初めて就職した病院③

 最初に就職した病院の頃はかなり前なので、今ではあまりやらない検査もやっていた。

 その検査はDIP。

 日本語で腎盂造影検査という。

 造影剤という組織を白く染める薬を点滴する。

 薬は体中の血管を巡って肝臓を経て腎臓から尿管を通り膀胱、そしておしっこと共に排出される。

 点滴して腎臓、尿管、膀胱が染まった頃撮影を始め、何分かおきに撮影を繰り返す。

 腎臓や尿管、膀胱にある結石や腫瘍などを見つけるのが目的。

 今ではほとんど実施しない、なぜならCTで検査すればわかるから。

 さほど難しい検査ではないが、一つだけ注意する点がある。

 それは造影剤による副作用を起こすことがたまにあること。

 この検査を受けにきた患者さん。

 その顔を一目見て、あれっ? と思った。

 実の兄にそっくり……

 そして検査が始まる。

 患者さんが撮影台に横になり、点滴の準備が始まると、『ハロー』と言わんばかりに軽いのりで誰かが入ってきた。

「あれ、誰です?」

 そばにいた技師長に尋ねると「ペインの先生だよ。」と言った。

 ペインとは痛みのある患者さんに症状を緩和させる治療や薬を投与する診療科で週に一度診察があった。

 やってきて椅子に座ってゆったり新聞を読み始める。

 たぶん、ヒマなんだな……

 点滴が始まる、その間じっと患者さんの顔を見ていた。

 ほんとに兄に似ている……

 その時、あれっ? なんか、顔色悪くない?

「なんか……顔色が……」

 そばにいる看護師さんに言うと、看護師さんがすぐに点滴を止めて、大丈夫かどうか尋ねる。

「なんか……ちょっと、気持ち悪い。」

 患者さんの訴えで検査は中断し、しばらく様子見ることになった。

「だいぶ、おさまったわ、ちょっとトイレ行ってくる。」

 患者さんが立ち上がり、看護師さんの付き添いでトイレに行こうとすると、撮影室を出た所でバタッと倒れた。

「意識がありません!」

 すぐにくつろいでいたペインの先生が駆けつけ処置が始まる。看護師さんは応援を呼んだ。

 詳しく処置がどんなだったか覚えていないが、おそらく造影剤を速やかに体から排出させる点滴処置が主だったと思う。

 幸い患者さんは意識を取り戻した。

 ただあの時、患者さんが兄に似ていなければ、ペインの先生がサボりにこなかったらどうなっていたか。

 考えただけで怖くなる。

 また、なぜこの時だけペインの先生がサボりに来たのか不思議。

 ちなみにこの造影剤、今でもCTやMRI検査では使用しているが、かなり副作用の少ないものに発展している。





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