急 ACUTE

急 悪魔の声は突き刺さり消えない

 「廊下を走るな」という言葉を時々誰かが言われているのをよく見かける。

 けれど私は今、他の誰かにそう言われうる立場にあり、つまりは廊下の石畳をひた走っている。


 私よ私よ何故走る? 真の心がわかっておそろしいのか?

 ウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァ、ああ、ああ……あーあーあーあーあーっ!

 カ行よりぺポかプェプォが似合うチャイムの中、ウリッツァのことばかりさけんで、時に他人を塵芥ちりあくたのように蹴り飛ばし、最後のガラスをぶち破り、物干し竿の空きスペースで大回転し、日常もとい寮の塀を回転の勢いで飛び越え走り、パッションの赴くままシャドーキックボクシングからのサマーソルト!

 そこからさらに、こう叫びながらひた走る。

「ウリッツァーッ! 私のウリッツァー! 私だけのウリッツァーーー!」

 

 いた――「ウリッツァ・サンクトファクトル! どこへ行くのです!?」

 追いかけようと脚を動かすが、まるで前に進まない。

 姿なき何者かが、私を羽交い締めにでもしている気すらする。

「ウリッツァの癖に私に不可視拘束だなんて生意気な! けど、私がこの程度で引き下がると思ったら大間違いです!」

 そう叫ぶと私を拘束する袖と腕が見え、拘束者の拘束を振りほどき、ウリッツァに駆け寄る。

「ウリッツァ、一度、二人になりましょう? 私のウリッツァ――――」

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