いた。こっちは裁判所だった。崋山は連合軍本部は初めて行くはずだった。慌てて、行きずりの人に聞き、本部の建屋に向った。本部だけあって、かなりのセキュリティーで、カメラやレーザー光線の銃口がたくさん揃って入場者を迎えている。

 崋山は戸惑ったが、呼ばれていただけに、自動ドアはすんなり自動で開いた。

「だろうな」

 と、納得しながら、受付のロボットさんに、連絡で教えられていた会議室の在りかを聞いてみた。

「依田崋山防衛本部司令官、ようこそおいで下さいました。先日のご活躍、本部の銀河司令官一同、大変お喜びでした。こちらが、司令官オプションのカードキーです。このキーはここのどの部署のセキュリティーも通れますし、連合軍のどの基地でも通用します」

「・・・」

 崋山はそのカードを一応受け取ったが、内心ショックで悶々としていた。会議室に向いながら考えた。

『これから地球に戻るつもりだったのに、本人が引き受けるかどうかも聞かずに、妙ちくりんな本部司令官にさせられてしまった』

「絶対断ってやる」

 崋山は固く決心し、呟いた。そしてふと思った。

『金をばらまいたら、取り消せるんじゃあないかな。どうせ、そういうレベルだろ』

 気を取り直して、会議室に入った。

 会議室に居た、各銀河の人々は裁判の時とはメンバーが違っていた。しかし、ベルさんはいた。彼は第3銀河の総司令官、と言う話は聞いていた。だから、ここのメンバーは総司令官達なのだろう。

「依田崋山、良く来たな。先日のキャプテンズーとの戦いの勝利は、素晴らしい成果だった。由って特別昇進して、司令官待遇になった。今日、君を呼んだのは、これからの任務をこちらの防衛司令官シャールが説明し、それを理解してもらう事だ」

 ベルさんに言われ、崋山は少し躊躇したが、しかし勇気を奮って言う事にした。

「その件ですが、先日の裁判の前に、地球に強制送還の手筈になって居りまして、私はその地球に送還される前に、自首したわけでして。そう言う事で現在、私は退役の上、地球に送還されることになっているはずと、認識しております」

 ベルさんは、崋山の必死の言い分を笑って聞き、

「それがそうはなって居ないんだ。監獄星行と裁判で判決が出ただろう。だからその時点で、退役して地球へ送還は取り消しだ」

「そんなあ」

 崋山はがっくり来たが、気を引き締めきっぱり言った。

「それでは、私は一身上の都合と言う事で、退役届を出します」

「いやいや、それは認められないだろうな」

「私は絶対地球に帰る心算です。妻のイヴには、すでに地球で待っているように連絡していますから。妻のいる地球に帰ります。ここで言って良いのかどうかわかりませんが、退役を認められるなら、連合軍に寄付をする用意があります。はっきり言って、金を積んで辞めると言う事です。良く有る話でしょう。いろんな場面で」

 崋山がいきりたって言いつのっているのを聞き、他の司令官の中には、ぶつぶつと何か言いながら、首を振っている人も出て来た。崋山が匂わせている事を察していると見た。

 ベルさんは、

「君の言い分は良く分かった。しかし言い添えておくと、今回の任務はその戻りたい地球での任務なんだが、話だけでも聞いてみないか。どうだろう」

「へっ」

 崋山、とんだ失態と察した。『それを先に言ってよ』と思う所である。

「まあ、金は払う必要が無いようでしたら、それに越したことはありませんけど」

 崋山、失速である。しかし話を聞いて、前言を取り消さなければ良かったと思う事となる。どちらにしても、意見は相手の話をすべて聞いてからの事であると、学んだ崋山だった。

「それでは、その任務とはどういう件ですか」

 崋山はそう言ってしまった。とうとうもう断れない、能力以上の任務という深みにはまってしまうのである。

 シャール防衛総司令官と言う人が、崋山を手招きしながら、他のメンバーに言っている。

「こっちの話は長くなるから、君たちは先に話を進めていてくれ。私は依田司令官と横のブースで彼の任務の話をしているから、何か私に用がある場合は、構わないから言ってくれ。では依田君、そこのブースに移動しよう」

 崋山はとぼとぼシャール司令官について行った。

 彼の話によると、とんでもない任務だった。

 敵方は総崩れとなったものの、それでは気の済まない輩が、連合軍に攻撃を仕掛けてくるという情報が入っていた。可能性としては、敵方の中でも一番技術的に優れた第13銀河で開発されている、ブラックホール砲というビームと言って良いものかどうか分からないが、そういうものを地球目掛けて撃ってくるかもしれない。それは名前どおり、地球に命中すれば、ブラックホールが小さいながら発生する。地球が消滅する程度の規模の、ブラックホールが発生してしまうそうである。

「それは大変じゃあないですか。防ぐ手立てはあるのですか」

 崋山は思わず、シャール司令官に聞くと、

「敵の攻撃に備える程度の技術は、こっちにも有ってね。迎撃すると言う方法もあるが、何せ最新兵器だから、試したわけではない。そこで地球にシールドを張ることも必要になる。こっちから、そこの銀河にスパイを送り込んでいてね。そのスパイから、ブラックホール砲を防ぐことのできるシールドの、開発資料の情報が入った。こっちの研究所で作ってみたが、それで防げるのかどうか、計算上の事だからね。兎に角、計算上のシールドは出来上がった。この本部に貼る事は出来るし、各銀河の主だった所にその装置を配置する段取りになっている。そこで、君の任務だが、地球にその装置を配備する総責任者と言う事になる。設備一式は地球環境に合うように、手直しがいるかもしれない。技術者はその辺の所も再考するそうだ。そこで、君は地球に戻って、シールド装置の設置場所の詳しい立地環境を、報告して欲しい。設置場所はベル総司令官と技術者とで候補地は決めてある。そこで実際に行って設置に不都合はないか確かめ、装置配備以前の設備の構築をしてほしい。その設計も地球で手に入る機材で設計してあるから、君はその設計通りの設備を整えてくれ。後日技術者が、シールド装置を配置しに地球に行く事になるから、その者達の生活環境も整えてほしい。その住居の設計もしてある。地球にも適した人材がいるだろうが、こっちで手伝いの部下を連れて行くなら、先に地球に行ってその住居の手筈が先決だな」

 崋山は気が遠くなりそうな気がした。自分の能力にそういう知識も頭脳も無いし、部下を持つ事など想像もできない。今まで連合軍では、底辺のランクの等級だったのに。

「すみませんが、私にはそのような能力はありません。ベル司令官は、どうして私にそんな任務に就かせようとしたのですかね。学校の成績位、情報は行っているはずですが」

 途方に暮れて崋山が言うと、シャール司令官は、

「しかし、君は新人類という者だろう?あの龍昂の孫じゃあないか。やればできるのじゃあないかな。いままで、そう言った部門の事はやっていないだけだろう」

 そう言われても、自分の能力ぐらいわきまえている崋山は、

「ベル司令官っ」

 崋山はやけっぱちになって、ベルさんに抗議しようと思った。

「おや。依田君、何か用かな」

 崋山の抗議はお見通しと見えて、ベルさんはしれっと恍けて聞いた。

「こんなこと、僕の能力にはありませんよ。はっきり言って頭は相当悪いですから」

「そうかな、君の伯父さんは学校や軍隊では、目立つなと教えていたそうじゃあないか。勉強はワザとしていない筈だ。学校だけが学習の場では無いぞ。人生、一生勉強は必要だ。君のお爺さんの龍昂は、あらゆる銀河の言葉を覚えていたし、新型の宇宙船の構造や操作方法も自分で学んでいたし、違う銀河の船でも知識は有った。君にだってやる気になれば出来ない筈はないだろう」

「ベルさんは僕がやる気を出していないだけ、と思われているんですね。しかし自分の能力ぐらい、解っていますから」

 ベルさんは、崋山をじっと見て、

「いや、解っていないと思うな。今から勉強してみろ。本気でな。学校の学習資料ぐらいここにも揃っているぞ」

 崋山は、

「そう言う事なら、しばらく勉強しますが。出来ないと思ったらそう言います」

「しかし、お前しかこの任務は出来まい。事情が分かっているのは、おそらく第3銀河では俺以外では、お前ぐらいじゃあないかな。もしできなければ、お前の大事な故郷の地球は、ブラックホールに吸い込まれて、存在しなくなるのだぞ。お前の大事なイヴも地球と同じ運命だ。それでも出来ないと言えるか。死ぬ気で頑張るしかないのではないかな。出来なければ、地球に居るものすべてが存在しなくなる。そうじゃあないのかな」

 崋山は愕然とした。

「ベルさんがするのでは、駄目なのですか」

「俺には総司令官の任務がある。総司令官の俺の身代わりの心当たりが、お前には有るのかな」

「すみません、有りませんでした。死ぬ気で勉強します」

「そうしてくれ」

 崋山の運命の新たな歯車が、回り出した。

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