飛べない鳥と何気ない日常

佐々木雄太

第1章  飛べない鳥たち

 桜舞い散る桜坂。


 その坂を上ると、そこには今年から入学した高校が見えてくる。坂には落ちた桜を掃除する野球部の生徒たちがいて、校門には、挨拶する教師が、自転車や歩いて登校してきた生徒に挨拶をする。


 まだ、入学して一カ月も経っていない高校に思い入れはないが、高校はとりあえず出ておこうと思ってこの高校に入学した。


 県立塩見高校。山を開拓したところにあるこの高校は、市内では二つしかない県立の進学校の一つである。偏差値はそこまで高くはないが、中学校をしっかりと休まずに通っていれば、誰でも通れる高校である。


 この高校は、北校舎、中校舎、南校舎の三つに分かれ、隣にはすぐ、一階は柔道場、二階は体育館となっている建物がある。


 そして、この高校に通う俺、坂田陣平は、塩見高校の一年生である。


 男子は学ラン、女子はブレーザーといった、今の世代には似つかわしい組み合わせであるが、中学校から使っていた学ランを高校で使う感じでそこまで違和感がない。


 自転車を駐輪場に置くと、下駄箱に向かい、靴を置いて、スリッパに履き替える。


 そのまま、教室に向かうのが普通なのだが、俺は中校舎にある一年生の教室には向かわず、南校舎の四階にある元かるた部のあった部室に向かった。


 この部屋は、部員の生徒が鍵を管理することになっており、俺もその部活の部員である。


 鍵を開けようと思ったら、鍵がかかっていなかった。


「あれ? 誰か、先に来ているのか?」


 俺は、そっと部室の扉を開いた。


 この部屋は、元かるた部の部室であり、床は和室、周りの壁には本棚が置いてあり、部員の私物が置いてある。押入れが一つあり、部屋の中央にはこたつが置いてある。そのこたつに入って本を読んでいる少女がいた。


 うちの学校の紺色の女子制服を着ており、髪は目立たない程度の茶髪であり、おそらく地毛である。それを肩の位置まで伸ばしている。ほっそりとした体型で、でっぱりが少ない。強気に映る目つきに加えて、唇が薄いから、冷たい表情が見える。


 そこには同じクラスである木之下紗耶香がいた。


「あ、坂田君。おはよう……」


「ああ、おはよう。それにしても早いな。何時ごろに来たんだ?」


「ええと……。朝の七時くらいかな?」

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