第2話 家族達
崋山は第7銀河の本部に帰る途中イヴ達に連絡しなければと、船長に依頼して連絡したい旨を伝えた。第7銀河に居るソーヤさん達にも、遅まきながら事情を伝えておきたい。まだ遠方なので、メールのようなシステムで送ると言われて、文章を書いて渡すと担当の人に、船長も名前はムニン22さんだと言われた。それで、ほにゃららのムニン22さんと崋山の言いたい人の名を書くと言う。ほにゃららはどうやら住所らしい。
全くややこしい銀河事情である。
崋山からの連絡は、その時丁度本部棟に居たキースさんが走ってイヴの所に、持って来てくれた。それも、叫びながら。お蔭で、イヴは彼がまだ家に到着する前に知ることが出来た。
彼は、
「おおーい、イヴ。崋山が帰って来るぞー」
と、早々と教えてくれた。
イヴは彼の声が何故か早々と聞こえてきて、胸がいっぱいになりヘルメットなしで戸を開け、慌てて戻って被り、外に走り出た。
「キースさん本当なの」
「本当も本当。証拠のコピーも持って来た」
イヴは震える手で受け取りそれを見た。第7銀河の本部にも連絡することがあった様で、イヴあての所を切り取って持って来てくれていた。内容はだいたいこんな感じ、
[イヴへ、心配かけてごめんね。もうすぐ会えるね。地球には帰っていないんだね。でも、私は連合軍の本部に寄った後、地球の宇宙船に乗り換えて、地球に帰るよ。地球で待っていてね。およそ二か月後地球到着です。崋山よりイヴへ愛をこめて]
「なんだか素敵な内容だけど、言い様が本人らしくないね。本当の事かな」
イヴの感想に、アンやレイン、それにキースさんものぞき込んで、
「愛をこめては、らしくないな」
レインも言った。キースさんは、
「それは、第16銀河の家族あて文書の決まり文句だよ。末尾にそう書くそうだ。以前の同じ船だった人が言った事がある。おそらく乗った船のスタッフに頼んだんだよ。気にすることは無い。地球に直接帰ると言うのは間違いない」
そう言う事なら、イヴは地球に戻って、そこで崋山を待つしかない。
イヴが地球に帰ると言うと、レインやアンも一緒に帰ろうと言い出した。ひとりで返すのは心配らしい。レインは地球に行く準備を始めた。住むところを、連合軍に手配してもらっている。どういう事?イヴは不思議に思った。イヴも一緒に住むことになるらしい。
そんなある日、レインはイヴに、
「これは内緒の話だが、内緒と言うのは、ママにはと言う意味だよ。どうも、私の勘なんだが、イワノフ達はズーム社との戦いに負けているような気がするね。ママにはフロリモンとは連絡は取り合わないと、イワノフとの話し合いで決めていると言って置いたが、本当に彼らとは連絡が取れなくなっている。報告では、ズーム社に居たスパイを一掃したことになっているが。ホントに内緒だからね。と言うのも」
と言いながら、レインは自分のシステム手帳をポケットから取り出し、
「これは連合軍のOBの連絡先一覧だが、この神崎双市朗の写真を見てごらん」
レインはそう言って、イヴに連合軍OBの一覧を見せた。そこには神崎双市朗が載っていた。
「この写真が、変ですか」
「君には分からないか。そうなのか。私の気にし過ぎかな」
「いえいえ、ちょっと私は鈍いとこがあるから。一体どこが変なんですか」
「何処がってねえ、君は幼いころから彼を見知っているから、分かると思ったんだがなあ。そうだ、崋山はもう本部についている頃だから、この写真を送ってみてくれないかな。秘密だからね」
「・・・。秘密って言って置くのですか」
「そうそう、そう言って置かないと、あいつの事だから騒ぎ出しかねない」
レインはイヴにそう言って、そそくさとアンのいる所へ行ってしまった。イヴはもう一度双市朗の写真をしげしげと見た。そして気が付いた。
「そうだ、頭を左に傾げていない。いつも写真に写る時は、そんな風にしていたんだったっけ」
イヴはぞっとした。これは崋山に見せたらどうなるのかな。もう私は解ってしまったけど。と思った。しかしレインには、何か心づもりがあるのかもしれないと思い、崋山に写真を送ることにしたのだった。
それからすぐ、地球行の船が出る事になり、イヴは三人で地球に戻った。連合軍に住処を頼んでいると思っていたが、着いてみると、アンの実家に住む事が分かった。
イヴはレインに、
「アンママの実家なんですね。崋山の住処だったところでもあるし」
と言ってみると、
「色々、セキュリティーを工夫してもらったんだよ。分からないように改築してある」
と、こっそり教えてくれた。
何とか、家にたどり着いた三人。実の所、イヴとレインは船から降り、セキュリティーが万全なアンの実家に着くまでに、ズーム社から襲われるのではないかと、ひやひやしていた。 しかしそれは杞憂だったようだ。彼らは表では動かない。
アンは家に着くと、懐かしがって喜んでいた。
「まあ、以前とほとんど変わらないみたい。懐かしいわ。でも、パパやペニーはもう居ないのね。ところで、レイン。ママは殺されていなかったんでしょう。どうしているのかしら」
「ああ、あの人はペニーと別居して暮らしていた家に、まだ住んでいるそうだよ。連絡先は聞いている。ここに電話してごらん。きっと喜ぶよ。イヴも紹介しないとね」
そう言う事になり、アンは母親に電話し始めた。イヴはアンの側でそれを見守っていた。
「ママ、あたしよ、誰だか分る」
イヴは側で、ママと呼ぶ女性はもうアンしかいないのに、と思ったが、それが人情というものだろうか。
アンは涙ながらに母親と話している。
「そう、そうなの。戻って来たのよ。あの子には会ったわ。今、連合軍の本部で任務の打ち合わせ中なの。じき、こっちに戻って来るわ。早々、あの子の奥さんと一緒に戻って来たの。ええ、結婚したのよ。向うで。知らなかったの?そう言えばそうよね。誰も知らせる人は居なかったでしょうね。あたしが知らせるべきだったかしら。それがあの頃、色々あって、気が回らなかったの、ごめんなさい。あら、お兄さんたち一家と同居しているの?それは良かったじゃあないの。最近戻って来たのね。じゃあ、どっちかの家で顔合わせしない?あ、レインがこっちでしてくれって。イヴを、そうあの子の奥さんの名よ。イヴをあまり移動させたくないのよ。あのね、発表しちゃうと、妊娠しているの。崋山との子に決まっているでしょ。今こそ、崋山は結婚したって言ったでしょ。皆で来てちょうだい。何時でもいいわよ。こっちは着いたばかりで、仕事とかないから暇なの。分かったわ、待っているわ」
アンは電話が終わると、イヴに、
「ママも、もう年ね。こっちの言っている事が、解っているのかどうか、怪しいものだわ。でも、兄さん一家と同居しているって、皆一緒に来るそうよ。崋山の従姉妹達もよ。しばらく一緒に育ったそうだから。良かったわね。話し相手が出来そうね」
そう言ってにっこりした。
イヴは双市朗の事をレインから口止めされていたので、アンに言えず、誰にも悩みを言えずに悶々としていたのだが、話し相手が出来て嬉しかった。それにアンのお兄さんなら、ある程度あの事情を知っているかもしれないと思った。
一方アンのママ、崋山のお婆ちゃんは、アンとの電話が終わると、
「今、こっちに戻って来たアンと電話したんだけどね、カサンドラの実のママよ。そうね皆、それは知っていたわね。兎に角、ニュースよ。カサンは結婚したわ。イヴって子と、そして赤ちゃんも出来ているの。リリー、お生憎さま。カサン達が住んでいた家に住むそうよ、会いに来てって言うから皆で行きましょう」
崋山の結婚を聞いた周りにいた女性達は、悲鳴や大声を上げた。
「ええっ、崋山結婚したの失恋だわ。シオンもでしょ」
「わぁ結婚したの。何、言ってるのマナミ。リリーお生憎様ね」
同居しているのは、アンの兄一家達だけではなかった。アンの双子の妹であり、養女になって皆とは別れていたシャーロットと、その娘のリリーも同居しているのだった。リリーと言えば崋山がまだ17歳の頃、あの顛末の挙句、妊娠して恋人の教師印南と結婚したはずだが、アンの祖母の家に居ると言う事は、どうやら離婚したらしい。
シャーロットは、
「お母さま、アンに私が居ること言わなかったわね。酷い」
「シャーロットさん、電話で話す事じゃあないんじゃないかしら。会えばきっと喜んでくれますよ」
「ミヤ、言っても無駄だ。じゃあ母さん。早速旅行の準備をしようよ」
その時、今まで黙っていたリリーは急に、
「畜生、チクショウ、崋山はあたしと結婚するはずなのよ。マーガレットだっているのに。この子には実の父親が必要なんだから。絶対そいつに諦めてもらって、あたしが崋山と結婚するのよ。そいつに会ってはっきりさせてやる。妻は私一人で十分よ」
マナミはシオンに言った。
「リリー、いよいよ狂ってきたわね」
シオンは、
「崋山の結婚はショックだったけど、これで気分はすっきりしたわね。所詮あたし達は崋山にとっては家族でしかないんだし、そのイヴって子と結婚していて良かったわね。マーガレットにも、変な期待を持たせちゃあいけないと思っていたのよ。ほっとしたわね」
と思った事を口にしていた。側にはそのマーガレット本人が居るのだが。
マーガレットは昨年から学校へ行くようになり、リリーは学校で他の子の親達に、マーガレットの父親は、連合軍に現在は入隊していているので別居している。事情があってまだ結婚していない。地球に戻ってきたら親子三人で暮らすのだと、言いふらしていた。シオンやマナミが、言いふらすんじゃあないと言っても聞かなかった。
当のマーガレットは、きっと印南のパパみたいに、本当のパパもママが嫌いなんだと初めから察していた。
崋山そっくりの顔で、将来は美人になるなどと言われるまでも無く、現在が物凄い美人なのである。そして心も体も傷を持った儚い天使でもあるのだ。シオン達と同居しだすと、二人に懐いて一緒に居たがり、母親には寄り付こうとはしなかった。ほとんど話はしなかったが、話せない訳ではない。何も言いたくないだけである。
リリーは、マーガレットに、
「お出かけの準備よ、マーガレット。もうこの家には帰らないわ。あたし達負ける訳にはいかないの、あっちの家に居て、パパを待つのよ」
すると、リリーの母親であるシャーロットは、
「リリー、お婆ちゃんが言っている事、聞いていなかったの。崋山はもう結婚しているのよ。イヴって言う人と。お婆ちゃんの話を聞いていると、妊娠だってしているんじゃあないの。あんたとの事は、愛があったわけじゃないでしょう。その時は印南さんと結婚するつもりだったんでしょう。崋山は、イヴとの子の方が自分の子だと思うに違いないし、別れるはずはないわ」
リリーは、
「そんなこと聞いていないわ。そんな話信じない。嘘に決まっているわ。絶対別れさせるんだから」
と叫んだ。
お婆ちゃんは、
「シャーロット、リリーたちはお留守番させた方が良いんじゃあない」
と、言ってみるが、
「いやよ。崋山がもうすぐ帰って来るんだから」
と、リリーが叫ぶので、リョウが、
「母さん、置いて行くのも危ない気がするな。俺と、ミヤで、見張っているよ。な、ミヤ。君も良く見ていてくれ」
「ええ、分ったわ。一人にしても置けないわね」
「一人ですって、あたしだけ留守番させる気だったの。マーガレットは連れて行って」
と、言葉尻をとらえて又、叫んだ。ミヤはやけになって、
「だって、あなたと違ってマーガレットは良い子なんだもの」
と、リリーの神経を逆なですると、リリーは、マーガレットをものすごい勢いで平手打ちした。皆で慌てて止めたが、マーガレットは打たれ慣れているようで、泣きも叫びもしなかった。
マナミは、
「何するの。ホントにあんたって連れて行きたくないわね。これじゃ、パパ、イヴに何するか分からないわよ。もしものことが有ったら、崋山になんて言い訳する気。置いて行こうよ」
「イヴは妊娠しているんだからね。カサンに憎まれたくなかったら。リリーも大人しくしていないと」
と、お婆ちゃんも意見を言うと、マナミはお婆ちゃんに小声で、
「もう、憎まれているよ」
と、訂正した。
「みんな、一泊ぐらいしたら帰ろう。長居はしないぞ。リリー、向うに居着くことは許さないからな」
リョウはそう言って、マイクロバスの用意をしに行った。これだけの人数になっているので、先日新しくマイクロバスを購入していたのだが、意外と早く使う事になったのである。
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