決して間違わない人の魅力

@onarapuu

彼が嘘を吐き続け悪口を言い続けてごねるのはそれを見ている周囲の人達を嫌な気持ちにさせ関わり合いになるのを避ける傍観者でいさせるのに有効だからです

「助けてください。刺されました」


「刺してない! 刺されたというならどんなものに刺されたのか言ってみろ!」


「5㎝ほどの刃渡りのナイフで刺されました、助けてください」


「そいつはうそを言っている! なぜなら、わたしが刺したのは刃渡り4.5㎝のナイフだからだ! そいつは嘘つきだ!」


「見てください、刺されて死にそうです。こんなに血が出ています」


「だが、4.5㎝の刃渡りのナイフなら心臓まで届かない! 医学的に証明されている! だから殺意はないし死ぬわけない! 殺意がないなら刺してもいいと昔そいつと約束した! なのに死にそうなふりをするなんて、そいつは嘘つきだ!」


「なるほど両者の言い分はわかりました。あなたは刺されているが、刺されるだけの理由があったのかもしれない。例えば嘘つきだから、とかね。だから、今はどちらの味方にもなれない。なぜならわたしは賢くて理性的な大人だからだ。あなたに刺されたナイフの刃渡りが5㎝か4.5㎝か確認できるまで、どちらにも与しない。もし、間違えた側の味方をしたら、わたしは賢くて理性的な大人ではなくなってしまう。だから、正しい答えが出るまでわたしはあなたを助けない」


「正しい答えが出るのはいつですか? わたしは今にも死にそうですぐにも助けが必要なのですが」


「嘘つきだ! こいつは全然死にそうじゃない! なのに死にそうなふりをしている! 恥知らずのバカバカうんこおならぷぅ!」


「お前こそ嘘つきだ! バカバカうんこおならぷぅ!」


「まったく、賢くて理性的な大人は口汚く罵り合う姿など醜くて見たくない。いやだいやだ。どっちもどっちだ、関わり合いになりたくない。無関心で傍観者でいよう。それが賢くて間違わないものの態度だ。今は中立が正解。『答えは沈黙』こそ至言である。わたしは猫の画像でも見て癒されているので当事者同士で解決してください」


数時間後。


「見てくれ! ほら、刺したナイフは刃渡り4.5㎝だっただろう? これであいつは嘘つきだったって証明されたな!」


「きれいなナイフですね。それで、刺された彼は?」


「死んだよ。死んだからナイフを抜いて持ってきたんだ」


「どうしてあなたは彼を刺したのですか?」


「奴が嘘つきだったからだ! 俺が刺したナイフの刃渡りが5㎝だなんて嘘を吐いたから刺してやったんだ! 奴はありもしない嘘で俺を侮辱したんだからな!」


「なるほど。あなたが正しい。よってわたしはあなたに味方しましょう。賢くて理性的な大人のわたしは今回も間違えず、正しい方を選んだぞ。これは本当に誇るべきことだ」

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