『おかしいじゃないか』事件

 人は何かに夢中になると他のことは見えなくなるのはよくあること。

 その日は手術後にX線撮影を行う業務があった。

 手術終了の連絡があり、ゴロゴロと回診用の撮影装置を押してオペ室へ。

 その日はヒマだったので技師長と2人で行った。

 最近の回診用の装置はほぼコードレスだが、この時はコンセントに差し込むタイプ、コードを差し込み電源を入れると。

「あれ?」

 電源が入らない……

 あれ……おかしいな?

 ケーブルを確認したり、電源を入れ直したり、叩いてみたりしても入らない。

「こんな時にはリセットだ!」

 と言うと技師長がオペ室のブレーカーを切った。

 この時技師長をはじめみんなも見えていないものがあった。

 オペ室は2つあって、もう一つの部屋はオペの真っ最中。

 手術中に電気が消えるという、医療ドラマの定番が起こり、部屋はパニックになる。

「みんな落ち着け!」

 叫んだのは執刀医の院長、経験の豊富さと冷静な判断力を発揮する場面とばかりに叫んだ。

「これは停電だ! そこの君、懐中電灯を持ってきなさい!」

 と、入口付近にいた看護師に指示を出す。

「でも先生、控室の電気ついてまーす。」

 若い看護師が緊張感のない喋り方で返す。

「何?」

「向かうの廊下も電気ついてる感じでーす。」

「何……おかしいじゃないか!」

 その後、この『おかしいじゃないか』のフレーズが院内で流行った。

 もちろん技師長はこっぴどく叱られたが、飲み会があるとこの話を武勇伝のように話していた。


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