破 メルテル・トロイノイその2

「メルテルさん」

「何?」

「……呼んでみただけです」

 マギヤが自分の手の甲の上の空間を薄く微笑みながら指先で撫でる。

 目の前の本人をガン無視して。

「え、あの、マギヤ? もしもし……?」

「ふふ、食べちゃいたいくらい愛らしいですね、貴方は」

「食べないで!? よくわかんないけど、食べないで!?」



 トロイノイ及びウリッツァ班がヴィーシニャを守る当番の日のお昼休み。

 トロイノイが、中庭で一人でいるマギヤに話しかけると、マギヤの膝に半ば強引に乗せられる。

 相変わらず人目をはばからず、少し遠くのベンチでメルテルが見てるのにも気付かず、だ。

 さらに、いつぞやぶりに、腰のくびれや尻周りなどを撫で回される。

「はぁ〜〜、本物のトロイノイに会えないからって、トロイノイに似た猫を撫で回しても仕方がないのに――」

 などと、くだらないことばかり、ほざくマギヤ。

 トロイノイがふと下を見ると、股部分のふくらみが目視できた。

 マギヤが「……猫相手は初めてですが――」などと言いながら、両手で自分のズボンのベルトを外そうとした隙に、トロイノイは逃げ出す。



 その日の放課後の自由時間、トロイノイとメルテルは、今のマギヤに関する愚痴大会を開催していた。

「あのマギヤ……、あたしのことを猫扱いして――!」

 そう頭を抱え、怒りゆえか悲しみゆえか、とにかく、ただ震えることしかできないトロイノイ。

「人外扱いはさすがにね……トロイノイは直接触られるのと触られないのだったらどっちがマシ?」

「……どういう質問?」

「私も非番の日は目の前にいてもマギヤから姿を認識されてないし、会話も成り立たないけど、どういうわけか私が手の上にいると思われてるみたいで……。よかったら今度見る? マギヤが手の上の謎空間を撫でてる図」


 後日、トロイノイとメルテルが二人で、中庭でくつろいでいるマギヤのもとを訪ねたら、メルテルをガン無視し、トロイノイの前にしゃがみ、

 おいでおいでと言い、トロイノイに、もっというとトロイノイの膝より少し上丈のスカートの中を持つ。

 「はあ、いいにおい……」とトロイノイのスカートの中をかぐマギヤに、トロイノイは思わず膝蹴りをかました。


 また別の日、トロイノイが近くの木に隠れてメルテルを見る作戦で行ったら、マギヤはやはりメルテルを無視してトロイノイがいる木の方へ向かい、トロイノイを押し倒して「好き好き大好き」「貴方といるときが一番幸せ」などと言いながらトロイノイにすりつく。

 それでメルテルが、マギヤをトロイノイから引き剥がそうと、諸々の物理攻撃・魔法攻撃を与えてもマギヤは全く意に介さなかった。

 それで霊の声が聞こえるメルテルは霊の知人に助言を乞うたら「むしろこっちが退く」と言われてトロイノイと共に瞬間移動テレポートで帰った。

 翌日メルテルはタケシから「マギヤ、夕べからなんか妙にボロボロで、今朝も、主に右脇腹が痛い、ジンジンするとか、今日の当番休むとか言ってたけど、あいつに何があった?」と尋ねられた。

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