第19話 接近
《演習一七時開始》
今回の演習は俺と火月とのタイマン。
どっちが強いかを見極めておきたいのが如月の考え――らしい。
らしいというのは本人から聞いたわけではないからだ。
ピピッと電子音が鳴り、敵影を確認。
イーグルが光学カメラに認識された。
マズい。
急いで操縦桿を動かし、初撃を回避する。
アステロイド周辺の隕石を盾にし、俺は距離をつめていく。
岩肌にぺったりと横付けできるのは他の人では真似できない。なぜなら隕石に衝突し、圧壊する恐れがあるからだ。
だが、俺にそんな感情はない。恐怖を覚えないのだ。だから接近できる。
ぴったりと岩礁に張り付いていると、さすがの火月も認識できないようで、一気に距離を詰められる。
目の前に現れた瞬間、俺はハンドガンをコクピットに向ける。
『そこまで!』
如月の声がコクピットに響く。
よく見ると、火月のミサイルポッドを積んだ前腕が俺のコクピットを狙っていた。
つまり、同時に相手のコクピットを攻撃できる位置にいたのだ。
『け。相打ちかよ』
「よくやる」
俺はうなるように呟くと、火月がつまんなそうに毒づく。
『二人とも帰艦して、祝杯をあげましょ?』
「なんのだ」
『ち。こんな奴と同点なんて認めねーからな』
粗暴な態度の目立つ火月だが、その芯は熱い。それを知っているから、許せることもある。
しかし、祝杯か。なんでこうも飲みたがる連中が多いんだか。
呆れて首を振る。
帰艦すると、整備士が困ったように頭を掻く。
「まったく、一回の演習でどんだけ、雑に扱っているのだよ」
玄覺が吐き捨てるように零すと、整備に取りかかる。
「け。認めたわけじゃねーからな! 内藤!」
「ああ。いいだろう」
「すましてんじゃねーよ」
火月との会話は困難だ。
何を言えば、気が済むのか。
「ははは。一介の兵士も、人間関係はど下手か」
神崎が、嬉しそうに呟く。
「神崎さん」
「お前は火月に目をつけられたな。まあ、昔からの因縁か」
ふふふと笑う神崎。
まるで面白いものでも見たかのような笑いに、若干の怪訝を浮かべる。
「いや、なに。こっちの話さ。まあ、お前はお前で頑張れ」
神崎がそう言うと、如月が大声を上げる。
「そんな新人相手している暇があれば、わたしを助けてくださいよ!」
如月の声に「おおと」と零す神崎。どうやらサボりらしい。
そこまで思考が回ったところで、俺は休憩室に向かう。
「やあ、内藤君」
そう言って後ろから声をかけてきたのは神住だ。
「神住か。同じ所属ではないはずだが?」
「いやー。それが手違いで配備されたらしく、こっちに人員補充をしたいらしいのよ」
神住にしてはよくしゃべる。冷静さを欠いているらしい。それも、同郷のよしみというやつか。
「ここには火月もいるんでしょ? やっぱり訓練で一緒にいたメンバーの方がやりやすいわよ」
「そうか。そうだな」
俺は火月の戦闘パターンを記憶している。あのとき、訓練機なら倒せていたのだ。それが、あのイーグルに乗り換えてからめきめきと実力を発揮している。
火月に必要なのは訓練でも、座学でもなかった。自分専用にコスチュームされた機体だったのだ。
それが分かっただけで、俺は震える。
もっと強くなれる。もっと戦える。
それを火月が証明した。
俺もあのスワローをもっと強くしたい。もっと手足のように扱いたい。
「しかし、さっきの演習すごかったね」
「え。ああ。火月には参ったよ」
「そう? 意外といい線いっていたじゃない」
火月の実力を知るいい機会ではあった。
だが、あまりにも火月が強すぎる。
俺は指の腹でこめかみを押さえ、知恵を絞る。
「火月には全弾撃ち尽くさせてから接近するべきだった」
「でも火月なら温存していると思うよ?」
神住の辛辣な言葉に俺は納得いく。
これでは火月に勝てないな。
苦笑すると、神住も苦笑いを浮かべる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます