第18話 演習
赤墨色のしたAnDが鎮座している。
脚部にはアンカーとして機能するパイルバンカーのような円柱上の金属が設置してある。その背面にはミサイルポッドと、射撃に特化した光学カメラが搭載されている。
両腕にはミサイルと機銃が装備されており、手には大型のスナイパーライフルが装備されている。腰周りにもミサイルポッドがあり、機動性よりも射撃をメインとした機体になっている。
名は〝イーグル〟。
「ひゅー。いかすじゃん」
火月は口笛を吹き、慣れた手つきでAnDを撫でる。
「よろしくな。相棒」
その隣に鎮座するのは、青墨色の機体。
腰、脚部に追加バーニアを装備し、背面には脚部と同じエンジンが組み込まれている。その背面には二刀のブレード〝アガツガリ〟が装備されている。
名は〝スワロー〟。
イーグル、スワロー、二機ともあのXシステムを積んでいるという。
俺は反対したんだが、人間のそれと違いすぎる異形の姿にXシステムによる補助が必要であると判断されたらしい。
俺の新しい機体。
前の練習機とは全然違う。
「それじゃあ、これから試運転に入るけど、大丈夫?」
如月が不安そうに訊ねてくる。その声音は柔和なものだった。
「ああ。いこう」「へ。おれさまの実力みせてやんよ」
俺も火月もやる気満々で応じる。
「そう、なら見せて。この機体の気持ちを」
如月がそう言うと、俺と火月の機体が放出される。
的は無人AI搭載型AnD、三機。
『おらおら! いくぜ!』
レーザーによる射撃が敵機を落とす。
俺はフットペダルを踏み込む。
一気に加速し、8Gの快感を覚える。
――いける。
加速したまま、俺は敵AnDの後方まで行く。そして日本刀に近しいアガツガリを振り下ろす。
《撃破》の文字が表示されると、二機目に向かう。
そこにはミサイルの群衆が襲ってきた。
「しまった! 火月か!」
火月の射線上に入ってしまったのだ。
『てめーは狙っていないんだよ!』
俺は身体をひねり、ミサイルをかわす。
ミサイルに飲まれた最後の一機も《撃破》の文字が表示される。
《演習終了!》
その表示を見て、ひと安心する。
敵はほとんど迎撃もないまま、戦っていたようにも思える。
胴体フレームに設置された無反動砲二基、機銃四基。すべての武装を使う前に戦闘を終わらせてしまった。これが本当に最前線での戦いか?
戦闘が優しすぎる。
そう感じたのだ。
『帰ったら祝杯をあげましょ?』
如月がふふっと笑いを浮かべて、柔和な顔を見せる。
軍とはこんなにも優しいものなのか?
俺は疑問を浮かべながら帰投する。
「聴いたか? あの内藤ってやつ、内藤敦の息子らしいぜ」
「マジかよ。あの反乱軍をまとめているとかいう奴か」
「オレらで締め上げちゃいましょうよ。どうせスパイでしょう?」
食事中、そんな不穏な声が聞こえてくる。
俺はスパイじゃない。反乱軍などに身を置くもんか。
食事を終えると、俺は火月と一緒に警戒態勢に移行する。
「ただ監視カメラを眺めているだなんて」
文句を言う火月に、一理ある俺。
「これも任務よ。わたしにもできるけど、見習いならこのくらいやりなさい」
如月は毅然とした態度で、凜とした声音を張り上げる。
小さくため息を吐き、俺は手を開く。
一等兵にまだ現場は早い、ということか。
それともテロリストの動きをつかめていないからなのか。
俺には分からないが、テロはいつどこで起きるか分かったもんじゃない。
それもあるか。
精神を落ち着かせると、監視モニターに視線を這わせる。
どれも変わらず人っ子一人見当たらない。
「隊長~!」
暇そうに呟くのは火月だ。
「分かった。分かった。このあとの演習をとびっきり面白くするから」
「まじっすか! うほー! やる気出てきたぁ!」
火月が嬉しそうに両手を挙げ、モニターを食い入るように見つめる。
だが、すぐに火月の集中は切れた。
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