向いてない人
その日は健康診断があった。
健診車がやってきて、尿検査、視力聴力、採血、心電図、胸部X線検査、診察などを受ける。
社内でやる検査を終えて、最後は胸部X線、健診車に行くと「ん?」
白衣を着た放射線技師が青白い顔で座っている。
「なんか、顔色悪いけど、大丈夫?」
「ええ、……調子が悪くて……」
「レントゲン撮るのも、できんのか?」
「ええ、実は僕……できないんです。」
「なにが?」
「あの……『息を吸って、止めて』っていうの……恥ずかしくて……言えないんです。」
「はぁ?」
「なんか……もう、考えれば考えるほど恥ずかしくて……苦しくて。」
「しょうがねぇなぁ、じゃあ、俺が言ってやるよ。」
そして、技師がスイッチを押すタイミングで『息を吸って、止めて』を代弁して手伝った。
これ実話です。
その後、この技師がどうなったかは知らない。
せっかく資格を取っても、向いていなくて技師をやめたケースをどの施設でもよく聞く。
多いのが、撮影条件の調整ができない。
撮影条件は装置の電圧、電流、時間で決まる。
お腹のような太い箇所はたくさん条件が必要で、指などは少なくても良い。
この3つをバランスよく調整しないと、きれいな画像は撮影できない。
ただし、これは昔の話、今では多少条件が合ってなくても、装置が適正な画像を作ってくれる。
ある技師が撮影をするとできた画像は真っ白、取り直しとばかりに撮影条件を派手に上げる、できた画像は真っ黒。
もう一度再撮、派手に下げて真っ白、もう一度……真っ黒。
ええかげんにせぇ! と怒られた。
また、ある技師は真っ黒の画像を撮影しても、これでも診断はできると開き直る。
医師に"黒くて見えん!"と言われても引き下がらない。
挙句の果てに、どこがダメなのかと、4〜5時間画像を眺めていたとか。
ここまでくると、向いてないというより、異常。
またこんな技師もいた。
この人も撮影条件がうまく調整できない。
同じ技師からもバカにされ、医師や看護師からもバカにされ、半年で技師をやめた。
そして、自分をバカにした奴らを見返してやると、なんとクリニックの経営を始めた。
今でも医師や看護師、技師を雇って頑張っている。
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