第56話
【未来視編・ヘスティア】
「卑しい豚共——間違えたわ。十二神、聞こえる?」
オリュンポス十二神「間違え方ァ!」
「時の神、クロノスに拷も——お願いしてアレンチャンネルの未来映像を入手したの。見たいかしら?」
ゼウス「貴様、まさかクロノスに未来視させたのか⁉︎ 職権濫用じゃぞ⁉︎」
アテナ「正論とか寒いからパパ! だからママに逃げられるんだよ?」
ゼウス「……(しゅん)」
ヘラ「見たいです!」
アテナ「私も!」
ゼウス「(……むむむ。愛する妻と娘と共通の話題が得られる機会。ここで手離すわけには——)儂も、その、見てやらんこともない」
ヘラ&アテナ
「「そういうところですよ貴方/だよパパ」」
ゼウス「……卑しい儂めにも視聴させてください」
「ふふっ。仕方ないわね。『豪遊編』をちょっとだけよ?」
☆
【ロゼ】
ダークエルフでメイド見習いのロゼと申します。
月に一度開かれる政策会議。
錚々たる幹部職員が予定時刻の一時間前に集結しているデス。
アレンリゾート副総支配人兼【怠惰】の魔王No.2——エンシェント・エルフのシルフィCHO(人事最高責任者)兼CFO(最高財務責任者)。
圧倒的カリスマ・神算鬼謀である魔王アレン様の右腕でございます。
事務方の頂点デス。
容姿端麗。頭脳明晰。さらに固有属性【木】を得意とし、アレンリゾートの植物は彼女から【無限樹形図】を描出されたエルフたちが担っています。
まさしく全知全能。
実質、【怠惰】の魔王軍を動かしているのはシルフィCHOとの声もあるほどで、絶対的な権力者デス。
噂によればアレン様は滅多に表舞台に顔を出さず終日リゾートで過ごされているとのこと。
この事実だけ抽出すると遊び呆けておられるご主人様という印象デスが、それはとんでもない勘違いでございます。
というのもここアレンリゾートは毎年天文学的な予算が組まれます。
アレン様の決断一つで世界の動向が変わると言っても過言ではなく、その責任の大きさは容易に想像できるわけでして。
シルフィCHO曰く「【怠惰】の魔王が——アレンが滅多に表に出ず、毎日リゾートで遊んでいるように見えるのは月に一度重大な決断を下すため。普段は全力で遊ぶことで重要な局面での一手を間違わないためなのよ」
たしかに仕事ができる男はよく遊ぶ、とは耳にしたことがあります。
良い発想、思いがけない閃きは気分転換しているときにこそ生まれるということでしょう。
さすが100兆の男デス。
日々進化し続けるリゾートが快適過ぎるとのことで、現在では帝国女帝、勇者、聖女、剣聖、大魔導士、【強欲】【傲慢】【色欲】【嫉妬】【暴食】【憤怒】の魔王がお忍びで、羽を休めに足を運ばれるとか、なんとか。
アレンリゾートでは入場時に【聖霊契約】により武力・強要や強制を放棄するため、敵対関係にある者たちが同じ空間に居合わせることもあります。
アレン様立案である統合型リゾートは中立的立場を徹底しているため、一時的、限定的ではございますが、園内においては争いがなく、心から安らぐことができる休養地が実現されております。
シルフィCHO曰く、アレン様は種族差別の撤廃を掲げており、(これをリゾート理念というそうデス)わたしのようなダークエルフをキャストとして大勢雇用してくださっております。
休養にやってきた冒険者——人間におもてなしすることなど、少し前までは考えられませんでした。
ダークエルフは褐色肌ということで種族階級の中でも最底辺の扱いをされて来た歴史がございますが、アレンリゾートに限って、人権が回復し、尊重され、夢のような生活が手に入ります。
キャスト特典によりアレンリゾート内の施設を無料で利用でき、衣食住が保証されております。
もはや当然ですが、現在ではダークエルフ憧れの職業先となっており、離職率は驚異の0%。
少なくともこのリゾート内で不正を働き、不興を買おうなどという愚かなダークエルフは一人もいません。
ダークエルフを、キャストを束ねる——メイド長のセレス様と副メイド長のアンナ様の鬼教育も受けておきながら【怠惰】の魔王様に逆らう愚か者はいないでしょう。
人間から忌み嫌われていた鬼たちも歌舞伎といった伝統演劇、舞妓などで人気を博し、すっかり市民権を取り戻しました。
もちろんアレンリゾートの外でも同じようにはいきませんが、それでもそういう空間が生まれただけでも奇跡デス。
噂によれば魔王様もしばしば「俺には逆らっていいけど、シルフィには逆らわない方がいいからね」と口にされると聞いたことがございます。
シルフィCHOが趣味でフラワーリゾートをやりたいとおっしゃられたときは魔王様は二つ返事したとのことです。
信頼の厚さがうかがえます。
続いて最高技術責任者。ノエルCTO。
アレンリゾートにおける高級ホテル、会議室、劇場、プール、テーマパーク、レストラン、カジノ、温泉、ショッピングモール……などの箱物はもちろんのこと、魔王様の叡智を形にするモノ作りの大天才。
現在では自由商業組合の顧問も務められていらっしゃるとか。
言うまでもなく技術方の頂点。
アレン様の思いつきは真っ先にノエルCTOに告げられるようデス。
続いてアレンリゾートの公安委員長——幻鬼の九桜様。
初めて政策会議に出席するため私もその姿を視認したのは今回が初となります。
威厳が凄まじいデス。アレンリゾートで不正を働く者や不穏分子、危険人物の特定など諜報を担当。
佇まいに華がある姿とは対照的にやっておられることはいわゆる汚れ。
噂によりますとアレンリゾート内で一度も物騒なことが表沙汰にならないのは闇に潜む鬼たちが監視の目を光らせており、事件を起こす前に始末しているだとか。
続いてアウラCMO兼シルフィCHO筆頭秘書兼星輝堂元会頭(現会長)。最高広報責任者デス。
元々ハイエルフだったそうデスが、現在はエンシェント・エルフに存在進化し、その圧倒的美貌とセックスシンボルにより大貴族の夫人、貴族令嬢を虜にし、アレンリゾートに莫大な大金を落とさせ続けるカリスマ。
さらに生命科学・医学研究所——ドワーフスミスのシオン所長。
ペニシリンの発見・生産、農作物の品種改良、瘴気を取り除いた魔物の活用——ノエルCTOが箱物など目に見えるモノ作りの天才とすれば、所長は目に見えないモノ作りの天才。ミクロを司るドワーフ。
ノエルCTOと並ぶドワーフ・錬金術師の憧れの職場、二巨頭の一人デス。
続いてウリエルCPO。最高調達責任者。
ノエルCTO最大の功績とも言える魔物から瘴気を取り除く発明により、現在のアレンリゾートにおける資材については害虫とされてきた魔物からの調達が占められています。
厄介者が宝に変換されたとはいえ、彼らは凶暴で言語の通じない獣です。
しかし熾天使のウリエルCPOは驚異の【調教】スキルLv10を駆使し、なんと魔物を家畜化することに成功しました。
竜や龍でさえ、彼女と遭遇するや尻尾を巻いて逃げ出そうとする都市伝説もあるそうです。
噂ばかりで恐縮ですが、聞いたところによるとそんな彼女のリミッター役を務めているのが【怠惰】の魔王、アレン様とのことです。
すっ、凄いデス……!
まだまだ紹介したい幹部職員、協定関係も説明申し上げたいところですが、政策会議室に の空気が一変します。
先ほどから緊張感漂う空間であったことは事実ですが、それとは非にならない重圧感でございます。
本日、わたしめはキャスト全般における報告をセレス様より仰せつかまっておりましたが——次の瞬間報告内容が全て頭から吹き飛んでしまいました。
「えっ、早くない⁉︎ 5分前集合で良いって前回言ったよね?」
なんとそこに現れたのは海パン、ゴーグル、浮き輪装着の【怠惰】の魔王様。
あまりに予想外過ぎて、頭が真っ白になってしまいました。
やがて表題に結論、その決断に至る根拠を一切の無駄なく数行に収められた資料をペラペラとめくり、目を通されたアレン様は各幹部からの報告をジッと聞き、やがて二言、三言口にします。
その様子を観察して思ったことは、判断と処理能力が異様に早い、でしょうか。
資料に記されている内容は数十億、数百億かかるものも多い中、迷いが一切感じられません。まるで最初から政策会議のお題が想定通りと言わんばかり。
セレス様よりこう聞いておりました。
政策会議はシルフィ様を司令塔に何百時間もの調整が入る代わりに、会議が始まれば一瞬で全てが片付くと。
本来こういった場はトップの発言により会議が紛糾しそうなものですが——。
呆気に取られているとあっという間にキャストの報告——すなわち私の出番が回って来ます。
アレンリゾートでは若手育成にもチカラが入っており、本日わたくしめはアンナ様のオブサーバー。
錚々たるメンバーの圧、アレン様の瞬時理解、即決により呑まれてしまったわたくしめはこの場で絶対にやってはいけなかった、泣いてしまうという愚行をおかしてしまいます。
アンナ様はすかさずカバーに入ろうとしますが、それをアレン様は手で制止。
わたくしめの前までわざわざ足を運びます。
言葉が出ず、パニック。
ああ、終わった……。もっとこのリゾートで働きたかったデス。
やはりわたくしめのような卑しい身分だった者にリゾート理念であるおもてなしを体現するなんて——。
「——ロゼちゃんだよね? いつもありがとう! 飴ちゃん食べる?」
……えっ?
「あの、今日が初対面デスよね……? どうしてわたくしめの名前を?」
「えっ? いや、それは、その、きゃっ、キャストの顔と名前を全員覚えるのはCEOの役目というか? 他意はなくて——」
ようやく泣き止めそうなところで今度は嬉しさから再び涙を流してしまいました。
【アレン】
ええっ⁉︎ ちょっ、みんな早いよ! この前の政策会議のときに5分前行動で良いって言ったじゃん!
なにこれ⁉︎ 嫌味? やっぱり嫌味なの? お前がリゾートで遊び呆けている間、私たちはめっちゃ働いてんだぞアピール?
それだって俺が活躍しようとしたら、みんながそれを奪うからじゃん!
いや、【再生】しか持ってないわけで、じゃあお前に何ができるんだよって詰められたら終わりだけど。
【怠惰】の魔王に襲名し、【眷属化】を発動したところ、なんかもうみんなの覚醒がエグいことになった。激ヤバ。もうゲロヤバ。
もしかして脳みそと肉体八つずつあるんですか? と本気で思うぐらい。
女神に相談したところ「私……アレンさんがピエロになれるよう頑張りました!」とのこと。どこにチカラ入れとんねん。
そんなことする暇あったら、はよ俺の容量拡張しろや。
お前、マジでアレンリゾートに遊びに来たとき覚えとけよ。高級ホテルで絶対種付けプレスしてやるからな。
異世界転生者なのに主人公である俺がずっと自重しっ放し。遊び呆けているだけという。なのに配下が全然自重してくれない。
なんの冗談や! ワイもう魔王やぞ! 魔王やねんぞ! ガン泣きすっぞ⁉︎
だから俺はもう好きにやらせることにした。とはいえ、一応【怠惰】の魔王。
形骸化した最高経営責任者アレンCEOとは俺のことよ。
とりあえずまず政策会議の資料は表題に結論を書いてもらうことにした。
シルフィさんのIQが高過ぎて追いつけてない。賢過ぎて置いてけぼりだ。
難解過ぎて目が滑るとかやべえよ。
だからまず結論を書いてもらう。政治家に提出する官僚のやり方を採用することにした。
たとえば知事は決断するだけのお仕事などと揶揄されることもあるが、いかんせんその数があまりにも多い。
一件一件、事細かく理解してからGOサインを出していたら、とてもじゃないが社会が回らない。
そこで資料は表題に結論。その思考に至った道筋を数行で補足。
どうしても詳細なデータが必要なときは添付資料にて確認。難しい言葉は使っちゃダメ。
こうすることで俺のような足りない脳みそでもシルフィの全知全能、ノエルの新発明、シオンの難解すぎる英知を即座に理解し、共有できる寸法よ。
おかげでパラパラと捲るだけでこれからやろうとしていることが即座に理解できるし、実際彼女たちは俺以上に主人公をしているので滅多に遅れない。失敗は皆無。
「この責任はカラダで払ってもらおうか」という展開を今か今かと待っているのだが、誰もそれを俺に言わせてくれない。涙目。
安定のスネちゃまである。
というわけで見事にシルフィさんの傀儡となった俺は政策会議で「うん、うん」と進行を務めるだけ。
ごくたまに「うん?」と思うところは指摘したり、確認形式になっている場合は前世の記憶と彼女たちのチートを照らし合わせて実現可能か判断する。
女神「
おめえのせいだろうが!
おかげでとっても簡単なお仕事。はっきり言えばシルフィさんの下処理あってこその即断である。
第一回の政策会議で「うわ、長文……!」と漏らしてしまったことでこの方式が取られることになった。
陰の黒幕、シルフィさんからすればこの程度の資料も理解できないのかしら。猿以下ね、でしょうか。
そんなわけで猿でもわかる政策会議資料をパラパラとめくり、これから報告される内容を瞬時に把握、基本的にGOサインを出し続けていると、俺の今日の楽しみ、新入りのロゼちゃんがキャスト全般の報告!
うわっ、めっちゃ美少女じゃん! こんな可愛いダークエルフがいるメイド喫茶に遊びに来れる冒険者が羨ましくて仕方ないよ!
俺も行こっと!
と思ったら……⁉︎
ああ……! 可愛い褐色メイド美少女が泣き始めた⁉︎
やっぱりあれかな。緊張を少しでも解したいと思って、海パン浮き輪ゴーグルで入室したのがまずかったかな⁉︎
そりゃそうだよね。支えている魔王の正体がとんでもない怠け者だって露呈したもんね。
私はこんなヤツのために頑張ってたのか、って思っちゃうよね!
でも政策会議って重苦しい空気になることもあるというか……幹部たちがバチバチ火花を散らし合うというか……。
アレンリゾートにはキャストとしてダークエルフをたくさん雇用している。
褐色肌の彼らは差別の対象なのだ。変態ドスケベの俺からすればただただ可愛いしかないのに。
というわけで、メイドもしくはキャストとして働いてもらっており、教育はセレスさんとアンナさんに一存。
「ロゼちゃんだよね。いつもありがとう! 飴ちゃん食べる?」
「あの、今日が初対面デスよね……? どうしてわたくしめの名前を?」
あかん。またやらかしてもうた。
キャストにどんどん可愛い女の子が雇われているから、下心ありよりのありで顔と名前を提出させているのだが、ロゼちゃんからすれば初対面なわけで。
「えっ? いや、それは、その、きゃっ、キャストの顔と名前を全員覚えるのはCEOの役目というか? 他意はなくて——」
スケベ心100%でした。すみません。
ところで諸君らは田中角栄という政治家をご存じか。彼は議員と官僚の顔と名前、当選回数など、全て記憶に入れていたという。
キャストとお近付きになりたい下心に加えて、俺は毎日遊び呆けているだけなのに前世の国家予算並みの財源が確保されるため、このリゾートで働いてくれている全員の顔と名前を覚えるようにしている。
俺がウォータースライダーの下でワニになってポロリを待っている間や、水着による温泉混浴スパを楽しんでいる間や、カジノのバニーガールちゃんで目を楽しませることができるのも全部、このリゾートで俺の代わりに働いてくれているからである。感謝しかない。
絶対権力者であり、影の黒幕から表の真打に昇格したシルフィさんにお願いしてアレンリゾートに務める全員の顔と名前を提出してもらっているのだ。
ちなみに言うまでもなく女性オンリー採用である。野郎は許さん。
男尊女卑許すまじ。目指すは女尊男卑。
ぐははは!
飴差し出す俺。ギャン泣きし始めるロゼ。
こんな気持ち悪い男に個人情報が割れていたとショックになったのだろうか。
俺が号泣したい。
本当はこのあと一緒にプールでもどう? と誘うつもりだったのが、自制することにした。
【あとがき】
書きたい話が断片的にあり過ぎて、なかなかリゾート開発に行けない。書きたいのに。
そんな作者の欲望を昇華するため、クロノスによる未来視です。これからも挟むかも。
アメーバとなったまま時が止まったアレンくんの運命はいかに⁉︎
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