序その5 マギヤ・ストノストの仕事仲間

 ……かなり凄惨な夢を見た気がするのに、不思議と不快感は無い。

 むしろ胸辺りがスーッと、風通りがよくなった気すらする。

 カレンダーを確認すると、今日は仕事の日とあります。

 寮の廊下でタケシさんと合流し、一緒に仕事場へ向かう。


 私及びタケシさんの仕事は、魔法で動き、時に喋る、美しい少女人形の警備です。

 男女四人の一班が私達含めて五つあり、今日は私達タケシ班の当番です。

 タケシさんが班長……なんとも不思議な感覚です。

 私達が警備する人形の名前はヴィーシニャ・サンクトファクトル。

 タケシさんから彼女のことを人形さんではなく、名前で呼ぶよう、かなり言われましたから、そこのところは徹底します。

 それにしても、あの人形、見れば見るほど、よく出来ている。

「……マギヤ? わたし、なにか付いてる?」

 こちらに話しかける声も、ありきたりな形容句ですが、鈴を鳴らすような綺麗な声だ。

 いつものように彼女の左後ろを歩く。彼女が歩くたびに、当人の自覚の有無はともかく、髪周りの、ほのかな桜のような匂いが振りまかれる。

 ……あの白いブラウス等の下も滑らかな女体なんでしょうか、それとも人形らしく、いくつかのパーツに別れているのでしょうか? ……触り心地は? 軽く跳ぶと僅かに揺れ、ナニもかも柔らかく包み込みそうな……ウリッツァ、ウリッツァは、あの温もりを知っているのか? ヴィーシニャさんのあの……、ああ、もう一度……もう一度? 

 ……私……ヴィーシニャさんに何をした?


「――――ヤ、マギヤ! ちょっとマギヤ!」

 誰かが私の肩を揺さぶり、ヴィーシニャさんに関する思考が途切れる。

「あ、やっと気付いた? 危うく置いてって何かあったら、戦力がガタ落ちするところだったわ……」

 もう……、と言ってタケシ班副班長メルテル・スマートさんが頭をかきながら、そうぼやいてました。

 先ほど私を揺すったのも、おそらく目の前の彼女でしょう。

 ……最近、こうして班で活動している時ぐらいしか彼女を見かけない。

 性差で過ごす場所に差があるとはいえ、確か同じ寮で暮らしているはずですし、同じクラスで選択授業などで一緒になる機会も多いはずなのに――授業などをサボるタイプでも無いはず――。

「おい、ヴィーシニャさんを放――」

 ドゴッ、カランカラン――私の蹴りとヴィーシニャさんに突きつけていたであろうナイフが落ちる音。

 おそらく目の前の男は強盗の類い。人形としては大型な部類のヴィーシニャさんを持ち去ろうとする強盗。

「聖女に仇なすゴミクズが! すぐ死ねないことに悔やみ続けろ!」

 そう言い放って強盗を捕縛したのち、他の班員が強盗の移送などの事後処理の最中、私はふと思った。

 聖女って、なんだ……?

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