急 仮面の裏を、さあ引き剥がして

「ああ、お目覚めですかウリッツァ。いつぞや以来ですね、こうして私が、貴方の目覚めを見るのは」

 このマギヤ、目の前を覆えて肩にかかる程度の長さの銀髪を、一部片耳にかけて片目だけ見えるようにしてること以外、至って平然としているように見える。

 だが実際には、ウリッツァが目覚めるまで何度も吐くような仕草をしたし、落ち着くために素数を数えたら三千さんぜん代に入って、よくこんなに数えてられるなと、ようやく我に返ったし。

 それからウリッツァが目覚めるまで、自分達がいる部屋以外の部屋が無いか探索して、ウリッツァの所に帰ってきた。


 「一度、二人になりましょう?」と狂気的かつ狂喜で、ある種凶器な顔で言ったマギヤと、そのマギヤに連れてかれたウリッツァが目覚めた場所は、大の男二人が寝ても狭くならない大きなベッドの上。

 ウリッツァの起床を歓迎したマギヤは、ウリッツァにこう告げる。

「ウリッツァ……私、貴方が遠いと、世界がおかしく見えるんです――」


 マギヤは、ウリッツァと二人になるなと言われてからの諸々を、ウリッツァに話す。

 ウリッツァの存在が希薄になるたび、ウリッツァ班各員やウリッツァ班でのことを忘れ、ウリッツァ班のことが希薄になるたび、ヴィーシニャについての記憶も薄れて。

 目の前のよく知ってる女が人間に見えなくなって、よく知らない人間に至っては姿すら認識できなくて。

 気まぐれに読んだ本に載っていた花を吐く病にかかった気すらして。

 そしてウリッツァと二人になった今、全て思い出したマギヤ。

「……オレ、マギヤを嫌だって思ったこと、一度もないぞ」

「……あんなにひどいことを繰り返し、今もこうして規則を破って二人でいるのに?」

「ない!」

 ウリッツァのはっきりした返事にマギヤは、……ならウリッツァ、と言う前置きの後、目を閉じて息を吸い込み、ウリッツァを改めて見据えてこう言う。

「今から私に抱かれてください」

 マギヤがウリッツァを濁りなきまなこで真っ直ぐ見つめて言ったその言葉に、ウリッツァは赤面して生唾を飲み、「わ、わかった……! ぬ、脱げばいいのか?」と自分のネクタイに手をかけようとする。

「……私は抱擁のつもりで言ったのですが」

 ややキョトンとした面持ちでそう言うマギヤに、ウリッツァは先程よりもますます赤面する。

「……けどそうですね。せっかくなので、そのまま脱いでください。抱擁なら貴方が想像した抱かれるの後でも出来ますから」

 お互い生まれたままの姿で、最初で、もしかしたら最後かもしれない和姦。

「愛してます、ウリッツァ……」

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