破 トロイノイその1

 ある日の放課後、トロイノイは、珍しく学園で髪を下ろしているマギヤを見かけたので、話しかけてみた。

「なんですか? 私、貴方が欲しがるような物は何も持っていませんよ?」

 発言といい、視線が妙に下なことといい、え? とトロイノイが驚き戸惑うのも束の間、マギヤは、なぜかしゃがんでトロイノイの太もも辺りに手を伸ばしてきたので、トロイノイはマギヤの頬にビンタせざるを得なかった。

「ああ、ごめんなさい、まだ早かったですね」

 まあまあ強めのビンタだったのに、へらへらと微笑むマギヤ。

「いや、時間の問題というより場所の問題――!」

 そうツッコむトロイノイをよそに、マギヤは足早に去っていく。


 マギヤってあんなだったっけ?

 犬とか猫とか小さい子相手ならともかく、同年代の異性を目の前にして、普通しゃがむ?

 しかも人目をはばからず太ももに手を伸ばす? 訳分かんない……。



 また別の日、昼食を終えたマギヤに話しかけたトロイノイ。

 マギヤは見知らぬものでも見るような目で、トロイノイの足下から頭頂部までを眺めた後、「ここ、座りますか?」と、なぜか自分の太ももを軽くたたき示しながら尋ねる。

 いや、周りにまあまあ人いるんだけど! とトロイノイは内心思った。

 いくら二人が恋人同士といえど、場所もわきまえずにイチャイチャする趣味はトロイノイには無い。

「隣に、してくれない?」

 トロイノイがマギヤのベンチの空きスペースを指差しながらそう提案すると、マギヤはその提案に従う。


「そういえば、貴方のことは、なんとお呼びすればいいのでしょう? 貴方自身の名前などはありますか?」

 トロイノイが隣に座って早々、マギヤのその発言にトロイノイは、うん? と耳を疑う。

「無いようなら、私が適当に付けますね。トロイノイとかどうでしょう? なんとなく雰囲気が似ているので、構いませんか?」

 似てるというか本人! とトロイノイは思ったが、眼の前の相手をトロイノイと認識してるなら特に否定する理由も無いので、若干あやふやに肯定する。

「トロイノイと言えば……最近、本来のトロイノイを見かけないんですよね――――」

 眼の前にトロイノイ本人がいるのに何言ってんのこいつ……。

 そう思うと相槌もどことなく適当になるトロイノイ。


「……ジョセフィーヌとかどうですか? 貴方の名前」

「なんでよ!?」

「じゃあトロイノイでいいですか?」

「むしろトロイノイ以外が浮かぶわけを知りたいんだけど……!」


「……じゃあトロイノイ……抱かせてくれませんか? 今すぐ、ここで」

「はあっ?!」

「ああ、ご心配なく。ただ抱擁するだけですよ、今日のところは」

 ほら、とマギヤがベンチから立ち上がり両腕を広げる。

 トロイノイも立ち上がって、周りの視線が気になりつつも、マギヤに抱きつく。

 トロイノイの匂いを吸い込まんばかりの一呼吸、マギヤの右手がトロイノイのくびれを経由して臀部も撫で回す。

「ちょ、ちょっとマギヤ?! 抱擁だけって言ったわよね?!」

 臀部の柔らかい部分や割れてる部分に触れつつも、そこより気持ち上の部分の何かを探すようなマギヤの手。

 トロイノイの腰か腹辺りにナニかが当たる感触は不思議とないが、トロイノイは、そわそわしっぱなしである。

 キーンコーンカーンコーン……と予鈴が鳴る。


「トロイノイ……もし休みの日など学園以外で出会えたら……その時は貴方に抱擁以上を求めたり不毛を承知で中に出したり、とにかく絶対に貴方を逃さないので、そのつもりでお願いします」

 マギヤの発言等にツッコミどころが多すぎて、もはや何も言えなくなるトロイノイであった。

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