第581話 やれることをやるだけ


迫りくる魔族、一人ひとりがものすごく強い


増え続けている魔力で無理やり障壁を固めて戦う


魔法も一瞬で発動するわけではない


杖を使えば無詠唱で発動するとは言え、それぞれの魔法にそれぞれの魔力を必要量操作して使わないといけない



ギャリィッ!!



大きく爪で引っかかれたが【障壁】で防ぐ


魔族は人から産まれたものもいるし、瘴気で身体が大きく変質したものもいる


魔族だけではなく、周りのアンデッドに首領でありそうな恐怖公という魔族にも警戒しないといけない


レギオンは大きく削ってから使役している老人が手間取っている


あれは世界にとっての災厄だ


逃げようにもあれがいれば逃げられないだろう、最低でもあれだけは倒したいところだが



手榴弾をいくつものつなげたもののピンを脱いて投げ、防御力任せに魔族を屠る


魔族たちにはまだ目が眩んでいるのか足取りがおぼつかないものもいる


激しい爆発の中を駆け抜けて、的を絞らせないようにする



目や耳の良い魔族にはスタングレネードの束はたいそう効いたのだろう、耳から血を流しているものもいるし頭を抑えてしゃがみ込んで何が起きているかもわかっていないものもいる


今のうちに数を減らしておきたい



催涙ガスも使いたいが、ガスマスクを付ける暇もない


一度肺に入り込んでしまえば治すのに集中が必要になる


レギオンが上にいるし高くは飛べない、襲いかかってくる魔族に対して股下を転がって足首を切る


倒れそうになる魔族に伸ばした捕縛布を巻いて力の流れを利用して投げ飛ばし、他の魔族に当てる


左目がズグズグと痛むし、左側の音が聞こえない



捕縛布に隙を見て武器を持たせていく


ミルミミスの角でできた魔導具、白い聖なる炎を出す杖、緊急時用のスタングレネードと催涙手榴弾をいくつも繋いだもの、そして数本ある聖剣に聖なる盾


どの魔族も一筋縄ではいかないし、スタングレネードで弱っているうちに倒してしまいたいが恐怖公や爆弾もスタングレネードも聞かない上位アンデッドも襲いかかってくる



キュカッ!!


「ぐっ?!」


エルフの死霊に魔族ごと射掛けられた


頭に当たる軌道だが捕縛布を叩きつける


風の魔法がかかっていたのか叩き落とせず、膝に少しあたったが障壁で逸れてそのまま後ろの魔族に刺さった


衝撃だけは伝わって来たが無視して他の魔族の背に横向きに踏みつけるように飛びこんで足場にし、そのまま背に剣を差し込む


左に気配、捕縛布を3枚展開しつつ右に大きく飛んで逃げる、膝が少し上手く動かない



「はぁっ!はぁっ!」


「息が切れてるなぁ!もっとだ!もっと死までの輝きを見せてくれぇ!!」



なんとか恐怖公の攻撃を避けたと思ったのに、足の甲に、剣が振り下ろされた


痛みで目の奥までちかつくが考えるよりも先にミルミミスの魔導具で雷を吐き出した



「ぐぁっ!!?」



ミルミミスの杖が壊れるかという寸前まで魔力を込めた


周りの魔族もしびれたのか動けないでいる、当然恐怖公もだ


後ろの捕縛布で大きく踏み込み、片手持ちの聖剣で首筋に斬りつける



「兄上、危ないですよ?」


「あ、ぶねぇ、助かった!」



恐怖校の首を切り裂けそうだったのに、よく似た魔族が割って入ってきた


恐怖公は後ろに後退し、周りのアンデッドが突っ込んでくる



「<聖なる炎よ、哀れなアンデッドに静寂なる死の救済をっ!!>」



聖なる炎と雷を撒き散らすがゴブリンキングがワータイガーとともに突進してきた



「<ギギャギャギャギャ!!!>」


「<グルゥォォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!>」



鎧で雷が弾かれている


魔族もそれぞれ何かしらの魔導具を身に着けているのか、効果があまりなかった


それでも完全に効いていないわけではない


下がりながら思い切り魔力を込め、杖を使った魔力剣でゴブリンキングの喉を串刺しにしたが機敏なワータイガーに地面に叩きつけられた



「は・・かっ!」



爪が肩に食い込む


障壁で刺さりはしなかったが押しつぶされた衝撃で肋骨が折れて肺に刺さった


肩と腰、顔を斬られた箇所のほうが痛む



「<お久しぶりです、勇者元杉>」



斬りかかることの出来ない位置に恐怖口によく似た白衣の男が話しかけてくる


ワータイガーにのしかかられたまま声のする方向を注意する



メギギ、パキャっ・ ・



口にまで血が溜まって吐き出したくなる


のしかかられて更に重みが増し、肋骨が大きく折れた


もう片手で顔に向かって爪を繰り出してきたが股下から通した捕縛布でワータイガーの首の後ろに聖剣を突き刺す



「以前、君のお仲間をぐちゃぐちゃに拷問したものだが覚えてないかね?ほら、ダークエルフの姉妹、あれは傑作だったでしょう?」


「ぺっ・・はぁっ!はぁっ!!」


「一度に苦しめるのは私の主義ではないのだがね?まぁ兄上のためでもある・・<我が神たるマティディッカよ、癒やしの願いを聞き入れ給え!ウェクンダンの契約の元!我が手に六徳の蝶を顕現させよ!>」



白衣の男が何十、何百と蝶を飛ばした


殺したはずのワータイガーが、倒れていた魔族が、起き上がってきた



「治せるのは君だけの特権じゃないんだ・・さぁ楽しませてくれ!ははははは!!!」



ありったけの爆弾を使う


焼夷手榴弾を、スタングレネードを、催涙手榴弾を、C4を、簡単に使えそうなものは全てばらまき、動きの鈍いワータイガーに抱きついて盾にする



「何だ?これは?」



最後に水の魔導具を出してワータイガーごと体を覆い、自分の障壁を限界まで強くする



ボッ――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!







激しい音が聞こえ、全てを吹き飛ばした




辺りは血の海になっているだろう


座ってあたりを見るが、煙が多すぎて見えない


水の膜は弾け飛んでいる


C4爆弾ってのは絶対に至近距離で使っちゃいけないって言ってたけどかなり有効だったようだ


穴の深さは分からないが、ここは閉鎖空間である


相手にはまだ何が起きたかもわかっていないだろう、肩と腰に強い浄化をかけて呪いを吹き飛ばし、足を切り落として治す



「ぐ・・・」



顔の傷も治している途中、敵の気配がして飛び下がった


この呪い、治すのに全身の血が沸騰したかのように痛む



「この、非常識なぁっ!!!」



煙はすぐにはらされた、もう少し治したかったのに


全身に蝶が止まり、見る間に治っていっている魔族


生き残ったものにも蝶が集り、どんどん癒えていっている



カカッ



強い力を感じ、すぐに剣を向けると8本足のスレイプニールのゾンビが、オーガを乗せてっ!!!!???


オーガの持っていた鉄の塊に吹き飛ばされ、エルフゾンビに首筋に矢を射られた


全身がバラバラになりそうだし、首の動脈は裂けたのか血が噴き出る


全てを無視して杖に魔力を載せて【清浄化】をぶっ放す



「無ー駄よ」



いつもなら大きく広がる光が、こんな空間程度すぐに光で満たせるはずなのに、光がどんどん削れて、端で待機しているアンデッドまで届かない



「この空間は私の空間よ、どう?愛しの女神様に見捨てられた気分は?どう?力が削られている気分は!!?」


「・・・・最悪だよ、こふっ!」


「そうか!最悪かぁっ!!!嬉しいわ!!私の両親を殺した勇者様をこうやって殺せるなんてね!!!」



スレイプニールゾンビとオーガはまだ漂っている催涙ガスが効いたのか悶えている


ゾンビでも催涙ガスが効いたのか、それとも【祝福】したからか?


ダークエルフのガルーシャ、魔王の幹部の娘、口元を布で覆って催涙ガスによる毒を無効化している


きっちり耐性をそれぞれに付与して対策している


聖弓を取り出して速射するがガルーシャは姿を消し、代わりに恐怖公が現れた



「そうだ!全ての方法で戦え!!」



破壊不可能なはずの弓で受けたのに弓が壊れた


弾いた手の指を落とされた、こいつには雷が効いたはずだが爆破の衝撃で雷の魔導具は何処かに落としてしまっている



「<何をしようとお前は死ぬ!何も出来ずに死ね!生に恐怖しろ!もう何もできることがないと行き詰まって死ね!絶望して死ね!生を渇望して死ね!恐怖して死ね!>」



砂や岩、武器を出し続けて距離を取ろうとするが、一度こいつに砂を見せたからかすぐに避けては向かってくる



「<お前の誇りを穢してやる!みすぼらしく死んだと!泣きながら小便漏らして命乞いしたと詩にのこしてやろう!死の間際に仲間を売ったと!神を呪って魔族につこうとしたと!!>」




「・・・好きに、すれば、良い」




「<なに?ちぃっ!!>」




魔力剣で肘の先を指を切られたときに入ってきた呪いごと切り落とす


同時に肘の先にまで強く込めた魔力が爆発して一瞬距離を取った恐怖公に祝福したサブマシンガンを片手で持ってうちこむ


貫通力と衝撃力のある弾だそうだけど、いくつか当たったはずなのにダメージは見受けられない


僅かな会話で相手に警戒させて隙を作る



「僕は、僕に、やれることを、やる」



恐怖公を睨みつけ、話す間に全身の魔力を漲らせて武器を確認する


聖剣も残りが少ない


肺に入るガスで呼吸も難しい、訓練のときのように激しく咳き込むようなことがないのは慣れもあるが敵が空気を入れ替えているのだろう


オーガや魔族の一部は激しく悶えている



肺も治し、サブマシンガンを投げ捨て杖を恐怖公に向ける



用意した武器も少ないがまだ勝利の道が残っていないわけじゃない



「仲間がいなくても、レアナー様がいなくても、僕は僕を貫き通す」


「いいね、小僧、いや、勇者・・認めてやるよ、お前は本物だ」



会話で少しでも治して時間を稼ぐ、戦士なら相手が奥の手を持っていることに警戒することはよくある


のってくれて助かる



「恐怖公、何だっけ?」


「恐怖公コーヴァニアフだ、これでも魔族領土の氏族王の一人だ・・名前ぐらい覚えとけよ?あっちでお前が焼いて動けないでいるのが弟、ユーキシアフ、あっちは子爵」



会話しながら目を癒す


激痛で叫びたくなるが悟られてはならない



「僕は元杉洋介、敵の名前なんて覚えとくなんて無駄かなと・・・わかったよコーヴァニアフ」


「様をつけろよ元杉洋介、お前のことは殺した後に穢してやるし貶める・・だが俺様の名前ぐらい覚えろ、地獄でもその名前を忘れるなよ?誇り高いお前がこの名を思い出すだけで震えるほどに恐怖して死ね」


「やだね、コーヴァニアフこそ死んでよ」


「無理な相談だな」



時間稼ぎもここまでか


レアナー様の気配も感じない


時間を稼いでせーちゃんが来るまで持ちこたえられるのか、それともこの空間には来られないのかもしれないのか



だけどやるしか無い



身体が透けて結晶化するほどに限界を超えて魔力を疾走らせる



【神の裁き】は神の力を借りて行うものだけど、これは自分で行う



肉の身体よりも精霊や神に近くなるしできることは増えるだろう



「それがお前の本気か?化け物かよ」


「<本気、以上かな?>」


「そりゃいい、くだらねー仕事かと思ったが最高だよ<全ては主のためにっ>」




敵は強大、数も多い



僕はただ一人・・だとしてもやれることをやるだけだ



片手にクラーケンの核を準備し、片手に杖で魔力剣を出し・・・僕たちはぶつかった

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