初めて就職した病院を辞める時
「まだあの病院勤めてんの?」
ひさびさ会った技師学校の同級生が言った。
聞けばいま勤めている病院は、土地と建物は隣のタンス店が所有していて経営が思わしくないらしい。病院自体も赤字だとか。
「潰れるよ、マジで。」
でも潰れないかもしれないし……
「潰れたら給料出ないかも。」
それは困る。
それから半年ほどしてから退職願を提出した。
技師長に辞めると伝えると「ああ、いいよ。」とあっさり。
やはり知ってたんだな……
最後の日、院長にあいさつをしに医局に行く。
コンコンとノックして中に入ると、院長と婦人科の医師がいた。
「あ、あのー、今日で終わりで……」
「はぁ! 終わり! 君いま終わりって言ったな!」
院長が激しく怒鳴る。
「口の聞き方、気をつけた方がいいよ。」
隣にいた婦人科の医師がぼそっと言う。
「あいさつに来たんやろ! なんだその口の聞き方は! いいか、こう言う時は『いろいらお世話になりました。ここで学んだことを次の職場でも活かして頑張ります。』これくらいのこと言わんかい!」
いや、それ、これから言うつもりだったんですが……
「もういい、帰れ!」
「は、はい、お世話になりましたー。」
それだけ言うと逃げるように医局を飛び出した。
今日で辞めるのに怒ってくれた、自分のことを思って? などと良いように考えた時期もあったが、どうも『終わり』という言葉が『病院の終わり』を連想してむかついたんだと思う。
それから一年も経たないうちに、その病院は無くなった。
地図アプリで調べると、今はそこには別の病院が建っている。
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