48.想い出の場所

 夏休みの間、私は勉強に集中した。

 アルバイトは元々していなかったし、受験生だから遊んでる暇もない。

 妹の春美がときどき、「友達のお姉ちゃんがまた木良って人に──」なんて話をしてるけど、章人が弘樹の味方をして「あいつには近付くな」と言ってくれてるらしい。

 7月下旬は、学校の補習授業で。

 8月も、学校が開放されてる日はなるべく登校した。

 もちろん家でも勉強したけど、わからないところを教えてくれる先生は学校にしかいない。

「このまま頑張れば、志望校、受かるかもね」

 担任の言葉に希望をもらって、過去問もほとんど解いた。

 自習室の常連だったと思う。

 もちろん、私みたいに毎日来てる生徒は他にもいて、琴未も弘樹も一緒だった。時間は決まっていないし待ち合わせもしなかったけど、いつも最後まで勉強した。

「夕菜は、どこの大学受けるの? 弘樹と同じところ?」

「ううん。ほとんど女子大」

 それは、高校を卒業したら、弘樹と会うことがほとんどなくなる、ということ。

 もちろん、女子大だから、男の子との接触自体、少なくなる。

 新しい彼氏が欲しいのは事実。

 でも、弘樹のことも忘れられない。

 だったらいっそ、いなくてもいいかな、とも思う。

「いないのは寂しいよ? 彼氏の存在がどれだけ心強いか、夕菜は知ってるんでしょ?」

「うん……でも……」

「いったん、木良のことは忘れたら? サークルとかバイトとか、出会いはいくらでもあるんだから」

 牧原君のことは、もう忘れる。

 もちろん、存在自体は覚えておくけど、男の子としては気にしない。

 同じように、弘樹のことも忘れ──られるのかな。

 高校に入って、最初に仲良くなった人。

 本当は、私と友達の奈緒に興味があった人。

 その後、一緒に過ごすようになった人。

 奈緒の最初で最後の彼氏だった人。

 そして──私も、大好きな人。


 なんとなく弘樹とは顔を合わせられなくて、8月のお墓参りは一人で行った。偶然、日曜だったから、学校にも行ってない。

「なんだ、来たのか」

 声のほうを見ると、弘樹がお墓から出てくるところだった。

「うん……弘樹は、もう済んだ?」

「ああ。そういえば、昨日、牧原からメールが来て……連絡欲しいって言ってたぞ」

「なんで? もう……」

 もう、別れたのに。

 でも喧嘩じゃないから、私に直接、連絡くれても良いのに。

「詳しいことは知らねーけど。じゃあ、またな」

 弘樹はそのまま、自宅のほうへ歩いて行った。

 ここで弘樹に会う可能性は考えなかったわけじゃないけど、一緒に行くことにならなくて良かったな、と思う。

 もちろん、お墓参りには問題ない。

 でも私は、奈緒と2人で話がしたかった。

 本当は、弘樹が好きなんだよ。

 でも奈緒のものを奪いたくないから、黙ってたんだよ。

 途中で嫌になったけど、最初は、奈緒に彼氏が出来て、嬉しかったんだよ。

 牧原君は、そんな私の気持ちを全部わかってて。

 全部を知ってて、慰めてくれて。

 そんなことは──奈緒と弘樹には言えなかった。

 幸せそうな2人を、悲しませたくなかった。

 そして──奈緒がいなくなって──。

 私はやっぱり、弘樹のことが好きなままで。

 でも、奈緒のものだから、奪いたくなくて。

 でも……留学した牧原君とは、別れを選んだ。

 本当に、どうしたらいいんだろう──。


 お墓参りを済ませてから、奈緒との想い出の場所に行った。

 幸せは──私のところに来てくれるのかな──。

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