「さあ、来たね……あんたの話を聞こうじゃないか」

 西条君に話し掛けるおばあさんは、さっき迄の表情とは違い、真剣そのものだ。

『か、帰りたい……』

 西条君は目を閉じ話し出すが、顔色が悪く声まで違う! 私は恐怖のあまり鳥肌が立った。

「何処に帰りたいんだね? あんたは死んでるんだよ。分かってるかい?」

 言い含める様に優しく話し掛けるおばあさんは、まるで別人の様で、おばあさんこそ誰かに乗り移られたのかと思った程だ。


「じゃあ質問を変えようかい。何で今頃この子に取り憑いたのかい? 」

『うう……じ、実は……』


「実は? あーもう、まどろっこしいね!  さっさと言ったらどうだい、このトーヘンボク!」

 やっぱり、おばあさんだ。少しホッとした私だったが、取り憑いた、たくろうは、すすり泣き出した。西条君の両目からは涙がほとばしり、鼻水まで垂らしてる。

 嫌ぁ、こんなの西条君じゃない!


『……この子が……』

「この子がっ! 何だい!」

『僕のプラモ持って行って……食べた時に……』


 あっ! 私の頭の中で過去の出来事が、フラッシュバックの様に浮かんだ。

 事故で死んだ、琢郎叔父さんの形見の飛行機のプラモが、どうしても欲しくて黙って持って来たんだ。

「でも、あれは確か小三ぐらいの時だし、なんで?」

『うう……ひどいよ……あんな事して忘れるなんて……』

 あんな事?  首を捻り考えるが、どうしても思い出せない。


『……つけて……すて……んだよ! この野郎!」

 西条君の瞳に怒りの色が浮かび、おばあさんを睨み付ける。幽霊よりも恐い形相に私は思わず腰を抜かした!


「ちょっとアンタ! 早く思い出せっーの 」

 次に私に向かい、怒鳴り散らした西条君に泣きながら訴える私。

「そんなこと……っても……テト……チャッ??」

「そうだよ。アンタが、ケチャップ付けて捨てたからだよ」


~回想~


「あっ、やっちゃった!」

 二週間前コンビニでポテトを買った私は、家でケチャップをタップリ浸けようとした。

 が、勢い余り周りに飛び散らし、たまたまプラモをテーブルに置いてた為にケチャップまみれに……


~回想終わり~


「真っ赤になったプラモは捨てたんだった……」

 西条君は頷き、ニッコリと笑い「思い出しさえすれば許すって」と言った。

 こうして、私の恋の行方は、桜の花の如く儚く散ったのだった。

[完]


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