序その3 マギヤ・ストノストの朝夕

 淫夢で悩ましげな平日の朝、寮の食堂の人に、具だくさん豚汁と小白米のセットと温かいほうじ茶を注文し、出てきたそれらをお盆に載せてもらって適当な席へ向かう。

「おーいマギヤー? こっちだぞー?」

 私の名を呼ぶ彼の名はタケシ・ヤギ。クラスメイトにして仕事仲間、あと寮の隣人です。

 タケシさんに促されるまま、その隣に座り、「今日は魚じゃないんだな」と言うタケシさんに「今日はこっちの気分なんです」などと答えるのも程々に豚汁をいただきます。

 具だくさんを標榜するだけあって本当に具で満ちている。

 豚汁の本懐たる豚肉、ささがきされたごぼう、斜めに薄切りされたネギ、短冊切りにされた大根、にんじん、こんにゃく、油揚げ。

 炭水化物以外の栄養は、ほぼこれで取れると言ってもいい一杯ですね。

 それに温かい……あの夢のウリッツァは少しも冷たくはなかったけれど、温かくもなかったな……。

 肉を噛むごとにウリッツァの味が思い出される……さすがにウリッツァ本人の肉を食べたことは無いはずですが……。

 米一粒、豚汁の欠片一つ、お茶の一滴も残さず完食し、タケシさんなどと共に学園へ向かう。



 今日の授業を終えて寮に帰ろうとすると、後ろから、にゃ~ん、と猫の鳴き声が聞こえてきました。

「なんですか? 私、貴方が欲しがるような物は何も持っていませんよ?」

 私は振り向いて、話しかけてきた茶色っぽい猫にそう返事する。

 猫は、にょえん? と首をかしげる。

 ふと、そんな彼女に触れたくなって、しゃがんで頭を撫でかけたら頬に猫パンチをお見舞いされました。

「ああ、ごめんなさい、まだ早かったですね」

 フーッ! と鳴かれる辺り、相当怒らせてしまったようです。

 私は猫から足早に去ることにしました。

 それにしても、猫パンチというものを初めて喰らいましたが、あれ、あとから効くんですね。なんだか頬がヒリヒリしてきました……。

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