参
「さあ、来たね……あんたの話を聞こうじゃないか」
西条君に話し掛けるおばあさんは、さっき迄の表情とは違い、真剣そのものだ。
『か、帰りたい……』
西条君は目を閉じ話し出すが、顔色が悪く声まで違う! 私は恐怖のあまり鳥肌が立った。
「何処に帰りたいんだね? あんたは死んでるんだよ。分かってるかい?」
言い含める様に優しく話し掛けるおばあさんは、まるで別人の様で、おばあさんこそ誰かに乗り移られたのかと思った程だ。
「じゃあ質問を変えようかい。何で今頃この子に取り憑いたのかい? 」
『うう……じ、実は……』
「実は? あーもう、まどろっこしいね! さっさと言ったらどうだい、このトーヘンボク!」
やっぱり、おばあさんだ。少しホッとした私だったが、取り憑いた、たくろうは、すすり泣き出した。西条君の両目からは涙がほとばしり、鼻水まで垂らしてる。
嫌ぁ、こんなの西条君じゃない!
『……この子が……』
「この子がっ! 何だい!」
『僕のプラモ持って行って……食べた時に……』
あっ! 私の頭の中で過去の出来事が、フラッシュバックの様に浮かんだ。
事故で死んだ、琢郎叔父さんの形見の飛行機のプラモが、どうしても欲しくて黙って持って来たんだ。
「でも、あれは確か小三ぐらいの時だし、なんで?」
『うう……ひどいよ……あんな事して忘れるなんて……』
あんな事? 首を捻り考えるが、どうしても思い出せない。
『……つけて……すて……んだよ! この野郎!」
西条君の瞳に怒りの色が浮かび、おばあさんを睨み付ける。幽霊よりも恐い形相に私は思わず腰を抜かした!
「ちょっとアンタ! 早く思い出せっーの 」
次に私に向かい、怒鳴り散らした西条君に泣きながら訴える私。
「そんなこと……っても……テト……チャッ??」
「そうだよ。アンタが、ケチャップ付けて捨てたからだよ」
~回想~
「あっ、やっちゃった!」
二週間前コンビニでポテトを買った私は、家でケチャップをタップリ浸けようとした。
が、勢い余り周りに飛び散らし、たまたまプラモをテーブルに置いてた為にケチャップまみれに……
~回想終わり~
「真っ赤になったプラモは捨てたんだった……」
西条君は頷き、ニッコリと笑い「思い出しさえすれば許すって」と言った。
こうして、私の恋の行方は、桜の花の如く儚く散ったのだった。
[完]
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