Ⅴ
そのまま、呼吸を整え、部屋の扉の前まで行き、足を止めると、部屋の中から話し声が聞こえてきた。おそらく、佐々木と佐藤だろう。
彼女たちは、どうやら楽しそうに女子トークで盛り上がっている。でも、そのほとんどが佐藤の一方的な話し声しか聞こえてこない。佐々木は、「そう」、「それはよかったね」としか、返事をしていない。
それで会話になっているのか。と、思っていた俺は、部屋の扉を開けて、中に入った。
「お前ら、何を話しているんだよ。扉の前にいたら聞こえてきたぞ。特に佐藤の声が……」
「うるさいし……。それにしても遅かったね。こっちは結構、待ったんだよ!」
佐藤は否定から入り、不服そうな表情をしていた。
なんでこっちが悪そうな感じになるのだろうか。俺は、何も悪いことはしていないのに、佐藤に言われると、なぜか、腹が立つ。一方で、佐々木の方は、何も言わずに、ただただ、この部屋に置いていた、俺の私物である漫画を珍しく読んでいた。
「で、なんで、俺の事を待っていたんだ? 別に待たなくてもいいだろう?」
俺は、疑問に思っていたことを佐藤にぶつけた。
すると、佐藤は、部屋の隅に置いてある冷蔵庫を開け、白い箱を取り出した。なぜ、こんな部屋に冷蔵庫があるのか、最初はびっくりしたが、後々、分かったことであり、この部活の顧問である先生のおさがりなのである。
「これだよ、これ。今日、学校に行くときに買っておいたの! このプリン、人気があって、ほとんど手に入らないんだから!」
佐藤は箱を開け、三人分のプリンを取り出して、それぞれ、俺たちの前に置いてくれた。
「だから、みんなで食べようと思ったわけ! ふっふん! 私にしては珍しいでしょ‼」
と、自慢している佐藤は、偉そうに言った。
確かに佐藤にしては珍しいこともあるもんだと、思った俺は、佐々木に小声で話しかける。
「おい、この後、急に夕立とか、なったりしないよな? 俺、合羽とか持ってきていないんだが……。大丈夫だよな?」
「さぁ? 私に言われても……。でも、佐藤さんの事だから、たぶん、大丈夫……じゃ、ない?」
と、佐々木もちょっと困惑している様子だった。
まぁ、無理もないだろう。俺たちは、佐藤のご厚意に甘えて、そのプリンをいただくことにした。
容器の蓋を開け、プラスチックのスプーンでプルンッ、としたプリンの感触を味わいながら、そのまま口の中に入れる。口の中でとろけるように消え、良く味わってみると、それなりにおいしい。
佐藤も俺と同じようにゆっくりと一口ずつプリンを食べながら、その感触をしっかりと嚙み締めている。
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