鼻血事件

 その日は子宮卵管造影の検査があった。

 この検査は造影剤を膣より注入して子宮と卵管の通り具合を調べる検査。

 注入が完了してからX線画像を撮影する。

 その日は撮影担当ではなく撮影したフィルムの現像担当。

 撮影済みフィルムを持って暗室に入り現像機にフィルムを入れようとすると"ゴトン"と何かが落ちてきた。

 痛っ!

 未撮影のフィルムの箱が棚から落ちてきて顔に激突!

 幸いとっさにかわしたので少し顔面に当たった程度だったが、しばらくらすると

 タラ〜ッ

 あれ? 鼻血!

 ティッシュで拭こうにもにもティッシュもない。

 やばい! どうしよう。

 必死に鼻を押さえて上を向く。だが止まりそうにない。

 この状態で暗室を出ればみんなになんと言われるか……

「なんや、のぼせたんか?」

「若いのう〜」

 困った……と上を向いた姿勢で暗室の赤色灯を見る。

 しかしよく考えるとこれは事故! 別にやましい気持ちはないし、堂々と暗室を出ればいい。

 ガチャとドアを開け暗室を出る。

 急いでティッシュをとり鼻に詰める。

 あれ?

 外には技師、看護師、医師らがいるが、みんなこっちを見ると目を逸らす。

 ちょ、ちょっと……

 目を逸らすとさーっといなくなる。

 これは……気を使っているのか?

 恥ずかしい姿を見てませんよーという優しさか?

「どうした?」「何があった?」と言われれば事の詳細を話せるが、これでは話せない。

 やがて次の業務が始まった。何事もなかったように。

 説明させてくれー!

 心の中で叫んだ。



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