第580話 恐怖の先で死を望ませる


小僧を殺す準備はできていた、だが主は更に準備を重ねるように命じてきた


レギオンを操る事のできる唯一の死霊術師であるフレン老、異界を作り出せるガルーシャ、そしてこの俺様の三人だけでも十分すぎるはずだった


だが主はザウスキアのみならず、これまでに死んだアンデッドの神官とザウスキアの神官全てを使い潰して勇者を召喚した


一撃で首を落とすつもりだったってのに初撃を外された


主には速やかに終わらせるように言われていたがあれだけムカついていた勇者が目の前にいるんだ


本気の一撃だったが一撃で終わってしまうなんてもったいないと胸の内で思ってしまう



山崩れを固めて出してくるなんて本当に驚いた



ザウスキアの何処かにいたという預言者を連れて行った英雄共


でなければ勇者とは言え完全に無防備な小僧を殺せないなんてありえない


距離を取って床を落とし、古より存在する化け物も落とす


いくつもの国を潰し、聖域を腐らせたレギオン


どんなものでも奴を滅することは出来ず、神ですら腐らせたレギオン・・いくら勇者でも一瞬では対処できないだろう


もっと俺が前に出てその肉を刻みたいところだが・・まぁもう小僧は逃げられない



小僧の顔が心地よい


幼い少年が苦しんでいくのを見るのはとても良いものだな


これだけ手間を掛けたからこそ、楽しめているのかもしれないな・・だが俺様が楽しむのもいいが用意した駒を使わないのもな




「<レアナー様!ここに力を!!>」


「させっかよ!」



落下に合わせてガルーシャに転移させ斬りかかった


レギオンに向かって剣を受けた小僧を弾き飛ばす


ここには加護の力は届かないが、やつの中に神がいれば厄介になる


レギオンに飲み込まれた小僧は勢いをそのままに底に落ちた



なにかの道具を出した小僧が何かを撒いて・・・激しい音と光で目を焼かれた



ダッガ!キィィィィィィィィィイインッ!!!



激しく光と音が穴の中を鳴り響いた



「くぁっ!!?」


「何じゃ?!目がぁっ!!」


「目がっ、あぁこのガキっ!!!」



後ろに下がって小僧から距離を取る


何の魔導具かしらんが自爆か?!


目と耳が激しく痛む、何だこれはっ!??



「ぎっ!!?」



痛む目にはかなりムカついたが穴の下で待っていた上位アンデッドに刺されて声が漏れた小僧



預言者が未来を教えているのなら、勿論俺達にとって不都合な戦い方をしてくるはずだ


何かしらの方法を用意しているのなら俺様たちも負けるかもしれない・・だからこそあらゆる手を使って殺す



体ごと後ろから持ち上げられた小僧はこのまま死ぬかもと思ったがなにかの魔法で死霊とレギオンを大きく削り取った



「いいなぁ諦めない心ってのはよぉ・・だが、やらせるかってんだ!」



小僧の落ちた先、その周囲には俺の部下や追加の魔族精鋭、そしてフレン老がレギオンに取り込まなかった上位アンデッドが揃っている


ドラゴンゾンビ、キマイラゾンビ、過去の英霊の成れの果てまで・・・


わずか一人に対して、ここまでの過剰な戦力が必要なのかとも疑問に思う


これだけいれば他の氏族王を全員倒せるだろうし、人間どもだって全滅させられるだろうに



下にいた魔族の目はまだ使えてないようだ


俺様もまだ目があまり見えていないが切り込む



「そらそらそらそら!!お前の生もここまでだ!!恐怖しろ!何も残せず、誰にも知られず穴の底で無惨に殺され、その魂を汚され痛め続けられることに恐怖しろっ!」



こいつ、俺が斬った左側が認識できていないな、だがなかなかにしぶとい



「死んでも痛め続けてやろう!産まれてくるんじゃなかったと呪うまでな、ちっ!フレン老!!!」


「下るんじゃ!!!」



2合、3合と剣をあわせ、もう次の一撃で決まりそうだったのだがレギオンが俺様ごと食おうとしてきやがった



「ヴモオオオオオオオオオオオオ!!!」



突っ込んでいったミノタウロスに降りかかるレギオン


レギオンの声は俺たち魔族には届かないように魔導具を使っている、普通の英雄であっても怨嗟の声はとんでもない負担になる


なのにあれに近づき、声を聞き、傷つけられているのによくもまぁ生き残っている


本物の強者である元杉洋介に歓喜する



「魔族の王が一人、恐怖公コーヴァニアフだ!!恐怖してくれよなっ!!!」



ここまで死から抗おうとする元杉洋介・・・本当に、本当に気に入った!!


そのちっぽけな身体で、既にズタボロ


息をきらせて全身全霊で迫りくる明確な死から抗っている


ここには逃げ場もない、神の加護も届かない



「<恐怖しろ!死に恐怖し、生に恐怖し!安息の暇もなく常に恐怖しろ!!!>」



呪言を撒いて、魔族に混じってたまに斬りかかって愉しむ


ガルーシャは結界の維持、フレン老はアンデッドの操作、そして俺は魔族を率いて潰すこともできるが・・あぁっ勿体ない


主は速やかに殺すように言うし、これはこれで本気だ


だというのに、なかなかにこの小僧はしぶとく、それでいて素晴らしい



世界を救ったと勘違いしていた少年が必死に戦っている


さっさと殺そうとしているのになかなか死なない


元気に死から抗おうという子供、その顔が死に際に恐怖にゆがむのが本当に楽しみだ



俺様が斬った場所、そこ以外すぐに治っていく


レギオンやフレン老のお気に入りのアンデッドには近づくだけで腐りかねないというのに見る間に治っている



「<産まれてきたことを後悔するほどに恐怖し続けろ>」



壊しても壊しても壊しきれない玩具、大好きだ


本気で殺そうとしているのに、致命傷だけは避けて攻撃してくる


肩と腰も軽く斬った


死んでいてもおかしくないほどに呪われているはずなのに、その目からは光が失われていない



何を考えているかは知らないがこいつが絶望に歪んだ顔が見てみたい


生を懇願し、哀れにも床に這いつくばってほしい



体中から出してくるクラーケンのような布、なかなかに面白い


生き物のように武器を持ってこちらの命を狙ってくる


英雄であった獣人のアンデッドの槍が足を突き刺したが痛みなどないかのように無視し、獣人のアンデッドを斬って、そのまま自分の足を切り落とした


足はすぐに結晶化し、激しく爆発した


良くも足を切り落とせるなと思ったが、煙がなくなると足はすぐに生えていた


爆発でレギオンと周りのアンデッドは大きく削れ、何体か崩れていった



「なんて・・ふざけよって!」


「レギオンを後退させて落ち着かせろ、操作が甘くなってるぞ」


「すまんの」



蠢くレギオン、あれに痛みがあるのかは分からないが大きく蠢いて壁を破壊し、魔族を何人か食ってしまった


レギオンの激しい鳴き声で数人倒れているし、フレン老にも制御しきれていない



「ははは、はははははは!!!いいなぁ小僧!!恐怖公が命じる!俺様の屈強たる精鋭共よ命を賭して勇者を殺せ!!」


「「「「「<おぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!>」」」」」



杖を俺様に向けてくる小僧、挑発してるようだったがそれには乗らんよ


俺様ももっと楽しみたいし乗ってみたくはあるところだがレギオンへの警戒も必要だ



「<楽しいなぁ小僧!お前のような存在が恐怖に落ちるのが大好きだ!!畏れよ!恐怖し、絶望して呪え!産まれてきたことを!ここにいることを!全てを呪え!!!>」



聞こえているのかいないのか、魔族の精鋭たちと激しく戦って、飲み込まれていく小僧


すぐに死ぬかもしれない、だができれば見せてほしい


生の輝きを、死への絶望を


藻掻いて、苦しんで、呪って、全てに後悔し、取り返しがつかないことに絶望していくその顔を、絶望に歪んだその魂が穢れていくのを見せてほしい


そして死を渇望して欲しい


同時にどれだけ遊んでも壊れない玩具であってほしい


弟は生きたまま苦しめることを好むが、俺は恐怖して死んで行くのが大好きだ


・・・あぁ、弟のことは悪くは言えないな



「<何も遺せずに死ね!悔いだけ遺して死ね!絶望の果てに死ね!!貴様の親も兄弟も殺してやろう!!生きたまま生皮を剥いで永い年月をかけて虫に食わせてやろう!!お前と関わったばかりにお前の大切なものは地獄に堕ちる!!あぁ!お前の首を掲げて見せて!!その顔を歪ませるのが楽しみだ!死んでからも永遠に恐怖し続けろっ!!!>」

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