ラブコメ全否定

 嫌なものは嫌だ。という話。


 その日に限って、油断というか何というか。

 注意力散漫だったことは認める。

 通勤時間、片道約90分。

 故に、早起き。今日も5時起き。

 いつも眠い、ダルい、つらい。

 水曜日の朝だった。期末決済も近い、悪夢的一週間の中日。今回は疲労感と焦燥感で胸いっぱい、帳簿でいっぱいいっぱい。

 そのせいか、そのせいだっ。

 数分の寝坊でも遠距離通勤では命取り、急げ駅前、電車いっちまう。

 なぁんてときだった。

 角から、俺めがけて突進してくる小娘。

 今日も狩人の目、猛然と。食パンくわえてダッシュ。

 ここ数週間、毎朝回避してたんだ。

 でもね、水曜日の悪夢。俺は綺麗に追突された。

 その瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは『遅刻』の2文字。遅刻理由の文面のテンプレ記憶を脳内検索しちまう。

 体当たり攻撃してきた、キュートな学聖乙女のグレーゾーンに位置する小娘の……格好をしたWKZ48な人は、尻もち。イテテと言ってる。

 転ぶほどの衝撃は回避したものの、奴はペタンって。座ったとしか思えない。

 曲げた生足の膝、はだけたプリーツスカート、道路に食パン。

 うん、痛い。こっち見んな。

 だから俺は脱兎の如く遁走。

 俺の背後、奴は叫ぶ。追いかけてくる。

『こらぁ、待てぇー、フラグ勝手に折ってんじゃねーぞ!!』

 奴の背骨を折ったほうが早いかもしれん。

 だが、次々と角という角から!

 今日に限って、多いんだ。

 もう争奪レース状態だ。

 ジャンプ、スライディング、その他駆使して。

 まったく俺は何してんだ?


 ふと気づいた。

 フラグ、フラグって言ってたな。

 駅、改札前、午前5時32分。

 立ち止まり、振り返る。

 有象無象の魑魅魍魎めいた、ラブちゅう2病ども

が押し寄せてくる。いや、ちょっと大袈裟か、それでも20人くらい?

 奴等に向かって、俺は!


 この『戦争』が終わったら結婚するんだ!!!!


 奴等の動きは止まった。

 我ながら見事な作戦と思った。

 がっ!

 残念なことに、奴等。

 こーゆー難しいことはわからなかったみたいで。

 俺はズタズタに引き裂かれた。

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