序章―7:危なっかしい転生者

*天馬視点です


ヤマトの本国に向かう飛行機旅は前世とは変わらず狭くて大半はいつも通りに寝ていた。美少女ゲーの世界、その友人キャラの一人に転生したときは驚きと嬉しさ半々だったけど、意外とこの世界は馴染みやすかった。数か月前にこの体で覚醒したときは戸惑っていたけど今は魔法とヒロインがいるこの世界に対してのわくわくが止まらない。


初めてこの世界で目覚めた時は語彙力低下したぐらい驚いてわくわくしていた。その後二週間もたたないうちに怒涛の勢いでゲーム内では有名な辰の上家の跡取り息子に指名され、その上メインヒロインの一人が義理の妹というエロゲみたいな状況になり、現在本国にある本邸に向かっている途中ホテルに泊まっている。


「というか女子一人に男子二人の三人で二人部屋に泊まるのはまずくないか?」

特に思春期の男子一人、中身は紳士のアラサーの男子も一人だと。


「ん?あ、私こいつと一緒に寝るから。ね、タケ?」


「まあ、今までは普通だったけど年頃の男女が同じ部屋で寝るのは普通にアウトだよね?」


驚いたことにサブヒロインの一人がモブとくっつていて何故か同じベッドで寝るほどのあいだがらだということだ。それにジャンヌという彼女はゲーム内では過去に囚われた悲劇ヒロインだったのに今は少々ギャルっぽいファッションと肩辺りのボブカットにして明るいとは言えないがゲームでの暗い雰囲気とはだいぶ違う。


そのモブもかなりの曲者に見える、特に表面上平和な現代日本のサラリーマンだった俺ににとっては。個室に泊まっているのに右目を覆いかぶさっている眼帯は外さず、寛いでいるように見えながら銃の手入れをし始めた。この世界ではさほど珍しくもない銃だけど彼の持っているのはゲーム内では普通だったライフル系ではなくSPとか刑事が使っていそうな拳銃の類に似ている。


ジャンヌも寛いでいるように見えながら空中に何らかの魔法陣を構築してい

「って、え?!ジャンヌって甲冑系統の魔法使えたの?!」


かの悲劇のヒロインはシャツとショーツ姿で魔力で構築された盾の上で寝転がっている。もう一度言わないといけないのは、彼女が悲劇のヒロイン...の筈だ。


「ん?あーそう言えば私たちの事説明していなかったものね。...」

そう言った途端彼女は急に黙り、考え事をしているように見える。


けれどそれも一瞬で終わり、魔法陣の構築も終わったようで座りなおす。ただし盾は空中に固定されているから見下ろされているけれど。一種のご褒美だけど、それは言わない方が吉だと感が言っている。


「パパっと説明するならはあんたの護衛兼案内役よ。辰の上家の事を知っていない訳はないと思うけど、大雑把に言えば昔の華族で今でもヤマトでは五指に入る権力と財力を誇っていてその嫡子に選ばれたあんたは狙われているのよ。だから私たちが同行しているの。

私たちについては、まぁ...元暗部?先日急に本家の養子になると言われてね、知っての通りあんたの義兄妹になるわ。それ以上は...あんたが信頼出来ると証明してから話すわ」


「なるほど、じゃあこれからよろしくお願いします」

ジャンヌの設定は俺が知っているゲームとはかなり離れているけど似ているところはあるのかもしれない。ただそれは二人ともっと親密になってからじゃないと教えてくれなさそうだ。


覚えている限り、このジャンヌはとある神を忌み嫌っていて復讐しようとしていた。そしてその理由は彼女の生前、かのオルレアンの聖女として死後の経験からの筈だ。けれどこの数日話しているうちにゲームであった刺々しさは和らいでいて逆に精錬された殺し屋の様な風に思える。


それは元暗部とか言っていた事に関係しているのだろうか?そして横にいるモブも信頼しているようだし、いろいろと深い事情があるかもしれない。


「ああ、あと私が養子でタケが許嫁で入り婿になるという事だからそこもよろしくね」


「はぁっ!?許嫁なの?!」


「そうよ?」

妖絶に、けれど作られた仮面のような笑顔で言われた。


マジで混乱してきた。数か月前に美少女ゲーに転生したと思ったらゲーム内では舞台となるヤマトの五指にも入る家の嫡子に指名され、その上にメインヒロインの一人はどうやらその家の従者か何かで婚約者、そしていずれは義理の兄妹となるなんて...考えるのやめよう。


「はぁ、これからどうすりゃいいんだか...」


カタンっ

「ちょっと何やっているのタケ?目にだけ頼るのに意固地になってもいいことないって言ってるのに」


「ああ、ごめん。手伝わせて悪いな」


「別にこれぐらいはいいわよ、何今更遠慮しているのよ」


少し思考放棄していたら武義は机に置いてあったコーヒーをこぼしてしまったらしく、ジャンヌは呆れながらも片づけをしていた。初対面の時は驚いたけど、やっぱり片目だけだと日常生活には支障があるみたいだ。前世では確か前に目が二つ位置されているのは深視力のために進化したとうろ覚えだ。


そういえばあの有名なステルスゲームの蛇のおっさんも隻眼だったな。


「待たせたな、だったか」

二人にはぼそぼそ言っているしか聞こえていない程度の音量だったはずだ。


武義はジャンヌに目配せをしたら彼女は魔術陣の構築を終わらせて発動させている。そしたら彼は作業をやめてこちらに向き直る。今更気が付いたけど、彼は予備の武器を傍に置いていた。

「...前世の名言か何かですか?」


「っ、なんでそう思うんですか?」

さっきの台詞が聞こえていた?いや、だとしたら武義というモブも前世があり、あのシリーズは知っている。けれど名言か、って聞かれたのなら知らないという事だ、ならどこかで行動で示してしまった?


「自分の国の飲酒年齢ぐらいは把握していないからバレバレですよ、特にこの星では。あと敬語も必要ありません、ジャンヌに対して敬語を使っていませんし、私も必要ありません」


「お、おう...バレバレだったって、まさか俺以外の転生者がいるのか?!」

もしそうだったら前世は日本人だったら話したい!やっぱり同郷の人たちがいれば安心する感じがあるからな~。


「...何人かは。全員を把握しているわけではありませんが、まあ天馬がいう転生者とやらは歴史にも名を残した者もいますし、現在は...おいておきましょう」


「いや~でも俺だけじゃないんだ~よかったぁ~。ていうか武義も敬語使わなくていいんだぜ?」


「私はこのままで話させていただきます」


「タケは元々こういうやつだから気にしなくていいわよー。それよりあんた、転生者だって言う事、行動に関しても細心の注意を払いなさい。辰の上家の嫡子になるから本家の庇護下に入ることになるから守られる地位になるけど、それでも転生者と名乗るのはあまりにも危険だから気をつけなさい」


「いや、頭がおかしいと思われたりするかもしれないから言いふらさないけど、なんで危険なんだ?転生者であることに不安要素なんてないだろうに」


ジャンヌは少し困った表情をしながら武義に確認を取るみたいな視線を送る。


何らかの確認を取った彼女は説明をし始める。

「考えてもみなさい、‘自分’が保たれたまま新しい人生を送れるのよ。いえ、正確には送りなおせる、新しい体で。それを欲さない人達がいないわけないでしょ?そして、それを何を犠牲にしても方法を解明して手に入れたい屑もいるのよ」


「それって、そういう事って」

「出来る筈がない?それでも欲しがる人もいるし、知識欲だけで何としても解明しよとするクソどもはいるのよ。不可能であっても可能に出来るかもしれないと思っているゴミがね。...脳みそにしみこんでいないようだから言うけど、つい先日までそういう裏の組織を私たちは追い詰めていたのよ。裏でネットとかで書いていたり物珍しい、この世界ではない発明や発想をする凡人を探し出して高額払う人たちに売りさばく屑たちをね」


「マジ...かよ」


「...ジャンヌの言っている通りですが、そのような輩が蔓延っているわけではありません。もともと人体実験、ましてや魔法魔術の類が関わってくると倫理的に問題視されるのが一般的ですし、転生者という人たち自身も恐らく今この世界でも十人にもいないと思います。だからこそ、気を付けた方がいいかもしれませんが」


前世ではいろいろと異世界転生とかロマン溢れるラノベとかアニメが楽しくてその世界観に入れ込んでいた。けれど、あの美少女ゲーに転生したテンションに水を差すような事を言われた。夢に現実を突きつけられたような気分だ。


「まあ、そこまで落ち込まないでください。私たちも事情を知っている以上可能な限り秘密は守りますし、気を付ければ生きたい人生を生きればいいのでは?」


「そこまで気負わなくてもいいわよ?他人という事でもないし、むしろ義理の家族になるんだから頼るぐらいなら私たち構わないわ」


「お、おう...迷惑かける、今後もよろしく」


「よろ~」

「ああ、こちらもよろしくお願いします」


「ていうかタケ、腹減った」


「その前にお客さんが来た、かなりの大所帯で」

いつの間にか手入れをしていた銃をもとに戻した武義は動作確認をしてから弾倉を装填した。


「え、マジ?ちょっと待ってて、誰か確認する」

特に慌てた様子もなくジャンヌは無詠唱で遠見系統の魔法を発動したみたいだ。


「って...これ、まずいやつや」


まさかさっき言ってた転生者を狙っている組織?


「あー、天馬もそこまで警戒しなくていいから。...紫雨さん、かなり怒っているわ」


バタン!

部屋の安い扉は蹴とばされたように開かれ、廊下には鬼の覇気を発している女性が仁王立ちしている。見覚えがある、この女性は辰の上本家の現当主、辰の上紫雨だ。


「あなた達、こんなところになんで止まっているのよ?!わざわざ手配したホテルのペントハウスになんでいないのよ!もうっ!!」


ゲーム内では凛々しくてとても三人の子持ちとも思えない若さの辰の上紫雨は現在鬼の形相でジャンヌと武義を正座させて説教をし始めた。


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