第21話 負傷
俺がエンジンを吹かすと、一気に加速。
敵影を捕らえると同時にハンドガンを撃ち放つ。
接近されたと気づく頃には蜂の巣になっている。
その後ろから弾丸が追い付く。火月のスナイパーライフルだ。
レーダーの範囲外から放たれる弾丸は次々と敵機を落としていく。
『遅い遅い!』
火月がそう言い、狙撃を行う。
俺は敵機に肉迫すると、反動弾やハンドガンでコクピットを撃ち抜く。
骸を晒したAnDが宇宙に放り出される。
これは平和ではない。
AnDのやることか?
俺は戦場の空気に飲まれたみたいに視界が明滅する。
敵機にとりつかれ、敵の無反動砲が火を噴く。俺は大型のシールドでガードするが、反動を殺しきれない。
「くっ」
明滅し、視界が暗くなる。
なんで俺はこんなところで一人、いるんだ? なんで生きていられるんだ?
なんのために生きている? こんな狭く暗い場所に放り出されて。ティアラも救えずに。
Xシステムがうねりを上げる。
紅い燐光を放ち、敵機が離れていく。
『なんだ!?』
「いったい、なにが……?」
俺はその機を逃さずに、ハンドガンを撃ち放つ。
そのAnDにティアラの陰が映る。
「くっ」
照準をずらし、敵機の武装を中心にハンドガンで撃ち抜く。
胴体だけを残した骸が宇宙を舞う。
バチバチと爆ぜ、空気の流出が認められる。
だが、これでいいのだ。
これで平和が守られる。
――本当に?
残留思念。
聴いたことがある。
生きとし生けるものの声が聞こえたのだ。
なんだ? なぜXシステムがティアラを知っている。
分からないことだらけで、俺はぼーっとしてしまった。
『おい! 内藤! しっかりしろ!』
火月の必死な声音に、俺の身体がぴくりと動く。
すぐさまミサイルを回避。チャフを散布しつつ、俺は敵機に向かってハンドガンを撃ち放つ。
エンジンを吹かし、再び接近するとハンドガンでコクピットを潰す。
「敵は!?」
どこにいる。レーダーを確認すると、近くには全滅したテロリストの残骸ばかりが残る。
『ひゅー。これで給料分の仕事はした。帰艦すっぞ』
火月がそう言い、周囲のAnDも帰艦を始める。
何か。
何か嫌な予感がしている。殺気を感じる。
「危ない!」
と、俺は真っ直ぐに機体を動かし、火月と敵機との間に割り込む。
放たれてた銃弾は俺のコクピットを貫くには十分な威力があった。
※※※
考えるよりも早く狙撃を行う火月。
残った敵を落とすと、火月は内藤の機体に寄り添うように帰艦する。
『てめー! なんでおれをかばいやがった!』
「まさか、敵機が生きていたなんて……」
運良く火月には怪我がなかった。だが、その代わりに内藤が打撃を受けてしまった。神住は低くうなる。
細胞活性装置に運び込まれる内藤。
細胞分裂による傷の修復。それを早まらせ、自浄作用をもたらす――細胞活性装置。
しかし、内藤がAnDの固い部分で守ってくれなければ、私たちは火月という優秀なパイロットを失うところだった。
嘆息と一緒に重いため息を吐く。
「ち。こいつ、おれをかばいやがった」
「そこは素直に喜びなさいよ。あんたの悪いところよ」
「なに言ってやがる。おれなら回避できたんだよ」
「嘘ばっかり。あなたはあの角度からの攻撃に備えていなかった。無防備なコクピットを晒していたわ」
私がきつめに言うと、火月はつまんなさそうにつばを吐き捨て、出ていく。
「でも、本当。内藤君はなんであんなのをかばったのかしら」
それは火月に対する冒涜とも、貴重な人材への貶めでもあると思う。
でも火月の性格の悪さ、口の悪さは内藤君も知っている。
いくら腕前が良くたって、性格がすべてをダメにしていると言い切っても過言ではない。
「まったく、お人好しなんだから」
私は聞こえるはずのない内藤君に呼びかける。
内藤が寝てからすぐにブリーフィングが始まった。
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