不思議な話
その病院は高齢の寝たきりの患者さんが多く、月に一度回診用のX線撮影装置で胸部撮影を行っていた。
ゴロゴロ、装置を押して病棟を回る。
「先生さん。いつも大変やねぇ。」
いつも同じフレーズで毎回声をかけてくれる人もいる。
いつもベットに座っていて、仕切りに舌をぺろぺろさせている人、寝たきりだがいつも右手を上に上げヒラヒラさせている人などさまざま。
病棟に入るとさまざまな人がいて、時間の止まったような空間に、時には安らぎを感じることもあった。
「○○さんは元気でやってますかね?」
撮影中、一人の患者さんが声をかけてきた。
知的な雰囲気ではっきりとした口調のお婆さん。
○○さん、という名前に覚えがあった。以前お世話になった先輩。
「え! ○○さんを知ってるんですか?」
「知ってますよぅ、うちの旦那と親しくて、家にもよく来たんですよ。」
「△△病院に勤めていたころ?」
「そうそう、△△病院! あそこに来る前に□□病院にいた時からの知り合いでねぇ。」
それから○○さんの話を語った、技師になる前はある事業をしていたこと、その事業を旦那も一緒にやっていたこと。
事業をやっていたことは聞いたことがあった。内容も場所も聞いた通りだった。
その日の夜に○○さんに連絡し、そのことを話す。
「え! 誰それ? 知らないわ。」
「は? でも、病院名も事業の内容も合ってるんでですが……」
「いや、知らない。それにその人の旦那さんってかなりの高齢だろ、年が合わないよ。」
……た、確かに。
次の日にその患者さんに聞いてみると「は? 何のことでしょう。」
記憶がない! これ以上調べることはできない。
謎のままこの話は終わった。
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