第20話 哨戒
あれから数ヶ月。
練習や訓練を重ねてきた俺と火月、それに神住は宇宙ステーションの護衛任務を任されていた。
飛来するデブリなどは少なく、敵対しているAnDも見受けられない。
暇な時間が続く。
『哨戒任務なんて、めんどくせー』
火月がつまらなさそうに外周を繰り返す。
「そう言うな。早期発見が勝ち目を生む」
『こんなふるくせー建物。誰も狙わねーって』
『あら。そうでもないわよ。幾度か攻防があったみたい』
神住がモニターに過去の戦闘履歴を映し出す。
『けっ。結局は勝ちゃいいんだろ? 俺ならやれるね』
火月は自信満々に言いAnDの速度を上げる。
「早まるな。今は哨戒任務が優先すべき事項だ」
俺がそう言うと、苛立ちを露わにする火月。
『てめーに言われる話じゃねーよ』
好戦的なこいつに、何を言っても無駄なのかもしれない。
輸送艦に戻ると、俺の顔を見てひそひそと会話する連中を見かけた。
「やっぱりテロリストの一人じゃないんですかね?」「いや、そう判断するには早計だ」「ち。これだから内藤は」
様々な声が聞こえるが、だいたい予測していた通りだ。
俺がテロリストの幹部・内藤敦の息子と知られたらしい。
「気にすんじゃねーよ。てめーの相手はおれだ」
AnDから降り立った火月が赤髪をなびかせながら呟く。
「だいたいスパイというのなら、無理がある。こんな無愛想で無鉄砲なやつにスパイだと? 務まるかよ」
火月はそう言い残し一人先に休憩室へと向かう。
俺もその後を追うようにして自室へと向かう。
シャワーを浴び、汗を流すと、俺は着替える。
そして自室に戻ると、俺は筋トレを開始する。
プロテインバーをかじり、しばしの休憩。
ベッドの上になだれ込むと、そのまま意識が落ちていく。
しっかりと休憩したあと、俺は食堂に向かう。
そこにはたくさんの種類のメニューがあるが、俺はハンバーグに決めていた。
「内藤君はハンバーグが好きね」
隣に立っていた神住が弾んだ声で呟く。
「ああ。そういう神住は?」
「ん? 私はパスタよ」
「女の子だな」
「でしょ!」
ふふっと笑みを浮かべる神住。長く伸びた金糸を耳にかけ直す。
俺は神住と一緒に向かい合って座る。
「これうまいんだ~」
神住は嬉しそうにパスタを頬張る。
本当に美味しそうに食べるな。
「ん? そんなに見て何?」
じっと見つめてくる神住。
「いや、なんでもない」
「あ。食べてみたいんだ? じゃあ、はい。あーん」
神住はパスタを巻き付けたフォークをこちらに向けてくる。
「え。ああ」
俺はあーんっと口を開けて、受け入れる。
ナポリタンのトマトが口いっぱいに広がる。味は濃い目か。
それでもうまい。
「じゃあ、内藤君のも」
「え。ああ」
びっくりして心臓が跳ね上がったが、俺は神住の上目遣いにやられた。
ハンバーグの切れ端を神住の口に届ける。
「うん。うまい!」
その笑顔がとても尊いと思った。
この笑顔を消させないため、俺は戦っているんだと。
アラームが鳴る。
《本艦隊に接近中の機影あり! 第一次戦闘配備! 軍籍にあるものは直ちに出動!》
アラームと共に鳴り響く、艦長の声。
「行くよ!」
神住の声に応じるように、俺は走り出す。
真っ直ぐにAnDの
「無茶はするなよ。機体が分解してしまう」
「了解」
俺は短く返すと、スワローに乗り込む。
輸送船が宇宙ステーションから分離。敵影近くになると、AnDを放出し、会敵。
《本艦の任務は敵機を撃ち落とすこと。捕虜の心配は要らない。盛大に暴れろ!》
『言われるまでもねー』
「了解。これより殲滅戦に移行する」
『あんたら二人はやれるんだね?』
如月が確認するように訊ねてくる。
「いつでも」『やってやるぜ』
『頼もしいね』
如月がそれだけを言い放つと、俺はエンジンを吹かす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます