第一章:入学の裏事情
第一章ー序章:わがままヒロイン
*三人称視点です
林の中にある小さな丘に一本の桜の木が咲かせているつぼみは春風によって踊る。海が近く、風には微かな塩の匂いがして桜の木の下で咲いている少ないつぼみを遠くから嗜んでいた一人の女子は鼻をひくつかせた。桜の匂いを楽しんでいたのか、突然の塩の匂いに気を取られたようだ。
彼女は春風になびかれた髪を鬱陶しそうに押さえながらも丘の上からはうごこうとはしない。質のいいスカートは思春期の男性がハンカチを加えて悶える程の長さで塩の香りがするそよ風では少しばかりなびくぐらいだった。ただし見て分かるような服の高級感、そして彼女の身の持ち方から誰でも高貴な身分だと察する。
風は収まり、彼女は乱れた髪を手櫛で整え、耳に掛ける。そこにあまりにも特徴的なエルフの人族よりは少しだけとがった耳があらわになる。肌も北欧に住むフォレスト・エルフに似て白いが髪は金髪ではなくヤマトの南に位置するオセアニア帝国のダーク・エルフの黒髪に似ている。
音もなく彼女の後ろに気配を押し殺したスーツ姿のダーク・エルフが跪く。
「エルウェミニア殿下、そろそろ辰の上の屋敷に向かわれた方がよろしいかと、指定された時間をだいぶ過ぎてしまっているので」
「別にいいのでは?堅苦しい挨拶よりもう少しこの子の影で涼んでいた方が気が安らぎます。たかが隣国の姫が居候するだけで大げさなのです」
「しかし...」
「くどいですよ、アルレント」
アルレントというエルウェミニアの侍女兼護衛は目の前にいる主に今日も変わらず頭を悩ませる。本国でも頭が痛い問題は少なくもなかったが、今回は国際問題にはなりにくいが国内ではない事で内心ひやひやしている。殿下の留学先である学院の経営する家、その学院の理事長に挨拶、そして来週に行われるはずの他国の姫たちとのお茶会での詳細を打ち合わせするために辰の上本家に一刻も早く向かわなければならないのだが、殿下が悪く言って駄々をこねていて困っている。
「殿下」
「ご休憩なさっているところ失礼致します、エルウェミニア殿下。先ほど辰の上家から連絡がありましたがよろしいでしょうか?」
車の方から殿下の元まで優雅に歩いてきたのは殿下の幼少期から世話を手伝っている王朝に仕えている執事だ。彼が来たことで胸をなでおろしてしまう、殿下が言う事を聞くのはこの人族のご老人、アルフレッドだけだから。
「アルフレッド?...はぁ、向こうは急げと嫌味でもも言っていたのかしら?」
「いえ、むしろその逆みたいです。我々が辰の上家の敷地内に入っているのは把握しているようですし、何かしら本邸の方でトラブルがあったようでございます。しばしここで心を安らげればとのことでこちらに軽食と冷えた飲み物を持ってきてくださったようです」
アルフレッド車の
「あら、気が利くますね。でもヤマト人のくせに予定が遅れるとは珍しいです。何があったのか聞きましたの、アルフレッド?」
「はい、詳細は教えてもらえませんでしたが本邸で殿下と顔合わせをする筈の者たちがそろわないみたいです。主に新たに辰の上家の跡継ぎに指名されたお方と他二人らしいです」
聞いたものの、殿下はあまり気にしているようには見えず、アルフレッドが用意した緑茶と和菓子を黙々と堪能している。
と、数分したらアルフレッドとアルレントが林の方を急に警戒する。
「殿下、申し訳ありませんが車に戻っていただきたく存じます」
「ほう、二人では私を守り切れないと?自信がないのか、ヤーグラウェント皇家の執事と侍女よ」
緑茶の入った茶碗を持ちながらエルウェミニア殿下は挑発するかのように二人の要望を跳ね返す。
アルフレッドとアルレントが身構えていたら林の中から和装を着ている三人組と猫が飛び出してきた。
「ああ、もう藪の中和服で走るの疲れたぁ~」
「面倒、事より、マシっ。ってか、猫、どこ行った」
「ていうかなんで天馬の方が普通に生き切らしてないのよ、この魔力身体強化のお化けっ」
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