初めて就職した病院⑤

 ここに勤めて良かった出来事がある。

 それは無料で入院させてくれたこと。

 当時は一人暮らしだったので、病気になった時に助かった。

 その日は何やら体調が良くなかった。体がだるい、目がまぶたが重く感じた。

 次の日朝目覚めると、何かおかしい、ちょっとした音がやけに大きく感じられ、頭に響く。

 熱を測ると、ゲッ! 40.0度。

 今日は休みます、病院に連絡すると『診察に来れば?』と言われる。

 なるほど、それはそうか、いくらヤブでも病院は病院。

 副院長に診察してもらうと「風邪だね。一人暮らしじゃ大変やろ、入院する?」

「えっ! いやいやそこまでは……」

 一度は断ったが、周りの人が『副院長がそこまで言ってくれてるんだから』と強く勧められ入院した。

 個室に入り、午前と午後に点滴、後はすることがないのでひたすらテレビを見ていた。

 熱は喉から来てるらしく、食欲もあまりない、昼間に寝ると夜眠れないのでひたすら再放送のドラマを見る。

 ひまなのと早く退院したいのとで、しょっちゅう体温を測る。

 それで気づいた、体温というのは1日でかなり変動していること。

 高い時は38度、低い時は36度、この間を上下している。

 やっと下がったと思って、10分後に測るとまた上がっている。

 これは一生治らないんじゃないか……

 副院長が回診でやってきた。

「熱はどう?」

「いや、まだあるみたいで……」

「測ってみて。」

 測ると36.8。

「なんだぁ、治ってるやん、じゃ、もう退院ね。」

「え? でも、また上がるんですが……」

「いや、いま下がってるから大丈夫! 喉の痛みも和らいだでしょ?」

 なんだ、それでいいんだ。あっさり退院。

 退院して家に帰ってしばらく安静に過ごす。

 一番悩んだのが食べ物。

 食欲は戻ってないが、何か食べないと……

 一番に浮かんだのがおかゆ。

 外に出ておかゆのようなものを探す。

 ふと目にしたのが中華料理店の麻婆丼。

 豆腐だしおかゆ的だしこれだ! 店に入り注文。

 だが……くどい、味がコッテリ、とても食べれない。

 しかしもったいないので全部食べた。

 あれからしばらく麻婆丼を見ると気持ち悪くなった。

 やっぱ入院して良かった、とつくづく思えた。



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