「息を吸ってぇ〜」

 放射線技師は「息を吸ってー」と言ってればお金になる。

 親戚のおっちゃが言ったことば。

 ま、確かにそうだが、多少ディスりが入っていないか?

 この「息を吸って、止めて。」ということば、技師が10人いれば10人とも違う。

「息を吸ってー、止めてくださーい。」

 もあれば、

「大きく息を吸ってー、止めてー。」

 とか、

「いっぱい吸ってー、そこで止める!」や

「吸ってー、止めて!」というシンプル型もある。

 実習先の病院には、この言葉が独特のイントネーションで、独特の声の技師がいると伝えられていた。

「失礼になるから,絶対笑わないように。」

 当日、その先輩技師の撮影を見学すると、

「じゃぁそこで息を……すうてぇ〜、とめてぇ〜。」

 文章では表現が難しいが、なんとも言えない妙な言い方。

 下を向いて笑いをこらえる。隣のやつを見ると下を向いて肩がヒクヒクしていた。

 失礼!

 胃のX線撮影も人それぞれ。

「右向きからぐるっと回って仰向けになってくださーい。」がスタンダード。

「み・ぎ、から回る! う・つ・ぶ・せ!」

 間違えると、

「ち・が・う! それは、ひ・だ・り! みーぎ!」

 よく怒られないないなと思う。

 医師が撮影する時は、装置に慣れていない方もいて、とにかく大きな声で伝えなければならないと思っていて、

「そこで息を止めるー」

 と耳が割れんばかりの大声。

 マイクを通して話すので、あまり声が大きいと音割れがして聞きにくい。

 でも、声が小さいから聞こえないんだと、さらに大きな声を出す。

「い・き・を! と・め・てぇー!」

 もう、何がなんだか。

 その声は4階まで聞こえたと言う。


 




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