Ⅱ
木之下は、挨拶をして、俺の問いにそう答えた。
「朝の七時ね。朝から何かあったのかい? お前がそんなに早く来るなんて珍しいだろ?」
俺は話しながらカバンを置いて、向かい側のこたつに入った。
「お母さんと喧嘩した……」
「そうかい」
カバンの中から今日、提出する予定の数学の課題を取り出す。
母親と喧嘩する木之下を想像するのはさて置き、まだ、知り合って一カ月も経たない彼女が、自分のプライベートを話してくれるのは珍しく思えた。いつもだったら、ただの気まぐれとか、起きるのが早かったからとか、そんなことしか言わないはずなのに、今日は珍しく丁寧に教えてくれるとは、相当、彼女の中では怒っているらしい。これ以上の事は聞かない方が、身のためだろうと思った。
「それで、今日の朝課外はサボるのか?」
俺は部屋の壁に飾ってある時計が七時三十分を指しているのを確認すると、木之下に訊いてみた。
「うん。なんか、朝から勉強する気ない。もう少し、本を読んでおきたいし……」
「それなら俺もサボろうかな。どうせ、数学の課題を終わらせてないし、別に朝課外サボっても出席には問題ないからな」
俺も木之下と一緒に朝課外の授業をサボることにした。
たまに授業をサボるのは、俺たち二人の中であり、木之下も成績は悪くはなく、こうして、朝のうるさい教師の授業を受けることもなく、ここでゆっくりと過ごしている。
「それにしてもなんでうちの学校は朝課外といったしょうもない授業をしているんだ? 噂では、都会はそういったのはないらしいな。それに県内でも進学校だけ、田舎だからこうなっているのかね?」
「どうかな? 私もそういうの、あまり好きじゃないし。同じ意見。やるだけ無駄だし、生徒のやる気が落ちるだけ。必要なのだけ、しっかりと授業を受ければいい……」
木之下も同じ意見だった。こうして、何気ない会話をするのは楽しい。
男女の友情とか、ないという人もいるが、俺達にはそういうのは関係ない。
それに男とか、女とかで区別をつけるのはどうかと思っている。
得意なものもあれば、不得意なものだってある。人間というのは、そういうのを補って、助け合って、生きていく生き物だと言われているが、そう、そんなきれいごとが、この世の中には、存在するのだろうか。
「ねぇ、そこ。間違っているよ。そこのXの答えは1じゃなくて、3。おそらく、計算が間違っているんじゃない? 方程式は合っていると思うよ」
と、木之下に言われた俺は、計算を別の紙に書いて、計算をし直す。
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