序その8 マギヤ・ストノストの恋人

 そうだ、トロイノイも同じ仕事をしているのだから当番の日に追いかけよう。

 もしかしたらメルテルさんみたいに当番の日は人に見えるのかもしれませんし――ちなみに非番の日のメルテルさんは手乗りサイズの小鳥でした。

 適当に呼んでみたら来ました。律儀で愛らしいですね。

 あ、もちろんトロイノイが一番愛らしいのですが――。

 トロイノイが所属するウリッツァ班の当番日は、はっきりわかってる。

 当番表に全班の名前が書いてありますからね。朝からキビキビ見張りましょう。


 朝食タイム、見かけません。

 ホームルーム前後、先生はトロイノイの出席を記録しましたが見かけません。移動教室、見かけません。

 お昼休み、猫のトロイノイを膝に乗せて、くびれや尻尾周りなどを撫でてる内に、ふと窮屈になって自分のズボンのベルトを外そうとしたら逃げられましたが、相変わらず本物のトロイノイは見かけません。

 帰る時間、猫のトロイノイの声はしますが見当たりません。

 夕食タイム、見かけません。おやすみなさい……出来るか!

 全然じゃねえか!! いや、全然ですよ、これ。

 見えも聞こえも匂いもしないなんて……。

 あと残っているのは味覚と触覚ですが、どうしろと……?

 ……そういえば前に猫のトロイノイを抱きしめたとき、猫というよりトロイノイ本人を抱いていたような感覚だったような……味覚、ねえ……。

 ……どこを味わいましょう、やはり首でしょうか?

 ……会いたい、会ってセックスしたい。トロイノイ……んんっ――



 ……ウリッツァ班の様子を見て、トロイノイの代わりにウリッツァの全身を眺めるたびに思う。

 どうして私は、こんな手を伸ばしても届かない距離からウリッツァを見ているのか。

 本当ならもっと近くで……っ! ゲホッ、おえぇ――――えほっ……ああ、しばらく花を吐かなかったのに……真っ青な薔薇を十七本も吐いていた。

 奇跡、不可能、ありえない……絶望的な愛。


 絶望的な、愛……。ウリッツァが遠いだけで私は絶望すると……?

 それとも、ウリッツァを求めるのは絶望的であり無意味だと?

 そもそも、私はなんでウリッツァが欲しいんだ?

 初めて会ったときの幼いウリッツァ……、私を慕ってくれるウリッツァ……、私を頼ってくれるウリッツァ……、私の名を呼ぶウリッツァ、私を拒まないウリッツァ、私が――!

 ――会わなきゃ、ウリッツァに会わなきゃ……誰にも邪魔されずウリッツァと話さなきゃ、ウリッツァと、ウリッツァと――――!

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