「みんなかっこいいね」

「だよねー。彼女いるのかな」

「えーミチコ、誰狙い~?」

 なんていう話をしながら、社員食堂で盛り上がっている人たちがいた。私は特に親しくない人たちなので、少し離れて席をとった。

 こんな偶然って、あるのかな。

 牧原君は高校1年のときに同じクラスで。しばらくは友達として仲良くしていた。最初の頃に告白されたけど、その時は良い返事ができなかった。でも牧原君も諦めなくて。バレンタインの時に、また告白された。そのときから付き合うことになった。

 でも、牧原君はもうアメリカに行くことが決まっていて。どうすることもできなくて。3月の下旬に牧原君はアメリカに行って、ときどきメールや電話はしていた。でも、日本とアメリカという距離が遠すぎて。

 それに牧原君は、私の本当の気持ちを知っていたから、敢えて別れを選んだ。

「ここ、空いてる?」

 少し懐かしい声が聞こえた。

 声のしたほうを見ると、牧原君がトレイにカレーライスを乗せて立っていた。

「うん……」

 久々に会えて、嬉しいはずなのに。今も好きかと聞かれれば、間違いなく「はい」と答えてしまうのに。

 違うところで緊張してしまっている。

「10年ぶりか。まさか同じ会社にいたとはな。よく入れたなぁ」

「……それイヤミ?」

「違うよ、ここ競争率高いから」

 牧原君が優しいことは、私が一番理解していたから。その優しさに、何度も涙を流したから。だよね、ごめん、と付け加えた。

「そっちこそ、もう課長だよ」

 私は持ってきたお弁当を食べ終えて、コンビニで買ったプリンの蓋を開けた。牧原君は……牧原課長、と呼んだほうが良いのかな。私の向かいの席に座って、カレーを食べている。

「言った通りだったね。就職してから日本に戻る、って」

「ああ。思ったことは実現させたいタイプだから」

「でもまさか、同じ会社にいたなんてね……」

 私はプリンを食べ終えてから、目の前の彼をじっと見つめた。

 半年早く社会に出たせいか、私よりずっと大人に見えた。

「ほんとに急だよね、いつも急に現れるんだもん、ビックリするよ」

 最初に出会った時も。

 夏休みに再会した時も。

 そして今回だって、連絡先は知ってたけど、帰国したという連絡はなかった。

「連絡しようか、迷ったんだけどな。でもずっと音沙汰なかったし、誰からも何の噂も聞かないし、いろいろ考えてやめた。だけど、元気そうじゃないか」

「まぁ、ね。今は仕事も落ち着いてるし、休みもちゃんと取れてるし」

「ここの事務所、人間関係どう? 良好?」

「うーん……普通じゃない? 特にキツいこと言う人もいないし、ときどきみんなで呑みに行ってるし。そうだ、歓迎会、あると思うよ」

 それから私が会社の人間関係を簡単に話す間、牧原課長はずっと笑顔で聞いてくれていた。嫌な顔をしないから、私も話が止まらなかった。

 学生時代はサークルとバイトに明け暮れて勉強どころじゃなかったことも。

 就職活動もバタバタで、ときどき会いたくなったことも。

「連絡くれても良かったのに」

「できないよ、状況がわからないんだし」

「ははは。なんか、嬉しいな、こっち戻ってきておまえと再会できたし、ずっと覚えてくれてたし。綺麗になってるし」

「ちょっ、やめて、恥ずかしいから」

「嘘じゃないのに。前も可愛かったけどな」

 言葉は嬉しかったけど照れくさすぎて、笑いながら私は課長の言葉を遮った。それでも喋り続ける牧原君が「あいつ」と言うのを聞いたけど、誰のことだろう。

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