49.勘だよ、勘。

 夏休み最後の日曜日、牧原君に電話した。

 メールにしようか迷ったけど、声が聞きたかった。

「牧原君から連絡くれても良かったのに」

 そう言うと。

「しようと思ったけど、もし、彼氏いたら悪いかな、って……」

 牧原君の言葉に、何も返せなかった。

 涙だけが出そうになって、言葉が出なかった。

「いないか、やっぱり。急には無理だよな」

 牧原君との別れは、私が望んだことでもあったけど。

 改めて電話して、忘れられてなくて、辛くて。

 どうしてこっちを選んだのか、少し前の自分を責めた。

 でも、付き合い続けるのは、無理だってわかってた。

「あいつは……まだ、知らないんだよな?」

「え? ああ……うん。まだ、何も言ってない」

「僕が言ってやろうか? 夕菜ちゃんのこと」

「えっ、ダメ、それは、ダメ」

「なら、言わない。けど……これは、僕の勘でしかないんだけど、あいつ、たぶん、夕菜ちゃんのこと好きだよ」

 聞き間違いかと思った。

 弘樹は奈緒が好きだったはず。

 それに、こないだも──。

「まさか、弘樹がそんなこと……。こないだも、私を彼女にするつもりはない、って言ってたよ」

「本当に? じゃ、勘違いだったのかな」

「うん。勘違いだよ。弘樹はずっと、奈緒と……私の前でも、仲良くしてたし」

 弘樹が私を好き。

 それが本当だとしたら、ものすごく嬉しい。

 でも、同時に、奈緒に申し訳なくて。

 奈緒がいなくなったから私に切り替える、なんて、して欲しくなくて。

 信じたいけど、信じたくなかった。

「僕はもう、夕菜ちゃんとは会えないけど……何かあったらあいつが力になってくれるよ、きっと」

「うん。でも、しばらくは、無理だと思うよ。まだ奈緒のことで、元気ないから」

「そうだな……こないだも電話したけど、元気なかったな、あいつ。でもさ、これだけは──本当のことだから、言うけど」

 私が相槌を打ってから、牧原君は少し間をとった。

「あいつ、メールとか電話で、いつも夕菜ちゃんの話するんだよ。僕と別れてから寂しそうだとか、奈緒ちゃんがいなくなって辛そうだとか……自分だって、悲しいはずなのに。それだけ、あいつの中で夕菜ちゃんの存在が大きいんだと思う」

「それで、牧原君は……弘樹に私の支えになれ、って言ってくれたんだ……ありがとう」

 弘樹は『あいつの考えてることわからねーな』って言ってたけど。本当に、わかってないのかな。

 牧原君が単に、代わりになれ、って言ってるんじゃないってこと。

 私がいま実際に相談できるのは、弘樹のほかに琴未しかいない。

 琴未は弘樹の代わりにはなれないし、奈緒の代わりでもない。

 弘樹が私を助けてくれたら、今までより仲良くなれる。

 そのうち、私も牧原君への気持ちが本当にふっ切れて、弘樹に打ち明けられるかもしれない。

 弘樹も、牧原君の勘が当たってれば、言ってくるかもしれない。

 牧原君は優しすぎたけど、弘樹だって、本当は優しい。

 私と話すときは変なことばっかりだったけど、奈緒と話すときは、いつも奈緒を優先していた。

 そんなことは──最初から、知ってる。

 だから、私も弘樹を好きになった。

 牧原君の勘が本当だったら……どうするべきなのかな。

 やっぱり、私は──。

「一応、覚えとくよ。弘樹のこと」

 まだ、奈緒のものは奪えない。

 弘樹がまだ落ち込んでるように、私もすぐに変えられない。

 それに、牧原君の勘。勘だよ、勘。

 弘樹が、そんなわけ……ないよ。たぶん。

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