急げ! あっという間に

【第128話】夜と朝の隙間に


 お互い、ラストサマー。

 さよなら、スクールディズ。

 君も僕もドロップアウト。

 支配、管理、そして数値化されるくらいなら。

 富とは無縁のフリーダム、それでいい。


 本気で、そう思ってた。

 でも、君は……?


 水平線に向かって、君は。

 夢の欠片を放り投げて、泣いた。

 そんな夏も、もうすぐ終わるのだろう。

 暦の上では、秋の様子で。

 君と出会った日は、よく覚えてないけど。海沿いの、灯台へと続く坂道も。コンビニの駐車場、道の駅の駐車場、海水浴シーズンのみの臨時駐車場、最近オープンしたドラッグストアの駐車場。そんなことばかり覚えてる。

 君は、いつだって。日焼けするのを嫌がってて。小麦色の肌を毛嫌いしてた。麦わら帽子は、何度も風にさらわれて。そのたびに僕は、半分笑いながら、もう半分は必死で。麦わら帽子を追いかけた。

 夏の大三角形が瞬く夜、なまぬるい空気を押しのけて、君に会いたくて。夜と朝の隙間を探して、見つけて、忍び込んで。

 街灯の色、それ以外、真っ黒な道。待ち合わせたわけでもないのに、駆け出した。

 スマホ忘れてしまって。

 海水浴場のそば、奇跡的に生存していた電話ボックス、エメラルドグリーンに望みをつなぐ。一度聞いたら忘れない、テレフォンナンバー。

 夜は思ったより短いよ。

 急がなきゃ。

 君は、起きてる? まどろんでる? こんなに君を愛しく思う熱帯夜、僕は初めて知った孤独を背負いながら。

 ジーンズのポケット、いれっぱなしの百円玉、コイン投入のほうが緊張するね。ボックスの中の、蜘蛛の巣も、蛾も、他の蟲も気にしない。

 プッシュボタン。

 押すとなれば、妙に落ち着くね。

 通知設定次第じゃ、アウトだけれども。

 7回のコール音。

 通話開始……でも、僕が。

 何か言いかけたときに聞こえた声は。

『馬鹿め、奴は既に死んだわ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る