当直の夜
その病院は月に2回ほど当直があった。
当直と言っても技師の仕事ではなく事務当直、いわばガードマン。
夜中の9時と11時に見回りをする。
11時にはボイラーを切る役目があった。
ボイラーは4階の屋上の階段を登った所にある。
この当直業務で感じたことは今でも忘れない。
なぜかというと、このボイラーに上がる階段で患者さん2名が首吊り自殺をしていたから。
階段は部材が剥き出しになっているタイプで、屋上を出て階段の下に入り、見上げるとスケルトンの階段が見える。
同じ場所で2人も自殺したのは、霊が呼び寄せたのでなく、人目につかずロープが掛けやすかったからではないか。
11時が来て見回りを始める。
2階や3階はまだ看護師さんや患者さんがいるが4階ははぼ誰もいない。
4階は理事長室と特室があるだけ、かなり高額な部屋なので、ここを使う患者さんは滅多にいない。
4階に上がると一気に人の気配がなくなる。
屋上の扉をあける。真っ暗、遠くに都会のネオンと雑踏、ボイラーの可動音が聞こえる。
いつも階段下に人影がいるように感じる……だが誰もいない。
素早く階段を上がりボイラー室の扉を開け、ボイラーのスイッチを切る。
ボイラー室を開けた時誰かいたら気絶するだろうな、といつも思う。
だが、そんな事は……起こらない。
ボイラー室を出て素早く階段を降りる。
この時のこの場所の印象は怖いじやなくて……寂しい。
とにかく誰かがいて欲しい。それが幽霊でも構わない。とにかく人の気配が欲しい、という寂しさ。
もし本当に幽霊が出たら気絶するだろうが、とにかく寂しい。
2人目の自殺があった日に特室に入院していた患者さんが後日話した。
「夜中に廊下を歩く足音が聞こえて屋上の扉を開ける音を聞いた。」
「でも、1度目は扉を閉めて引き返したんだ。ためらったのかなぁ。」
そして最後に
「もう、特室には入院せんわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます